新たな併用療法(レトロゾール+ダサチニブ)が一部の転移性乳癌女性における病勢進行を遅らせる

 12月10日~14日開催のサンアントニオ乳癌シンポジウム(SABCS)2013にて発表された第2相臨床試験の結果によると、標準的な抗ホルモン療法のレトロゾール[letrozole]にダサチニブ[dasatinib]を追加することで、ホルモン受容体陽性/HER2陰性、転移性乳癌患者における病勢進行までの期間が2倍に延長した。

ダサチニブは米国食品医薬品局(FDA)により、慢性骨随性白血病(CML)の治療薬として承認を受けている。本剤の作用機序の1つは、乳癌の骨転移に関わることが近年明らかになってきたSrcと呼ばれるタンパク質の活性を阻害することである。

「転移性乳癌患者は生活の質を延長、改善することができる新しい治療選択肢を切実に必要としています」と、コロラド州デンバーのU.S. Oncology and Rocky Mountain Cancer Centersの乳癌専門医であるDev Paul医学博士は述べた。「複数の研究において、乳癌の骨転移と高いレベルのSrc活性には相関性が見られているため、転移性乳癌の一次治療としてレトロゾールとダサチニブを併用することにより、レトロゾール単独と比較して、臨床的有用率と無増悪性生存期間(PFS)が改善するかどうかを確認したかったのです」。

「薬剤の併用により、無増悪性生存期間が2倍に延びたことを確認し、われわれは勇気づけられました」と述べた。「しかし、今回は小規模の試験であり、レトロゾール治療へのダサチニブの追加が有益である可能性が高い患者をより確実に判断できるよう、実際には乳房の腫瘍中のSrc活性を測定するバイオマーカーが必要になります」。

Paul氏らは、ホルモン受容体陽性、HER2陰性の局所再発性または転移性乳癌をもつ閉経後の女性患者120人を第2相臨床試験に登録した。63人がレトロゾール群、57人がレトロゾールとダサチニブの併用群に無作為に割り付けられた。試験の主要目的はレトロゾールにダサチニブを追加することで、臨床的有用率が向上するかどうかを判断することであった。

臨床的有用率は完全奏効、部分奏効と6カ月以上の間、病勢安定を示した患者 の数である。研究により、レトロゾール単独治療と比較して、ダサチニブとレトロゾールの併用治療は臨床的有用性を向上させないことが見出された。研究結果の二次解析が行われ、併用療法がPFSを劇的に改善することが示された。ダサチニブとレトロゾールを併用した患者の無増悪性生存期間が20.1カ月である一方、レトロゾール単独投与の患者は9.9カ月であった。

Paul氏によると、ダサチニブとレトロゾールを併用した患者はさらなる副作用がみられたが、重篤な有害事象とみなされたものはなく、ほとんどの患者はダサチニブの最大用量に忍容であった。

「これらのデータから、ホルモン受容体陽性、HER2陰性の転移性乳癌をもつ閉経後の女性患者に対し、レトロゾールにダサチニブを追加することで、無増悪生存期間が改善することが示唆されました。しかし、この薬剤併用に関するさらに大規模な臨床試験を行う前に乳房のSrc活性に対するバイオマーカーを見つけたいと思います」とPaul氏は述べた。

本研究はBristol-Myers Squibb社により資金提供を受けた。Paul氏は利益相反がないことを明らかにした。

翻訳担当者 下野龍太郎

監修 原 文堅(乳腺科/四国がんセンター)

原文を見る

原文掲載日 

【免責事項】
当サイトの記事は情報提供を目的として掲載しています。
翻訳内容や治療を特定の人に推奨または保証するものではありません。
ボランティア翻訳ならびに自動翻訳による誤訳により発生した結果について一切責任はとれません。
ご自身の疾患に適用されるかどうかは必ず主治医にご相談ください。

乳がんに関連する記事

【ASCO2025】イナボリシブ併用療法で、進行乳がんの生存延長と化学療法の遅延が可能にの画像

【ASCO2025】イナボリシブ併用療法で、進行乳がんの生存延長と化学療法の遅延が可能に

ASCOの見解(引用)「INAVO120試験では、未治療でPIK3CA変異を有するホルモン受容体陽性転移乳がん患者さんの生存期間を有意に改善する分子標的治療レジメンの有効性が示...
転移予測にがん細胞の「くっつきやすさ」を評価ー乳がんDCISで研究の画像

転移予測にがん細胞の「くっつきやすさ」を評価ー乳がんDCISで研究

研究者らは、他の部位にまだがんが転移していない患者の治療方針について、腫瘍医がより良い判断を下すのに役立つと期待される装置を開発した。この装置は、腫瘍サンプル中のがん細胞の「接着性(く...
乳がん化学療法による神経障害にアルゼンチンタンゴ ダンス療法の画像

乳がん化学療法による神経障害にアルゼンチンタンゴ ダンス療法

化学療法の副作用としてよくみられる神経障害を伴う乳がんサバイバーに、アルゼンチンタンゴをアレンジしたダンス療法が自然なバランスと感覚を取り戻す助けとなっている。化学療法によって変化した...
浸潤性乳がんの治療に手術不要の可能性の画像

浸潤性乳がんの治療に手術不要の可能性

薬物治療後の乳房手術を省略しても、患者は5年後もがんのない状態を維持していたネオアジュバント(術前)化学療法と標準的な放射線治療で完全奏効を示した早期乳がん患者にとって、手術は...