14-3-3σタンパク質が腫瘍促進性の代謝リプログラミングを抑制

MDアンダーソン OncoLog 2015年9月号(Volume 60 / Number9)

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In Brief「14-3-3σタンパク質が腫瘍促進性の代謝リプログラミングを抑制」

がん抑制タンパク質である14-3-3σは、がんの増殖を促進させる代謝リプログラミングを妨げることから、がんの代謝を利用した抗がん治療の標的となる可能性があることが、テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの研究者らによる研究で示された。

「すべてのがんは、自らの代謝をリプログラムできるようになることで増殖することがわかっています」と、この研究論文の統括著者であり分子細胞腫瘍学部門の教授であるMong-Hong Lee博士は述べた。「われわれの研究によって、14-3-3σが腫瘍促進性の代謝プログラムを阻止し、逆方向へと動かすことが明らかとなりました」。

乳がん細胞株および乳がん患者から採取した腫瘍と正常な乳房組織を用いて、Lee医師と同僚らは、14-3-3σが細胞内のエネルギー代謝を制御しており、腫瘍形成の助けとなる代謝リプログラミングから正常な細胞を守っていることを発見した。14-3-3σは、がん原遺伝子産物であるMycの分解を促進することで、グルコースの取り込み、解糖系、グルタミノリシスおよびミトコンドリアの生合成を含めた、このリプログラミングに不可欠なプロセスを抑制している。14-3-3σによるこれらプロセスの抑制は、マウス異種移植片モデルにおいても再現された。

それに加えて、14-3-3σの発現が失われることで、腫瘍促進性の代謝リプログラミングが起こることがわかった。さらに、14-3-3σの発現レベルの低さと、実験に用いたサンプルを採取した患者の生存期間の短さとの間に関連性が認められた。

「14-3-3σ発現レベルが、乳がん患者の全生存期間、無再発生存期間、腫瘍のグルコース取り込み、および代謝遺伝子の発現を予測する助けとなります」と、Lee医師は述べた。

14-3-3σとがん代謝の、この関係は、腫瘍の増殖を防ぐことに利用することができる可能性がある。腫瘍形成における14-3-3σの複雑な役割については、まだ十分にわかってはいないが、この研究結果から新たながん治療法が考案される可能性がある。「腫瘍において14-3-3σの機能を薬理学的に亢進させることが、将来、がん代謝を標的としたがん治療法の開発の有望な方向性となるかもしれません」と、Lee医師は述べた。

この研究結果は、Nature Communications誌の7月号に掲載された。

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翻訳担当者 田村 克代

監修 石井 一夫 (ゲノム科学/東京農工大学)

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