HR陽性乳がんへの妊よう性温存法/生殖補助医療で再発リスクは高まらない可能性
米国がん学会(AACR) サンアントニオ乳癌シンポジウム(SABCS)
ホルモン療法を一時中断した妊婦患者における妊娠およびがんの転帰を調査した試験
妊娠のためにホルモン療法を一時休止したホルモン受容体陽性(HR+)乳がん患者において、妊よう性温存療法や生殖補助医療(ART)は、3年後のがん再発率に悪影響を及ぼさなかったことが、サンアントニオ乳がんシンポジウム(2023年12月5日~9日開催)で発表されたPOSITIVE試験の結果により明らかになった。
Hatem A. Azim Jr.医学博士(メキシコ、Tecnológico de Monterrey医学部・乳がんセンター、非常勤教授)は、次のように語った。「女性の出産年齢の高齢化に伴い、家庭を築くまでに乳がんと診断される可能性は高まっています。
がん治療を開始する前に妊よう性温存療法を選択したり、妊娠の可能性を高める生殖補助医療(ART)を利用する乳がん患者さんは多いかもしれません」。
妊よう性温存療法とは、患者の生殖能力維持を目的とした方法を指す。妊よう性温存療法には、卵子または胚の凍結保存(冷凍)前に行う卵巣刺激(複数の卵子回収を誘発するためにホルモン剤を利用)、卵巣組織の凍結保存、および早発卵巣不全のリスク低下を目的とした、化学療法中のゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)アナログ投与などが含まれる。生殖補助医療(ART)としては、凍結保存した胚の子宮への移植、体外受精のための卵巣刺激、子宮内人工授精、胚または卵子の提供、卵巣組織の移植、クエン酸クロミフェン(CC)の投与など、患者の妊娠を助長させるさまざまな技術がある。
昨年のサンアントニオ乳がんシンポジウム(SABCS)で発表されたPOSITIVE臨床試験の結果から、HR陽性乳がん患者において、乳がん再発リスクを上昇させることなく、妊娠のためにホルモン療法を最長2年間安全に一時停止できることが示唆された。しかし、これら患者に対する妊よう性温存療法や生殖補助医療後の妊娠の安全性については依然として不明である。
Azim博士は、次のように指摘する。「医学界では、妊よう性温存療法や生殖補助医療の利用、特にホルモン剤投与を伴う方法は、HR陽性乳がん患者に有害な影響を及ぼす可能性があるとの懸念があります」。
妊よう性温存療法および生殖補助医療の影響を理解するため、Azim博士らはPOSITIVE試験結果の二次解析を行った。ホルモン療法を一時中断して妊娠を試みた評価可能な497人のうち、368人(74%)は妊娠した。
妊よう性温存療法を実施した患者のうち、179人はPOSITIVE試験登録前に胚または卵子の凍結保存を行い、215人はARTを利用して妊娠を試みた。最も多く利用されたARTは、体外受精のための卵巣刺激と凍結保存胚移植であった。
本試験では、妊娠可能性を高める要因については、若年齢であることと凍結保存胚移植が有意に関連しており、凍結保存胚移植を実施した患者の82.4%が妊娠した。
凍結保存胚移植の前に実施する凍結保存のための卵巣刺激については、疾患の転帰悪化と関連はなかった。3年以内の乳がん再発は、本処置を利用した患者9.7%に対し、本処置を利用しなかった患者8.7%であった。
「本試験期間中に凍結保存胚移植を実施した参加者は、短期的には乳がんの転帰に明らかな悪影響を受けることなく、高い妊娠率を示しました」とAzim氏は述べた。
追加解析の結果、試験開始時に無月経であったほとんどの患者において、ホルモン療法中止後6カ月以内に月経周期が戻り、患者が受けた術後ホルモン化学療法の種類は妊娠までの期間に影響を及ぼさなかった。
さらに研究者らは、若い患者ほど短い期間で妊娠したことを見出した。「登録2年後の時点で、妊娠した女性は、35歳未満の80%に対して40歳以上では50%でした。
われわれのデータは、さまざまな妊よう性温存療法と生殖補助医療の選択に関する有効性と短期的な安全性を明らかにしています。本データは、POSITIVE試験の主要な結果を利用しており、若年乳がん患者の妊よう性カウンセリングに不可欠な情報を提供します」とAzim氏は述べた。
本試験の限界は、追跡期間が短いことである。
(本研究の情報開示については、原文を参照のこと)
- 監訳 小坂泰二郎(乳腺外科/JA長野厚生連 佐久総合病院 佐久医療センター)
- 翻訳担当者 平 千鶴
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- 原文掲載日 2023/12/07
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