次世代PARP阻害薬サルパリブ、相同組換え修復不全乳がんで臨床的有用性を示す

PARP1に対する選択性が高く、安全性と忍容性が向上

ポリADP-リボースポリメラーゼ(PARP1)の選択的阻害薬であるsaruparib[サルパリブ]が、特定の相同組換え修復(HRR)欠損を有する乳がん患者に対して有望な客観的奏効率と無増悪生存期間を示した。この結果は第1/2相PETRA試験によるもので、4月5日から10日まで開催された米国癌学会(AACR)2024年年次総会で発表された。

HRR欠損腫瘍のDNA修復を阻止するには、酵素PARP1を阻害すれば十分である可能性があるが、現在、米国食品医薬品局(FDA)に承認されているPARP阻害薬はすべてPARP1とPARP2の両方を阻害するもので、その毒性により実用が制限されることがある。今回研究を発表したテキサス大学MDアンダーソンがんセンターのがん治療薬研究部の教授で、治療開発部門の副部長兼臨床開発責任者であるTimothy A. Yap博士(医学士)はそう説明する。

「第一世代のPARP阻害薬の開発時には、その毒性のため、ある閾値以上に投与量を増やすことはできませんでした」と同氏は言う。「選択的PARP1阻害薬を設計することは、安全性、忍容性、薬物動態、薬理学作用、有効性、他の治療との併用性を向上させる非常に良い機会です」。

PARP1特異的阻害薬であるサルパリブは、HRR欠損を有する乳がん、卵巣がん、膵臓がん、前立腺がんの前臨床モデルにおいて、有望な腫瘍増殖抑制効果を示した。サルパリブは他のPARP阻害薬に比べて毒性が低かったため、高用量で投与することが可能であった。

「サルパリブの特性により、薬物動態学的には高レベルな曝露、薬力学的にはターゲットエンゲージメントを得られることになります」と同氏は述べた。「つまり、投与の中断や減量が少ないと、最適な用量を、より長期間維持することができるため、最終的には有効性が向上する可能性があるということです」。

PETRA試験は、サルパリブの安全性、忍容性、有効性を評価する多施設共同第1/2相試験である。対象は、HRR欠損を有し治療歴のある、乳がん、卵巣がん、膵がん、前立腺がん患者306人(用量漸増期ではPARP阻害薬による治療歴1回以下の患者、用量拡大期ではPARP阻害薬による治療歴がない乳がん患者を含む)。患者は腫瘍に、5つのHRR遺伝子、BRCA1、BRCA2、PALB2、RAD51C、RAD51Dのうち、いずれかに変異があった。

サルパリブは、1日10〜140mgの用量で投与が行われた(臨床展開での推奨用量は1日60mgとなった)。サルパリブ60mgによる治療を受けた乳がん患者31人において、客観的奏効率は48.4%、奏効期間中央値は7.3カ月、無増悪生存期間中央値は9.1カ月であった。

60mg投与されたすべてのがん種患者141人のコホートでは、92.2%の患者に有害事象がみられ、12.1%の患者に重篤な有害事象が発生した。サルパリブに関連する有害事象は患者の76.6%、重篤な有害事象は患者の2.1%に認められた。また、3.5%がサルパリブに関連する有害事象により治療を中止した。

同氏は、重度な治療歴のある患者を対象としたこの第1/2相試験の有害事象プロファイルは、治療歴がない患者を対象とした他のPARP阻害薬の第3相試験の有害事象プロファイルと比較して良好であると指摘した。「サルパリブでは減量率が低く、十分に管理可能な安全性プロファイルを示しています。患者さんは最適用量をより長く続けられるようになり、長期的なベネフィットを得る機会を最大化できると私達は考えます」と同氏は語った。

薬物動態学的な解析によると、サルパリブの血中濃度は、すべての用量レベルにおいて、他のPARP阻害薬で通常観察されるよりも高いまま維持された。分子レベルでは、サルパリブは、生検で採取した腫瘍組織のPARP活性を約90%阻害した。
「優れた安全性と忍容性プロファイルに加え、薬物動態学的および薬力学的特性が良好であることから、患者さんはサルパリブによる治療を継続することができます。最大のターゲットエンゲージメントが持続し、投与の中止や減量が少ないためです」と同氏は言う。

本試験の限界は、単群デザインであることとサンプル数が少ないことである。

本研究はアストラゼネカ社から資金提供を受けた。

開示情報については、原文を参照のこと。

  • 監訳 小坂泰二郎(乳腺外科/JA長野厚生連 佐久総合病院 佐久医療センター)
  • 翻訳担当者 平沢沙枝
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  • 原文掲載日 2024/04/08

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