乳がんサバイバーはがんのない女性よりも高い確率で体重が増加する

ジョンズホプキンス大学

~ 要点~
本試験の開始から5年以内に化学療法を完了した女性は、試験期間中にがんのない女性の2.1倍の確率で11ポンド(約5㎏)以上の体重増加が認められた。

今回のジョンズホプキンス大学の試験によって、化学療法ががんサバイバーの体重増加を引き起こす可能性があるという新たな証拠が加えられた、とVisvanathan氏は述べたが、なぜ化学療法がこのような影響を及ぼすのかは不明である。


ジョンズホプキンス・キンメルがんセンターの研究者らによる前向き試験によると、BRCA1およびBRCA2遺伝子変異を有する女性を含む乳がんの家族歴がある乳がんサバイバーは、4年間で、特に化学療法を受けていた場合にがんのない女性よりも体重の増加量が多かった。
 

過去の試験データでは、体重が増加した乳がんサバイバーはがんが再発するリスクが高い可能性があることが示唆されており、11ポンド以上の体重増加は高い心血管疾患発症リスクにも関連する、と研究者らは述べる。

本試験のために、研究者らは乳がんまたは卵巣がんの家族歴を有する女性を対象とした、キンメルがんセンターで進行中の長期試験に登録した乳がんサバイバー303人およびがんのない女性307人が試験開始時および4年後の追跡調査時に回答した質問票を再検討した。試験参加者は、2005年から2013年の間に試験開始時と追跡調査時に1回以上質問票に回答した。被験者の4分の1は閉経前であった。

4年の間に、サバイバーはがんのない女性と比較して、平均3.6ポンドと有意に体重が増加した。試験期間中の最後の5年間でがんと診断されたサバイバー180人のうち、4年間で11ポンド以上増加したのは37人(21%)であったのに対し、がんのない女性では307人中35人(11%)であった。この体重変化の結果は、加齢、閉経期への移行、身体活動レベルなどの体重増加に関連するその他の要因を考慮しても同じであった、と研究者らは述べる。

「われわれの試験により、化学療法がサバイバーの体重増加に関与する要因の一つである可能性があるということが示されています」と、Kala Visvanathan氏(MBBS、MHS、ジョンズホプキンス・ブルームバーグ公衆衛生学部疫学准教授、キンメルがんセンター臨床遺伝学予防医療科所長)は述べる。本試験の開始から5年以内に化学療法を完了した女性は、試験期間中にがんのない女性の2.1倍の確率で11ポンド以上の体重増加が認められた。

「一般集団に対し、高い乳がんリスクを有する女性を含む乳がんサバイバーの体重変化を比較したデータは限られています」とVisvanathan氏は述べる。「多くの試験では乳がんサバイバーのみに重点を置いています。そのため、がんのない女性は多かれ少なかれ体重が増加するのかどうか、または体重増加が乳がんによるものなのか、その治療によるものなのか分かりません」。

Visvanathan氏らによる本試験の結果は、Cancer Epidemiology, Biomarkers & Prevention誌7月15日付の電子版で報じられた。

研究者らは、診療記録と併せて被験者による詳細な質問票の回答から得た情報を使用し、年齢、閉経状態、身体活動、BRCA遺伝子でのがん関連変異の有無、試験開始時の体重などの要素を調整し、サバイバーとがんのない女性における体重増加を比較した。

研究者らは、BRCA1またはBRCA2遺伝子変異を有する女性を含む乳がんの家族歴または遺伝的素因のある乳がんサバイバー群303人およびがんのない女性群307人において、体重過多の発生率が高いことも発見した、と述べる。肥満予備群または肥満の女性は、サバイバーで46.9%、がんのない女性で55.1%であった。

加えて、試験開始時の体重測定の前5年以内に診断され、浸潤性乳がんおよびエストロゲン受容体陰性がん細胞を有する乳がんサバイバーは、がんのない女性と比較して平均7.26ポンド(約3.3kg)体重が増加した。

化学療法を受けている乳がんサバイバーでスタチンを服用していた場合は、スタチンを服用していたがんのない女性や、コレステロール阻害薬を服用していなかったサバイバーやがんのない女性と比較して平均10ポンド以上体重の増加量が多かった。

「年齢や閉経状態以上に、がん治療は体重増加と関連しているようです。特に、化学療法を受けていて、エストロゲン受容体陰性、浸潤がんと診断された女性では体重が増加すると考えられます」とAmy Gross氏(MHS、ブルームバーグ公衆衛生学部疫学博士号取得候補者)は述べる。


今回のジョンズホプキンス大学の試験によって、化学療法ががんサバイバーの体重増加を引き起こす可能性があるという新たな証拠が加えられた、とVisvanathan氏は述べたが、なぜ化学療法がこのような影響を及ぼすのかは不明である。化学療法は、炎症やインスリン抵抗性を増幅させ、代謝を阻害し体重増加を引き起こすということを示唆する研究者らもいる。化学療法を受けている患者は、運動不足になる可能性もあり、結果として体重が増加しやすいのかもしれない。

「われわれは、このような体重増加の高さに関連する可能性のある生化学的変化について調べるため、サバイバーおよびがんのない女性の尿中および血中のバイオマーカーに注目しています」とVisvanathan氏は述べる。

研究者らは、これらの女性の体重が長期にわたりどのように変化するのかを評価するため、3年から4年ごとに全試験群の追跡調査を継続する予定である。

Visvanathan氏 は、本試験の限界および長期にわたる追跡の必要性に言及し、「われわれは、化学療法時の体重増加に対し、いかなる介入もまだ推奨していません」と警告する。

「しかし、腫瘍医、内科医、または乳がんの家族歴を有する女性を含む乳がんサバイバーを診療している医師なら誰でも、乳がんサバイバーに長期にわたり体重を管理してもらってもよいのではないでしょうか」とVisvanathan 氏は付け加える。

今回の試験では、被験者の大多数は白人であり、その他の民族的背景の女性に対してこれらの試験結果を応用するには限界がある、と研究者らは述べる。本試験では自己報告による体重に依存しているため、バイアスやエラーが生じやすい可能性もあるが、研究者らは、試験参加者の一部で自己報告体重と実測体重に高い類似性があることを明らかにしている。

本試験は、乳がん研究基金および米国国立がん研究所により資金援助を受けた(T32 CA009314, P50CA098252, P30CA006973)。

その他の本試験に貢献したジョンズホプキンス大学の研究者は以下のとおりである。Betty J. May, Jennifer E. Axilbund, Deborah K. Armstrong and Richard B.S. Roden.

翻訳担当者 生田 亜以子

監修 野長瀬祥兼(腫瘍内科/近畿大学医学部附属病院)

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