乳癌リスクが高い女性におけるリスク低減のための介入ガイドラインの更新

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Aaron Tallent
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Aaron.Tallent@asASo.org

米国臨床腫瘍学会(ASCO)は本日、乳癌リスクの高い閉経前および閉経後女性のための薬理学的予防介入に関する最新の臨床診療ガイドラインを発表した。旧版のガイドライトと比較すると、3回目の改定となる今回のガイドラインでは、閉経前女性ではタモキシフェンの使用を検討すること、また乳癌リスクの高い閉経後女性ではタモキシフェンとラロキシフェンの使用を検討することが強く推奨されている。さらに、閉経後女性においては代替オプションとしてアロマターゼ阻害剤であるエキセメスタンを選択肢として検討することも推奨されている。

またガイドラインでは、浸潤性乳癌を発症するリスクの高い女性において、乳癌の予防にタモキシフェンとラロキシフェンの使用を増やすような、継続中の研究の必要性が強調されている。現在、乳癌のリスクを低下させることについて主治医と話し合ったり、これらの薬剤について検討しているのは適格女性のほんの一部にすぎない。

最新ガイドラインである、Use of Pharmacologic Interventions for Breast Cancer Risk Reduction:American Society of Clinical Oncology Clinical Practice Guideline(乳癌リスクを低下する薬理学的介入の活用:米国臨床腫瘍学会臨床診療ガイドライン)は本日、Journal of Clinical Oncology誌に掲載された。最初のガイドラインは1999年に発表され、その後2002年と2009年に改訂されている。

ガイドラインの主な勧告は次の通り

・タモキシフェン(1日20mgを経口、5年間)を、閉経前または閉経後女性において、エストロゲン受容体(ER)陽性浸潤性乳癌のリスクを低下する治療選択肢として検討すべきである。タモキシフェンの標的は乳房組織中のエストロゲン受容体であり、従って本剤はER陽性乳癌の予防に対してのみ有効である。

・ラロキシフェン(1日60mgを経口、5年間)もまたER陽性浸潤性乳癌のリスクを低下する治療選択肢として検討すべきである。本剤の標的も乳房組織中のエストロゲン受容体である。本剤の使用は閉経後女性に限られる。

・エキセメスタン(1日25mgを経口、5年間)を閉経後女性のER陽性浸潤性乳癌のリスク低下に代替薬として検討すべきである。本剤は閉経後女性のエストロゲン量を低下する薬物群のひとつであるアロマターゼ阻害剤であり、ER陽性乳癌患者に対して術後に、癌再発のリスクを低下するために投与される。エキセメスタンは乳癌の治療に認可されているが、FDAは乳癌の予防に本剤を使用することをまだ承認していない。今回の勧告は、3年間の追跡調査においてエキセメスタン群ではプラセボ群と比較し、全般的およびER陽性浸潤性乳癌発生率が70%低下したとする一つの臨床試験による有望な結果に基づいている。

・これらの3剤はいずれも乳癌の既往のない35歳を超える女性で、年齢、人種、病歴や妊娠歴などのリスク要因に基づき浸潤性乳癌を発症するリスクが高いと判断される女性において(リスクと有用性を含めて)検討すべきである。

乳癌のリスクは一般に乳癌のリスクは一般にNational Cancer Institute Breast Cancer Risk Assessment Tool(米国国立癌研究所乳癌評価ツール)(※サイト注:一部翻訳「乳癌リスク評価ツール」)で評価する。この評価ツールでは年齢、人種および病歴と妊娠歴を用いて乳癌のリスクを評価する。次の5年間に乳癌を発症する予測絶対リスクが1.66パーセント以上である場合に、リスクが高いと判定される。乳癌のリスクはこの他にも妥当性が確認されたモデルや様々な乳癌化学予防試験で使用された適格性基準によっても判定される。

乳癌は世界中で最も頻繁に診断される癌であり、米国では癌関連死の2番目に多い原因である。米国癌協会よれば、2013年には23万4千人を超える女性が乳癌と診断され、乳癌による死亡は4万人を超える。また、米国では乳癌予防に薬剤を使用するのに適格である女性は数百万人に達し、乳癌リスクの高い2百万人の女性では予防薬による有用性はリスクを上回ると推定されている。しかし、2010年の調査では、乳癌の予防にタモキシフェンまたはラロキシフェンを使用している女性は1%に満たないことが報告されている。

「すべての女性がこうした予防薬を使用すべきだというわけではありませんが、症例によってはリスクが大きく低下するので、乳癌リスクの高い女性に対しては選択肢が示されるべきです。一部の女性では、こうした治療により乳癌のリスクが50%低下することがあります」とガイドライン委員会の共同委員長であるKala Visvanathan医師(MBBS, FRACP, MHS, Associate Professor of Epidemiology and Oncology, Johns Hopkins Bloomberg School of Public Health, Johns Hopkins Sidney Kimmel Comprehensive Cancer Center)は述べている。

ガイドラインは閉経後女性におけるタモキシフェンとラロキシフェンの使用について、リスクと有用性の新たな知見を提供するものである。両薬剤のリスクと有用性の特徴は年齢、人種、乳癌リスクの程度や子宮摘出の有無により異なっている。ガイドラインは、これらの薬を予防に使用するかどうかを決定する前に、リスクと有用性の両方について主治医と相談すべきであると強調している。

「こうした介入により得られる健康上の純粋な利益について、さらに多くのことがわかっています。こうした知識は、有益性がリスクを上回る女性を見つけ出すことに役立ちます」とVisvanathan医師は述べている。

ガイドラインには深部静脈血栓症、肺動脈塞栓、脳卒中、一過性脳虚血発作の病歴のある女性、また長期にわたり運動不足の状態にある女性ではタモキシフェンとラロキシフェンの使用は不適切であることが明記されている。さらに、タモキシフェンは妊婦、妊娠の可能性のある女性または授乳婦には不適切であり、ホルモン療法との併用も避けるべきである。

ASCOは医師がこのガイドラインを実践するのに役立つ臨床ツールや資材を開発している。資材には意思決定支援ツールがあり、これは理解しやすい図表を使用して乳癌化学予防法のリスクと有用性を説明するものである。また、ASCOは患者向けガイドやグラフも開発しており、これらはASCOがん情報サイト、www.cancer.netから入手できる。

「これらの薬剤が開発されたことにより乳癌リスクの低下に歴史的な進歩がもたらされました」とガイドライン委員会の共同委員長であるScott M. Lippman医師(Director of the University of California, San Diego Moores Cancer Center, Senior Associate Dean, Associate Vice Chancellor for Cancer Research and Care, Professor of Medicine at UC San Diego School of Medicine)は述べている。「最新のガイドラインと意思決定支援ツールを併用することにより、乳癌リスクの高い女性に大きな利益をもたらすことができるよう、命を救う医薬品の使用法の改善を継続します。」

翻訳担当者 小縣正幸

監修 原 文堅(乳癌/四国がんセンター)

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