HER2陽性の転移乳がんにツカチニブ+トラスツズマブ エムタンシン併用が有益

米国がん学会(AACR)  サンアントニオ乳癌シンポジウム(SABCS)

切除不能な局所進行または転移のあるHER2陽性乳がんに対して、tucatinib[ツカチニブ](米国販売名:Tukysa)とトラスツズマブ エムタンシン(販売名:カドサイラ)(T-DM1)の2種類のHER2標的薬による併用療法は、T-DM1単独療法と比較して無増悪生存期間を延長することが、HER2CLIMB-02試験の結果により明らかになった。本結果は、サンアントニオ乳がんシンポジウム(2023年12月5日〜9日)で発表された。

T-DM1は、トラスツズマブ(販売名:ハーセプチン)と細胞障害性薬剤エムタンシンからなる抗体薬物複合体である。2013年に転移再発HER2陽性乳がんに対する単剤療法として、2019年に早期HER2陽性乳がんに対する単剤療法として承認された。しかし、すべての患者にT-DM1による持続的な奏効がみられるわけではなく、併用療法がこの薬剤の有効性を高める可能性がある、とSara A. Hurvitz医師(ワシントン大学医学部血液腫瘍科教授兼科長、フレッドハッチンソンがんセンター上級統括責任者兼臨床研究部長)が説明した。

HER2の低分子阻害薬であるツカチニブは、他の多くのHER2標的薬とは異なり、中枢神経系の病勢進行を遅らせることが示されている。このような薬剤が脳転移がある患者に大きな効果をもたらすことがある、とHurvitz氏は指摘した。

「HER2陽性乳がんは脳に転移しやすく、転移すると予後は不良です。乳がんの脳転移をうまく管理するための選択肢はほとんど存在せず、治療薬開発が必至とされる領域となっています」。

以前の臨床試験HER2CLIMBでは、HER2標的抗体トラスツズマブと化学療法薬カペシタビン(販売名:ゼローダ)を含むレジメンにツカチニブを追加すると、脳転移がある患者を含め、すでに複数の治療を受けた患者に対して、無増悪生存期間と全生存期間が有意に改善することが明らかになった。この試験により、2020年にツカチニブ、トラスツズマブ、カペシタビンが米国食品医薬品局(FDA)から承認されたが、HER2標的療法の進歩により、Hurvitz氏らはツカチニブをベースとした他の併用療法を検討することとした。

第3相HER2CLIMB-02試験では、切除不能な局所進行または転移のあるHER2陽性乳がん患者463人が登録され、ツカチニブ+T-DM1併用療法を受ける群(228人)とプラセボ+T-DM1併用療法を受ける群(235人)に無作為に割り付けられた。試験開始時点で、患者の44.1%に脳転移があった。

病勢進行または死亡までの期間の中央値は、ツカチニブ群では9.5カ月、プラセボ群では7.4カ月であり、ツカチニブ+T-DM1併用により病勢進行または死亡のリスクが24.1%減少した。開始時点で脳転移があった患者では、病勢進行または死亡までの期間の中央値は、ツカチニブ群7.8カ月、プラセボ群5.7カ月であり、ツカチニブ+T-DM1併用により病勢進行または死亡のリスクが36.1%減少した。追跡期間中央値24.4カ月時点において、全生存期間のデータはまだ揃っていない。

Hurvitz氏は、特定の治療関連副作用、特に肝機能と消化器機能に関連する副作用の発現率は、プラセボ群よりもツカチニブ群の方が高く、ツカチニブ群では用量調節と治療中止の割合が高くなったと指摘した。しかし、このような福作用はモニタリングと臨床的介入によりほぼ管理可能であったことも述べた。

「本研究は、脳転移患者に対する新規全身薬物療法を評価するために前向きにデザインされた、ごくわずかな大規模乳がん試験の一つです。HER2陽性乳がん脳転移患者の転帰改善に多くの関心が寄せられている一方で、全身薬物療法を評価するほとんどの研究は、小規模か、後向きデザインか、または大規模研究の探索的解析かに限られていました」とHurvitz氏は述べた。

本研究の限界には、全生存期間データが成熟していないことがある。さらに、本研究はツカチニブ+T-DM1併用療法を、ツカチニブ+トラスツズマブ+カペシタビン併用療法、あるいは抗体薬物複合体であるトラスツズマブ デルクステカン(販売名:エンハーツ)(T-DXd)を含むレジメンと比較するようにはデザインされていない。

本研究はSeagenから資金提供を受けた。Hurvitz氏は、Ambrx、Arvinas、AstraZeneca、Bayer、Celcuity、CytomX Therapeutics、第一三共、Dantari Inc.、Dignitana、Genentech(Roche)、G1 Therapeutics、Gilead Sciences Inc、 GSK、Immunomedics、Eli Lilly and Company、Loxo Oncology、MacroGenics、Novartis、OBI Pharma Inc.、Orinove Inc.、Orum Therapeutics、Pfizer、Phoenix Molecular Designs、Pieris Pharmaceuticals Inc、 Puma Biotechnology、Radius Health、Sanofi、Seagen、Zymeworksから研究助成金を受領し、McGraw Hill、Sage Publications、Wiley、Wolters Kluwerからロイヤルティを受け取り、Alliance Foundation Trials LLC、Atossa Therapeutics、Quantum Leap Healthcare Collaborativeのデータおよび安全性監視委員会の委員を務め、Vaniam GroupおよびOncLiveから謝礼を受け取っている。夫はROMTechの株主である。

  • 監訳 尾崎由記範(腫瘍内科・乳腺/がん研究会有明病院)
  • 翻訳担当者 ギボンズ京子
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  • 原文掲載日 2023/12/06

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