術後放射線療法を省略しても、低リスクDCIS乳がんの再発/進行に影響しない

米国がん学会(AACR) サンアントニオ乳がんシンポジウム(SABCS)

MRIとDCIS遺伝子プロファイルを用いて治療対象の患者を層別化

2023年12月5日から9日まで開催されたサンアントニオ乳がんシンポジウム(SABCS)で発表されたE4112臨床試験の結果によると、乳房温存術後の放射線療法を省略した低リスク非浸潤性乳管がん(DCIS)患者の5年間の転帰は、放射線療法を受けた高リスクDCIS患者と同等であった。

ノースウェスタン大学のファインバーグ医科大学およびルーリー総合がんセンターの外科教授であり、Bluhm Family Professor of Cancer ResearchであるSeema A. Khan医師は、「DCIS(非浸潤性の乳がん)に罹患した女性のほぼ全員ががんの切除に成功しますが、一部の女性はがんが再発したり浸潤性乳がんに進行したりするリスクが高くなります」と述べた。

同医師は、DCIS患者のほとんどは乳房温存手術を受け、その後放射線療法を受けるが、これはがんがDCISまたは浸潤性乳がんとして再発する可能性を減らすことを目的としていると説明した。DCIS患者の約4分の1は代わりに乳房全切除術を受ける。

「DCISは多くの女性にとって不必要な治療負担をもたらしているという認識が高まっています」とKhan医師は指摘した。「個別化診断ツールを用いて再発や進行のリスクを予測すれば、一部の患者に対する過剰な治療を防ぐことができるかもしれません」。

Khan医師らはE4112臨床試験を実施し、DCIS患者の治療の指針となるDCIS遺伝子プロファイルと組み合わせた両側磁気共鳴画像法(MRI)の可能性を評価した。以前に報告されたこの試験の結果により、MRIは、乳房切除術ではなくより負担の少ない乳房温存手術を選択できる患者の同定に役立つ可能性があることが示された、とKhan医師は指摘した。

最新の解析は、MRIの結果に基づいて乳房温存手術を受けた患者の一部が、DCIS遺伝子発現プロファイルに基づいてその後の放射線治療を行なわなくても安全かどうかを評価することを目的とした。このアプローチは、DCISの再発リスクが低い患者の治療を減らすのに役立つ可能性がある、と同医師は説明した。

本解析には、乳房温存手術を受け、Oncotype DX Breast DCIS Score検査を用いて腫瘍組織のプロファイリングを受けたDCIS患者171人が含まれた。

Oncotype DX Breast DCIS Scoreは、DCIS組織におけるがん関連遺伝子の発現レベルを調べる臨床検査である。検査結果は0~100のスコアで報告され、スコアが高いほどがん関連遺伝子の発現量が多く、同じ乳房でDCISまたは浸潤がんとして再発する可能性が高いことに関連する。

本試験では、39点未満の患者は低リスクDCISとみなされ、術後放射線療法の省略に適格であったが、39点以上の患者は術後放射線療法を受けることが推奨された。

スコアに基づく治療の推奨事項の遵守率は93%であった。低リスクDCIS患者82人中75人が術後放射線療法の省略を選択し、高リスクDCIS患者89人中84人が術後放射線療法を受けることを選択した。

術後追跡期間中央値5年の時点で、低リスクDCIS患者82人のうちの5.1%、高リスクDCIS患者89人のうちの4.5%が、初発のDCISと同じ乳房にがんの再発を認めた。スコアに基づく推奨事項を遵守した患者のみを比較した場合も同等の結果が認められた。放射線治療を省略した低リスクDCIS患者75人のうちの5.5%、放射線治療を受けた高リスクDCIS患者84人のうちの4.8%が、がんの再発を経験した。いずれの解析においてもこの差は統計学的に有意ではなく、患者の年齢による影響もなかった。

「これらの結果は、Oncotype DX Breast Scoreが乳房温存手術後の放射線療法に対し患者を層別化するための有効なツールであることを示しています。このスコアに基づいて放射線療法を省略した女性は、5年間の追跡期間中に同じ乳房に再発するという過度なリスクを認めませんでした」とKhan医師は述べた。「これらの知見により、どの患者が放射線療法のを受ける可能性があり、どの患者が放射線療法を省略しても安全であるかを判断することにより治療決定の指針となる新たなアプローチが明らかになりました」。

以前に報告された試験のデータと組み合わせると、この結果は、MRIとOncotype DX Breast DCIS Scoreが、それぞれDCIS患者の外科治療と補助療法の指針となる可能性を示している、と同医師は付け加えた。

本試験の限界は、追跡時間が短いこと、サンプルサイズが小さいこと、および非ランダム化デザインであること、である。

E4112試験は、米国国立衛生研究所の米国国立がん研究所(NCI)の支援を受けて、ECOG-ACRINがん研究グループによってデザイン、実施された。その他の参加協力団体には、Alliance for Clinical Trials in Oncology、NRG Oncology、SWOG Cancer Research Networkがある。Khan医師は、利益相反はないと公表している。

  • 監訳 下村昭彦(乳腺・腫瘍内科/国立国際医療研究センター 乳腺腫瘍内科)
  • 翻訳担当者 生田亜以子
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  • 原文掲載日 2023/12/08

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