HER2陰性進行乳癌治療に関する新ガイドライン

米国臨床腫瘍学会(ASCO)はHER2陰性進行乳癌女性患者に対する化学療法および分子標的治療に関する新規診療ガイドラインを発表した。このガイドラインでは、さまざまな治療法の有効性と副作用に関し、科学的に実証された根拠に基づく詳細な情報が提供されている。

「このガイドラインの発表での私たちの目標は、乳癌患者の寿命の延長と生活の質の改善です」と、Ann H. Partridge医師(公衆衛生学修士、このガイドラインを作成したASCO専門家委員会の共同議長)は述べた。「化学療法の中で絶対的なものが無いとはいえ、このガイドラインは、どの治療法が患者にとって最も忍容性と利便性が高いのかに基づいて、医師や患者が最適な治療法を選ぶのに役立つでしょう」。

進行乳癌患者の約80%はHER2陰性であり、HER2陰性乳癌患者は腫瘍内のHER2タンパク質の量が正常値を示すので、HER2標的治療の対象にならないことを意味する。この新しいASCOガイドラインは、化学療法レジメンを始めようとしているHER2陰性乳癌患者に対する全身的治療の選択肢を評価している。

「多くのさまざまな種類の治療法が使用可能ですが、不必要に毒性を示すものもあります」と、Ian E. Smith医師(このガイドラインを作成したASCO専門家委員会の共同議長)は述べた。「このガイドラインでは、患者の生活の質を保てる低い強度の治療法であっても、多くの乳癌はコントロールできることを強調しています。患者は自分自身の治療法の決定に参加すべきです。また、できるならいつでも臨床試験に参加するよう奨励されるべきです」。

このガイドラインでは、以下を提示し推奨する。

•すぐに生命に関わる病態がある場合やホルモン療法耐性への懸念がある場合を除き、ホルモン受容体陽性進行乳癌女性患者に対する標準的一次治療として、ホルモン療法を提供すべきである。
•副作用の軽減と生活の質の維持を目的として、さまざまな化学療法薬を通常は併用投与するよりむしろ、逐次投与すべきである。
•最適な化学療法は単一ではないので、医師と患者は前治療、副作用、投与日程、他の慢性疾患(例.心疾患)、および患者の優先順位を考慮しながら、一緒に治療法を選択すべきである。
•すぐに生命に関わる病態または重篤な症状がある場合にのみ、ベバシズマブを単剤化学療法と併用することを考慮すべきである(ベバシズマブは一部の患者で腫瘍縮小と増悪遅延が示されているが、全生存期間を延長しない。また、米国では乳癌の治療薬としては米国食品医薬品局(FDA)による承認を受けていない)。
•化学療法に追加して、または、その代用として、他の分子標的薬を使用すべきではない(早期のホルモン受容体陽性乳癌が未だにホルモン療法に反応することもある場合、分子標的薬エベロリムスはその乳癌患者に対して、ホルモン療法薬エキセメスタンとの併用が承認されている)。
•早期に緩和ケアを開始し、一連のケアを通して提供すべきである。
•進行乳癌に対して完治を目指すことができる治療法は現時点では存在しないが、医師は全ての適格患者に臨床試験に参加するよう、また、有望な治験薬から潜在的な利益を得るよう奨励すべきである。

ASCO専門家委員会はこの 診療ガイドラインを作成するために、1993年~2013年5月に発表された関連医学文献を論理的かつ系統的に再検討した。この再検討により、HER2陰性進行乳癌女性患者に対する治療法に関し、系統的総説やメタ解析20件、ならびに、ランダム化臨床試験59件が検討された。

このガイドライン「HER2陰性(または不明の)進行乳癌女性患者に対する化学療法および分子標的治療:米国臨床腫瘍学会診療ガイドライン」は2014年9月2日に、Journal of Clinical Oncology誌に発表された。

翻訳担当者 渡邊岳

監修 高濱隆幸(腫瘍内科/近畿大学医学部附属病院)

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