運動により転移乳がんのQOLが向上する可能性

米国がん学会(AACR) サンアントニオ乳がんシンポジウム(SABCS)

転移性疾患の治療は無期限に続く可能性があり、効果的な介入の必要性が高まる

2023年12月5-9日開催のサンアントニオ乳がんシンポジウムで発表されたPREFERABLE-EFFECT試験の結果によると、転移性乳がん患者のうち9カ月におよぶ構造化された運動プログラムに参加した患者は、運動プログラムを受けなかった患者と比較して疲労が少なく、生活の質(QOL)が改善したことが報告された。

乳がんとその治療は、疲労、吐き気、痛み、息切れなどの副作用を引き起こす可能性があり、患者の健康に関連するQOL(HR-QoL)を低下させる。転移性疾患患者にとって、活動する能力を最大限に高めることは非常に重要であると研究発表者のオランダのユトレヒト大学医療センターのユリウス保健科学一次医療センター教授のAnne May博士は解説する。

「生活の質を最大限に高めることは、もちろんすべての人にとって重要ですが、特に継続的な治療を受けている転移性疾患患者にとって重要です」とMay博士は語った。「症状管理を強化することにより生活の質が向上すると、患者は私生活や社会生活、場合により仕事も楽しめるようになる」。

研究者らは以前、病気があまり進んでいないがん患者に対する運動プログラムの効果を評価し、運動プログラムが患者のHR-QoLと活力に有益であることが明らかになった。しかし、これらの利点が転移性疾患患者にも当てはまるかどうかは、厳密には検証されていないとMay博士は語る。また、転移性疾患患者の治療は通常かなり長期にわたり継続するため、より長期の運動プログラムが必要かもしれないと付け加えた。

May博士らは、ドイツ、ポーランド、スペイン、スウェーデン、オランダ、オーストラリアの研究機関が共同で実施したPREFERABLE-EFFECT試験に転移性乳がん患者357人を登録した。試験参加者全員に活動量計が配布され一般的な運動のアドバイスを受けた。178人の患者が9カ月間、平衡感覚を養う運動、抵抗運動、有酸素運動を含む週2回の指導付き運動セッションに無作為に割り付けられた(最後の3カ月間は、週1回のセッションを運動アプリで代用することも可能)。

登録時および3カ月後、6カ月後、9カ月後に、患者の身体的、精神的、感情的、経済的なQOLを評価する包括的な質問票であるEuropean Organisation for Research and Treatment of Cancer Quality of Life Questionnaire(EORTC-QLQ-30:欧州がん研究治療機関のQOL質問票)を用いて、参加者に対し調査が実施された。さらに、EORTC-FA12質問票を用いて参加者の多次元疲労を多次元的に評価した。各質問票のスコアは0から100までで、EORTC-QLQ-30のスコアが高いほどHR-QoLが改善したことを示し、EORTC-FA12のスコアが高いほど疲労度が高いことを示す。研究者らはまた、参加者が自発的に疲れるまで抵抗レベルを上げながら自転車型トレーニング機器に乗るという急速漸増運動負荷試験 (steep ramp test) による体力テストも実施した。

3カ月後、6カ月後、9カ月後の運動介入群に割り付けられた患者の平均HR-QoLスコアは、対照群の患者と比較してそれぞれ3.9点、4.8点、4.2点高かった。運動介入に参加した患者のEORTC-FA12スコアは、対照群の患者と比較して、3カ月後、6カ月後、9カ月後にそれぞれ3.4点、5.3点、5.6点低かった(疲労の減少を示す)。すべての差異が統計的に有意であった。

6カ月後、運動介入を受けた患者は、重要なEORTC-QLQ-30下位尺度でも、対照群の患者と比較して社会的機能が5.5点増加し、疼痛が7.1点減少し、息切れが7.6点減少するなど報告スコアが有意に良好であった。急速漸増運動負荷試験 (steep ramp test)では、運動群の患者の平均最大抵抗値は対照群の患者より24.3ワット(13%)高かった。

May博士らは、9カ月間の介入は効果的であっただけでなく、より長期的な順守を促した可能性があることを明らかにした。「9カ月間のプログラムは患者が日常生活に運動を取り入れるのに役立つと思います」とMay博士は語る。「患者の多くが9カ月を超えても運動を続け、運動が日常生活やがん治療の一部になりました」。

これらの知見に基づき、May博士は、転移性乳がん患者に指導付きの運動を医師や看護師は常に勧めるべきであり、政策立案者や保険会社は運動プログラムの費用負担を保証すべきであると提言した。

今回の研究の限界は、各試験群の参加者を盲検できなかったことであり、対照群の患者が自発的に身体活動レベルを上げる動機になった可能性がある。May博士は、これが介入効果の過小評価につながった可能性があると指摘した。

本研究は、PREFERABLEプロジェクトの一環である欧州連合(EU)のHorizon 2020研究革新プログラム(research and innovation program)およびオーストラリア国立保健医療研究評議会(National Health and Medical Research Council of Australia)より資金提供を受けた。May博士は利益相反がないことを宣言している。

  • 監訳 野長瀬祥兼(腫瘍内科/市立岸和田市民病院)
  • 翻訳担当者 松長愛美
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  • 原文掲載日 2023/12/07

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