スタチンによる炎症性乳癌の生存率改善が示唆される

スタチンによる炎症性乳癌の生存率改善が示唆される

早期の結果により最も危険な乳癌の一種である炎症性乳癌で有益性が明らかに
MDアンダーソンがんセンター
2012年11月15日

テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの研究者らは、スタチンは一般的にコレステロールの低下に使用される薬剤であるが、炎症性乳癌(IBC)患者の無増悪生存期間を改善することを明らかにした。

2012 年のCTRC-AACRサンアントニオ乳癌シンポジウムのポスターディスカッションで後ろ向き研究の結果が発表された。この研究は、スタチンの抗炎症作用が乳癌再発のリスクを低減する可能性を示唆するいくつかの根拠を明らかにした、デンマークの研究に続く。しかし、依然としてIBCに関連するスタチンの全体的な効果は検討されていない。

IBCは稀な種類の乳癌で、悪性細胞が皮膚や軟部組織のリンパ管を閉塞させ、急速に増殖する。アメリカ癌協会によると、すべての浸潤性乳癌の1~5%を占めているに過ぎない。

「炎症性乳癌患者の小集団を対象に異なる手法を用い、本当に炎症性乳癌であるか、この集団におけるスタチンの使用は大きな影響があるかどうかを調査しました」とMDアンダーソンがんセンター乳腺腫瘍内科部門教授、およびモーガンウェルチ炎症性乳癌研究プログラムおよびクリニックのエグゼクティブディレクターである上野直人(Naoto Ueno, M.D.,Ph.D)氏は述べた。

責任著者である上野医師、および同僚は1995年~2011年の間にMDアンダーソンでステージIIIの炎症性乳癌の診断と治療を受けた724人の患者を再評価した。診断時にスタチンの使用を示す記録のある患者を、スタチン使用歴のない患者と比較した。ステージIII群ではスタチン使用者74人、未使用者650人であった。

主要エンドポイントは無増悪生存期間(PFS)とし、副次エンドポイントは全生存期間(OS)および疾患特異的生存期間(DSS)とした。

さらに、研究者らは親油性(脂溶性)、親水性(水溶性)などのスタチンの種類に基づいて、スタチン群の患者の臨床転帰を比較した。本試験を通じ、生存率の差として重要な違いが明らかになった。著者らは、両剤を使用した患者、またはスタチンの種類を特定する情報が欠落している患者は、生存率の推定値から除外した。

生存期間の改善が示された

スタチン未使用の患者の無病生存期間(DFS)は1.76年であったが、脂溶性スタチンを使用した患者では2.47年と改善が認められた。生存期間の最大の改善は過去に親水性スタチンを使用した患者に認められ4.88年であった。

生存率の上昇に伴いDSSのエンドポイントも伸びた。スタチン未使用患者のDSSは4.52年であったが、親水性スタチン使用の患者は5.10年であった。

著者らは、全生存期間(OS)で改善の傾向を示したが、OS統計的有意差は認めなかった。

「以前行われたデンマークのスタチンについての研究では、大規模なグループ(10,000人以上の参加者)を対象にした調査でした。我々の研究は炎症性乳癌患者を対象にした、はるかに小規模の研究であり、生存率の有意な改善により、スタチンの使用に関する新しい見解が得られるのです」と上野医師は語った。

そして、この発見は有望なものであるが、研究は限られたものであると加えて述べた。第一に、患者のスタチンの使用期間やどんな適応症ため使用していたかを記載しているデータは入手できなかった。スタチン使用をした患者は、医療機関へ良く通っており、より健康志向の高いライフスタイルを持ち、教育レベルも高い集団に属している可能性がある。

さらに「スタチンは画期的な薬剤ですが、癌のために開発された薬剤ではありません。新しい薬剤を開発することは重要ですが、スタチンは既存薬であり、私たちの提供する治療に大きな役割を果たす可能性があるのです」と述べた。

追加の研究

MDアンダーソンがんセンターの研究者らは、スタチンの潜在的な生存利益を評価するためにIBC患者を対象に前向きランダム化試験を計画している。さらに、どの集団のサブセットがスタチンの使用に最も適しているか特定されることが期待されている。上野医師は、患者がどこでもスタチンを服用でき、必要時の診察だけで済むと、非常に利便性が高いとした。

本研究は、米国国立衛生研究所グラント、MDアンダーソンがんセンターサポートグラント、モルガンウェルチ炎症性乳癌研究プログラムおよびクリニック、State of Texas Rare and Aggressive Breast Cancer Research Program Grant
による支援を受けた。

上野医師に加えて、他の著者は次のとおりである。
Takae Brewer, M.D., Hiroko Masuda, M.D., Ph.D., Gabriel Hortobagyi, M.D., Kazuharu Kai, M.D., Ph.D., Takayuki Iwamoto, M.D., and of the Department of Breast Medical Oncology; James Reuben, Ph.D., Department of Hematopathology; Peiying Yang, Ph.D., Integrative Medicine Program; Chad Barnett, Pharm.D., Division of Pharmacy; Ping Liu, Department of Biostatistics; and Wendy Woodward, M.D., Ph.D., Department of Radiation Oncology.

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渉里幸樹 訳
勝俣範之(腫瘍内科、乳癌・婦人科癌/日本医大武蔵小杉病院) 監修 
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原文


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