リキッドバイオプシーで進行乳がんの早期病勢進行と生存率を予測

ジョンズホプキンス大学

ジョンズホプキンス大学キンメルがんセンターが開発中の新しい自動化リキッドバイオプシー検査では、治療開始後わずか1カ月で転移性乳がん患者の早期病勢進行と生存率を予測できることが、最近の研究で明らかになった。

この検査は、今のところ研究用のプロトタイプであるが、乳がんの治療を受けている女性の血液サンプルから、乳がんで一般的に変異している9つの遺伝子のうち1つ以上のがんDNAを同定することができた。メチル化は、がん抑制遺伝子をオフにする能力があることから、がんの発生と進行に関連する化学タグの一種である。治療開始4週目の時点で累積メチル化レベルが高い患者は、低い患者と比べて、無増悪生存期間(病状が悪化しない期間)が有意に短く、全生存期間も短かった。

研究者らは、治療開始後4週の時点に測定したメチル化レベルを用いて、転移性乳がん女性の早期病勢進行リスクを予測する新しいモデルを開発した。研究結果はClinical Cancer Research誌に掲載された。

転移性乳がんの病態は多様であるため、早期病勢進行を同定する予測臨床バイオマーカーが患者には必要である、とジョンズホプキンス大学キンメルがんセンターがん遺伝学・予防サービス筆頭著者Kala Visvanathan医師(健康科学修士)は説明する。バイオマーカーは、利用可能かつ効果的な治療を最適化することで、腫瘍医が薬剤の併用による患者のQOLへの悪影響を最小限に抑えるのに役立つだろう、と同氏は述べる。

「治療開始後4週間でメチル化を検出できることは有望です」「現在、治療の調整には、症状や臨床的な変化が見られるまで待ちます。通常3カ月以内です。もしもっと早い段階で変化が分かれば、必要に応じて早い段階で治療を調整し、より良い臨床転帰と生存期間の延長を目指せます」

乳がんメチル化リキッドバイオプシー(LBx-BCM:Liquid Biopsy for Breast Cancer Methylation)と呼ばれるこのアッセイは、本がんセンターの腫瘍学教授であり、研究の共同筆頭著者であるSaraswati Sukumar博士の研究室で開発された。このアッセイは、GeneXpertと呼ばれる市販の分子検査プラットフォームと互換性があり、乳がんの4つのサブタイプで変異している遺伝子(AKR1B1、TM6SF1、ZNF671、TMEFF2、COL6A2、HIST1H3C、RASGRF2、HOXB4、およびRASSF1)のメチル化を5時間以内に検出することができる。今回の研究では、エストロゲン受容体(ER)陰性乳がんに関連するZNF671遺伝子のメチル化も調べた。このアッセイは、検査技師が15分もかからずに行うことが可能である。

研究者らは、転移性乳がん患者144人から治療開始前および治療開始4週間後と8週間後に採取した血漿サンプルを用いてこのアッセイを評価した。患者の年齢中央値は56歳であった。19%が黒人で、87%が閉経後であった。追跡期間中央値は約6年であった。

無増悪生存期間中央値は、4週間後の時点で累積メチル化レベルが高かった患者では2.88カ月、低い患者では6.66カ月であった。全生存期間中央値は、4週間後の時点で累積メチル化レベルが高かった患者では14.52カ月、低い患者では22.44カ月であった。

研究者らは約3カ月後、初回腫瘍評価時の病勢と、累積メチル化レベルとの関連も調べた。患者の77%において、累積メチル化レベルは最初の4週間で減少し、その後、初回腫瘍評価時まで安定したままであった。病勢が安定している患者の18%と、進行している患者の37%において、ベースラインから4週目まで累積メチル化レベルの増加が観察された。治療が奏効した患者では、それ以上の累積メチル化増加は見られず、4週目から8週目までレベルは安定していた。

4週目で累積メチル化レベルが高いかどうかは、初回腫瘍評価時における病勢進行度と関連していた。初回腫瘍評価時、4週目の累積メチル化レベルと病勢進行との関連は、循環腫瘍細胞など病勢進行のモニタリングに使用される他の循環マーカーが存在するにもかかわらず、有意なままであった。

研究者らは、4週目に測定された累積メチル化レベルの結果を用いて、治療開始後3カ月という早い段階で病勢進行を予測する新しいモデルを開発し、評価した。

「われわれの知る限り、転移性乳がん患者の早期病勢進行に焦点を当てたメチル化に基づく予測モデルはこれが初めてです」とSukumar氏は述べる。「このモデルは、多くの異なる統計的仮定のもとで検証しても確かでした」と、腫瘍学准教授で生物統計学者であり、本研究の第2共同著者のLeslie Cope博士は付け加えた。

研究の次のステップは、治療開始から1週間毎にメチル化のパターンを調査し、累積メチル化を測定する最適な時期を特定することと、同じような患者集団や早期ステージの患者においてモデルを検証し改良することである、とVisvanathan氏はいう。

本研究の共著者は、以下のとおり。
Mary Jo Fackler, Michael Considine, Lori Sokoll, Christopher B. Umbricht and Antonio C. Wolff of Johns Hopkins. Other authors were from the University of North Carolina at Chapel Hill; Seagen in Bothell, Wash.; Mayo Clinic in Rochester, Minn.; Dana-Farber Cancer Institute in Boston; University of Chicago; Indiana University in Indianapolis; and Cepheid of Sunnyvale, Calif

本研究は、国防総省(助成金W81XWH-18-1-0018)およびCepheid社(#90066820)からSukumar氏への研究契約、乳がん研究財団およびSusan G. Komen社からトランスレーショナル乳がん研究コンソーシアム(TBCRC)への資金援助を受けている。Visvanathan、Cope、Fackler、WolffおよびSukumarは、本試験実施中にCepheid社からの助成金を報告し、特許を保有している。ジョンズホプキンス大学は、利益相反ポリシーに従ってこれらの関係を管理している。

  • 監訳 下村昭彦(乳腺・腫瘍内科/国立国際医療研究センター 乳腺腫瘍内科)
  • 翻訳担当者 平沢沙枝
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  • 原文掲載日 2023/06/13

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