英国、BRCA陽性の進行乳がんに初の標的薬タラゾパリブ

キャンサーリサーチUK

タラゾパリブ(販売名:ターゼナ(Talzenna))が、英国国立医療技術評価機構(NICE)による推奨を受け、国民保健サービス(NHS)がBRCA遺伝子変異による進行乳がんの治療に用いるはじめての標的治療薬となる。

NICEでは、化学療法の代わりに本治療薬を用いることで、英国で約300人が恩恵を受けると推定している。臨床試験の結果、本治療薬によりがんの増殖をより遅延させることが示唆されている。

本決定は、タラゾパリブを製造しているファイザー社が、本薬剤をNHSに割引価格で提供した後に下された。NICEは当初、コスト面の懸念から本薬剤を推奨しないとしていた。

BRCA変異を有する人々のための新たな選択肢

乳がん患者の約50人中1人は、(米俳優のアンジェリーナ・ジョリーが有していた)BRCA1およびBRCA2の遺伝子変化に関連していると推定されており、この遺伝子変化は家系に遺伝する可能性がある。

BRCA遺伝子とは何か?

すべての人はBRCA(乳がん)遺伝子を有しており、通常この遺伝子はがんを引き起こす可能性がある細胞増殖を抑制する働きをする。ごく少数の人(450人中1人程度)が、本遺伝子と異なるバージョンの遺伝子を有している。この変化は遺伝する可能性があり、細胞の暴走を抑制できないBRCA遺伝子となって、特定のがんリスクを高めてしまう。

1990年代にわれわれの研究者らはBRCA遺伝子発見を助け、医師らはBRCA遺伝子変異によって引き起こされるがんに共通する特徴を標的とする、タラゾパリブのような治療薬を利用できるようになった。初のパープ(PARP)阻害薬であるオラパリブ(販売名:リムパーザ)も、われわれの科学者チームによって開発された。

オラパリブのような薬剤は、早期乳がんではすでに利用可能である。タラゾパリブに関するNICEの決定は、これらの飛躍的な進歩のおかげで、今後はより進行した乳がん患者をも助けることが可能になったことを意味している。

進行乳がんの標的薬

タラゾパリブは、他剤が効果的に標的にしうるHER2タンパクの受容体をもたない細胞を有する進行乳がんへの使用が推奨されている。トリプルネガティブ乳がんなどのHER2陰性乳がんには、それほど多くの治療選択肢がない。

進行乳がんは、治癒が不可能な程度まで増殖または転移しているため、治療の目的は、良いQOL(生活の質)を保ちながらの延命である。HER2陰性乳がんのサブタイプによって治療法は異なるが、化学療法薬剤を直接静脈内に投与することが多い。
 
患者専門家は、この治療法は困難でありかつ患者を疲弊させてしまう、とNICEに述べた。さらに、化学療法を受ける人は多くの時間を病院で過ごす必要があり、通常の生活を送ることが難しくなると説明した。

対照的に、進行したHER2陰性乳がんでBRCA遺伝子変異を有する患者は、タラゾパリブ1日1錠を自宅で服用することが可能である。

タラゾパリブの有効性は?

NICE委員会は、タラゾパリブを各国医師の選択した代替薬と比較したEMBRACA試験のエビデンスに基づいて推奨した。全生存期間は改善しなかったものの、タラゾパリブは他の治療薬よりも長期間、試験参加者のがんの増殖および健康上の大きな問題の発生を抑制した。

医師や患者らは、本試験結果はタラゾパリブが「できるだけ長く、できるだけ普通の生活」を送ることに役立つことが示されているとNICEに述べた。

多くの場合、NHSはタラゾパリブを、別の一種類以上の乳がん治療薬で既に治療を受けている人々に提供することとなる。タラゾパリブは、他の利用可能な選択肢が適切でない場合の最初の治療薬として使用可能となる。

NICEの決定はイングランドに適用され、通常ウェールズと北アイルランドでも採用される。スコットランドでは、NHSで使用できる薬剤を決定するプロセスが異なる。

  • 監訳 小坂泰二郎(乳腺外科/JA長野厚生連 佐久総合病院 佐久医療センター)
  • 翻訳担当者 平 千鶴
  • 原文を見る
  • 原文掲載日 2024/01/25

【免責事項】
当サイトの記事は情報提供を目的として掲載しています。
翻訳内容や治療を特定の人に推奨または保証するものではありません。
ボランティア翻訳ならびに自動翻訳による誤訳により発生した結果について一切責任はとれません。
ご自身の疾患に適用されるかどうかは必ず主治医にご相談ください。

乳がんに関連する記事

HER2陰性進行乳がんにエンチノスタット+免疫療法薬が有望の画像

HER2陰性進行乳がんにエンチノスタット+免疫療法薬が有望

ジョンズホプキンス大学ジョンズホプキンス大学キンメルがんセンターの研究者らによる新たな研究によると、新規の3剤併用療法がHER2陰性進行乳がん患者において顕著な奏効を示した。この治療で...
乳がん術後3年以降にマンモグラフィの頻度を減らせる可能性の画像

乳がん術後3年以降にマンモグラフィの頻度を減らせる可能性

米国がん学会(AACR)  サンアントニオ乳癌シンポジウム(SABCS)50歳以上で、初期乳がんの根治手術から3年経過後マンモグラフィを受ける頻度を段階的に減らした女性が、毎年マンモグ...
早期乳がんにリボシクリブとホルモン療法の併用は転帰を改善:SABCSの画像

早期乳がんにリボシクリブとホルモン療法の併用は転帰を改善:SABCS

MDアンダーソンがんセンターアブストラクト:GA03-03

Ribociclib[リボシクリブ](販売名:Kisqali[キスカリ])とホルモン療法の併用による標的治療は、再発リスクのあ...
転移乳がんの標的となり得る融合RNAは、従来認識より多い可能性の画像

転移乳がんの標的となり得る融合RNAは、従来認識より多い可能性

米国がん学会(AACR)  サンアントニオ乳癌シンポジウム(SABCS)転移乳がんの大規模コホートにおける融合RNAの包括的プロファイリングにより、治療標的となりうる独特な融合変異が明...