転移乳がんの標的となり得る融合RNAは、従来認識より多い可能性
米国がん学会(AACR) サンアントニオ乳癌シンポジウム(SABCS)
転移乳がんの大規模コホートにおける融合RNAの包括的プロファイリングにより、治療標的となりうる独特な融合変異が明らかになった。この結果は、2023年12月5日から9日まで開催されたサンアントニオ乳がんシンポジウム(SABCS)で発表された。
融合変異は、ある遺伝子の一部が別の遺伝子の一部と融合することで発生し、新たな機能を持つ遺伝子産物が生じることがある。融合変異は、ゲノム再構成やDNAの構造的損傷を特徴とするがん(乳がんなど)によくみられる。
「融合RNAは、がん細胞に極めて特異的なバイオマーカーとして働き、がんの進行を促進する独特な機能をもつため、個々の患者に特化したがん特異的標的となる可能性があります」と、Nolan Priedigkeit医師は述べる。ダナファーバーがん研究所とマサチューセッツ工科大学(MIT)・ハーバード大学ブロード研究所に所属する腫瘍内科フェロー兼博士研究員であるPriedigkeit氏は、上級著者のTodd Golub医師(ハーバード大学医学部小児科教授、ダナファーバーがん研究所ヒトがん遺伝学チャールズ・A・ダナ研究員、MIT・ハーバード大学ブロード研究所所長)とともにこの研究を行った。
融合タンパク質を阻害する分子標的療法は、さまざまながん種に対して承認されているが、乳がんにおける融合RNAの発現率と役割については、それほど包括的にマッピングされていない、とPriedigkeit氏は言う。Priedigkeit氏らは、転移性乳がん患者の2つのコホート(患者423人、合計466サンプル)から得られたRNAシーケンシングデータを用いて、レトロスペクティブ研究を行った。上述のシーケンシングデータを5つの融合探索アルゴリズムにかけ、2つ以上のアルゴリズムで同定された高発現の融合RNAで、正常組織には存在しないものを高信頼度がん特異的(HCCS)とした。
今回の研究で、転移性乳がんの約3分の1に高発現HCCS融合RNAが1つ以上あることがわかり、これは、Priedigkeit氏の予測を大幅に上回る割合であった。融合RNAは基底サブタイプの腫瘍で最も多く、ルミナルA型の腫瘍で最も少なかった。
解析の結果、HCCS融合遺伝子を有する患者の64.5%が、OncoKBデータベースでがん関連遺伝子と定義される融合遺伝子を1つ以上有しており、これらの融合遺伝子の一部ががんドライバー変異である可能性が示唆された。この仮説を裏付けるように、融合に関与するがん関連遺伝子で最も多くみられたのは、エストロゲン受容体をコードするESR1であった。Priedigkeit氏によると、この解析により、既知および新規のESR1融合遺伝子が発見され、その多くはホルモン療法中またはその後に発生し、エストロゲン受容体阻害薬との結合部位が失われる結果となった。ESR1融合遺伝子の頻度は、エストロゲン受容体陽性疾患では約5%であった。
さらに、研究者らは、一部にFDA承認の低分子阻害剤が存在する既知のがんドライバーキナーゼが関与するHCCS融合遺伝子を同定しており、おり、それらは治療歴が多く、残された選択肢の少ない患者にとって新たな治療戦略となる可能性があるとPriedigkeit氏は述べた。
「従来のシーケンシングプラットフォームでは検出が難しいために現在の検査基準では見逃されていますが、既存の薬剤の標的となり得る低頻度融合があるかもしれません」とPriedigkeit氏は述べた。「乳がんに作用する可能性がある融合遺伝子を見落とさないためには、最適な検査戦略を理解することが非常に重要です」。
今回の結果は予備的なものであり、さらに研究を進め、これらの融合RNAががんの進行を促進しているかどうかを調べなければならない。Priedigkeit氏らは、融合RNA配列を直接標的とする遺伝子治療技術を用いた革新的な戦略を模索している。
「遺伝子治療革命はもう目の前です。そして、タンパク産物ではなく核酸を直接標的にできるようにする新技術があります」とPriedigkeit氏は言う。「融合RNAが転移性乳がんによくみられるらしいことから、私たちは融合RNAを活用するこれらの新技術の一部を証明しようと複数の共同研究を行っています」。
本研究の限界として、そのレトロスペクティブな性質と、前治療歴の多い転移性乳がん患者に限定して適用されることが挙げられる。さらに、患者コホートは抗体薬物複合体が普及する前に治療を受けており、さまざまな融合遺伝子の発現率が変わる可能性があるとPriedigkeit氏は指摘した。
本研究の情報開示については、原文を参照のこと。
- 監訳 花岡秀樹(遺伝子解析/イルミナ株式会社)
- 翻訳担当者 山田登志子
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- 原文掲載日 2023/12/08
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