新規の乳房病変検査で癌検出の精度が上がることにより、生検が減り、医療費の節約につながる

新しく開発された single-step Raman spectroscopy algorithm(シングルステップ実行によるラマン分光法のアルゴリズム)により、微小石灰化の検出と、微小石灰化を伴う乳房病変の診断が高精度で同時にできる可能性があることが米国癌学会(AACR)の学術誌Cancer Researchで発表された。

「毎年米国では、約160万件の乳房生検が行われ、約25万件の新規の乳癌が診断されています」とマサチューセッツ工科大学(ケンブリッジ)の博士研究員および本研究の筆頭筆者である Ishan Barman博士は述べた。「20万件の複数回の生検が回避できれば、控えめに見積もっても、米国医療制度は年間10億ドルを節約することができます」。

Barman氏によるとX線マンモグラフィーは、現在、唯一認められている乳癌の早期発見の定期的なスクリーニング方法であるが、微小石灰化(微視的なカルシウム蓄積の領域)が良性または悪性の乳房病変と関連しているかどうかを正確に識別できない。従って、ほとんどの患者は、微小石灰化が悪性腫瘍と関連しているかを判断するために針生検を受けるが、患者の約15〜25パーセントで微小石灰化の採取に失敗する。その結果、生検の診断がつかないことや、偽陰性となることがあり、患者は再度の生検、多くは外科的生検を受けることになる。

研究者らによると、新たに開発されたアルゴリズムでは、微小石灰化の有無にかかわらず乳癌の診断に対し、100%の陽性予測値および96%の陰性予測値を示した。アルゴリズムによるサンプルの正常、良性病変または悪性病変への分類では82%という全体的精度も示した。

「X線検査や生検検査の数を最小限に抑えることができる臨床上必要なツールに対しての要望は満たされていません。このツールにより検査時間は短くなり、患者の不安、苦痛や不快感は軽減し、複数回の生検後の生検部位の出血のような合併症を防げます」とBarman氏は述べた。「われわれの研究によりラマン分光法が、微小石灰化の検出と、微小石灰化に伴う病変の診断を高精度で同時に行い、また生検処置中に放射線科医へリアルタイムのフィードバックを可能にすることを示しました」。

研究者は、33人の女性の乳房組織生検標本からのラマンススペクトルを得るために携帯臨床ラマン分光システムを使用した。50個の正常組織部位、微小石灰化のある77個の病変および微小石灰化のない19個のサンプル、合計146個の組織部位からラマンスペクトルを得た。注目すべきことに、サンプル採取から30分以内にすべてのスペクトルを得た。

Barman氏らは得られたスペクトルを様々なタイプの乳房組織や組織成分の異なる乳房組織を識別するモデルに適合した。そして正常乳房組織、微小石灰化のある乳癌、ない乳癌および線維嚢胞性変化や線維腺腫など他の良性乳房病変を識別する single-step Raman algorithm(シングルステップ実行によるラマン分光法のアルゴリズム)を開発した。

また、 Barman氏によると one-step Raman algorithmを使用して診断した乳癌の大半は既存の方法を用いて診断することが難しい微小石灰化を伴う最も一般的な病変である非浸潤性乳管癌であった。

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AACRについて
1907年に設立された米国癌学会(AACR)は、世界初かつ最大の専門家組織で、癌研究および癌の予防と治療という使命の推進に尽力している。AACRの会員は、90カ国以上、34,000人にのぼり、基礎研究、トランスレーショナル研究および臨床研究に関わる研究者、人口動態研究者、他の医療従事者および癌患者支援者から成る。AACRは、癌関連のあらゆる分野の専門知識を結集し、年間20以上の学会および教育ワークショップを開催して癌の予防、生物学、診断および治療における進歩を促している。最大の学会はAACR年次集会で、18,000人以上が参加する。さらにAACRはピアレビュー学術誌8誌と癌サバイバー、癌患者、および介護者向けの雑誌を発行している。AACRは、価値ある研究に対して直接の助成金の支給を行なっているほか、多数の癌関連機関と連携して研究助成金を支給している。AACRは、Stand Up To Cancerの学術パートナーとして、癌患者に利益があると見込まれる癌研究において、チームの科学研究や個人への助成金についての専門家によるピアレビュー、助成金の管理、および科学的な監視を行っている。AACRは、癌から命を守るための癌研究および関連のある生物学医科学の意義について、議員や政策立案者と積極的に意見交換を行っている。

翻訳担当者 渉里幸樹

監修 前田 梓(トロント大学医学部医学生物物理学科)

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