脳転移病変が小さく数も少ない患者では全脳照射の追加によるリスクがベネフィットを上回る

この要約には、抄録にない最新のデータが記載されています。

ASCOの見解
ASCO専門家Brian Michael Alexander医師
「本試験は、現在と将来において何千人という患者さんに対する治療を決定する際に役立つでしょう。われわれは医師として患者さんに最善を尽くしたいと考えており、時として、治療を減らすことでより良好な転帰が得られることがあります。定位手術的放射線治療を受けた患者では、全脳照射を追加実施するかをベネフィットとリスクや副作用を考慮して検討する必要があり、本試験はこのバランスを明らかにする一助となります」。

米国連邦政府が資金提供した第3相試験の結果から、全脳照射(WBRT)の追加が認知機能に及ぼす影響に関する長きにわたる議論に対して新たな情報が提示される。1~3個の小さい脳転移病変を有する患者において、定位放射線治療後に全脳照射を受けた患者が認知機能低下を呈する可能性は、定位放射線治療のみを受けた患者より高かった。また、全脳照射を実施することで、脳転移病変の増大は制御されたが、生存期間は有意に延長しなかった。

米国では毎年、新規に診断されたがん患者のうち65万人に脳転移がみつかる。このうち20万人以上の患者が、疾患経過のいずれかの時点に、全脳照射を受ける(術後療法や救援療法、終末期治療として)[1]。

脳転移病変が小さく数も少ない患者は、定位放射線治療を受けることが多い。定位放射線治療とは、脳腫瘍部位にきわめて正確に照射する放射線療法の一種である。従来の手術で脳転移病変を除去できるのは、選択された少数の患者だけである。

「われわれは、当初は全脳照射を行っていましたが、今では全脳照射による有害事象が脳腫瘍の増大や再発のリスクを上回ることを知っています」と、本試験の総括著者で、メイヨークリニック(ミネソタ州ロチェスター)腫瘍科教授のJan C. Buckner医師は述べた。「われわれは、救援療法や末期患者さんのための緩和ケアまで全脳照射を残しておくように診療はシフトしていくと予想しています」。

本試験において、213人の患者を定位放射線治療のみを受ける群または定位放射線治療後に全脳照射を受ける群に無作為に割り付けた。全患者が1~3個の小さい脳転移病変(最大径3 cm以下)を有した。3カ月時点で、定位放射線治療+全脳照射群において認知機能低下を示した患者の割合は、定位放射線治療群より高かった(92% 対 64%)。

特に、定位放射線治療+全脳照射群における短期記憶(30% 対 8%)や長期記憶(51% 対 20%)、言語コミュニケーション(19% 対 2%)の機能低下は定位放射線治療群より顕著であった。本試験で得られた生活の質(QOL)に関するデータは、解析がまだ終了していない。全生存期間(OS)の群間差は統計学的に有意でなかった。

本試験の著者によると、脳転移はがん診療でよく遭遇する合併症であることから、本試験の知見はがん診療に幅広い影響を及ぼす。黒色腫(メラノーマ)や肺がん、乳がん、大腸がんでは、脳転移が特によく認められる。膀胱がんや腎臓がん、婦人科がんを有する患者も脳転移がみられることがある。

Buckner医師は以下のように述べた。追加全脳照射は脳転移病変を切除した(外科的に取り除いた)患者に対する治療選択肢であり続けているが、実施中のNCCTG/Alliance試験(脳転移病変を切除した患者を対象として全脳照射と術後腔への定位手術的放射線治療とを比較する試験)から今後得られる結果に基づいて、いずれの治療法がより有用であるかが最終的に決定されるだろう、と。

本試験は、米国国立衛生研究所(National Institutes of Health、NIH)から助成を受けた。

1. Rapp SR, Case LD, Peiffer A, et al. Donepezil for Irradiated Brain Tumor Survivors: A Phase III Randomized Placebo-Controlled Clinical Trial J Clin Oncol 33:1653-1659, 2015.

翻訳担当者 永瀬 祐子

監修 河村 光栄(放射線腫瘍学・画像応用治療学/京都大学大学院医学研究科)

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