2012/06/26号◆癌研究ハイライト「乳癌が進行・再発時に生物学的変化」「世界保健機関がディーゼル排気をヒト発癌性物質に分類」「癌標的治療薬(パニツムマブ)に対する耐性発生の理由は治療開始前から存在する変異で説明可能」「併用療法の検証が膵臓癌の生物学的特徴解明の手掛かりに」

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NCI Cancer Bulletin2012年6月26日号(Volume 9 / Number 13)

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◇◆◇ 癌研究ハイライト ◇◆◇

・乳癌が進行・再発時に生物学的変化
・世界保健機関がディーゼル排気をヒト発癌性物質に分類
・癌標的治療薬(パニツムマブ)に対する耐性発生の理由は治療開始前から存在する変異で説明可能
・併用療法の検証が膵臓癌の生物学的特徴解明の手掛かりに

乳癌が進行・再発時に生物学的変化

再発乳癌を患っている多数の女性患者において、腫瘍のエストロゲン受容体(ER)、プロゲステロン受容体(PR)、ヒト上皮成長因子受容体2(HER2)の状態は、原発腫瘍と再発腫瘍の間で変化することが大規模な後向き研究で判明した。6月18日付Journal of Clinical Oncology誌において発表されたこの発見は、癌の進行中にこれらのバイオマーカーの変化を検出した以前の研究を支持している。

これら3つのバイオマーカーは、医師が個々の女性患者に最良の治療法を選択する際に役立っている。したがって、乳房で再発した腫瘍と他の部位に転移した腫瘍は、生検結果が治療方針の決定に影響する可能性があることから、「決められた手順として」生検を行うべきである、とスウェーデン・カロリンスカがんセンターのDr. Linda Lindstrom氏率いる著者らは推奨している。

Lindstrom氏らのグループは、ストックホルムの3つの病院で治療を受けた女性患者1,010人の病理結果の情報を用いた。その全員が、原発および再発した乳腺腫瘍の生検を受けていた。3つの病院は全て、これらの3つのバイオマーカー全ての正確性を検証するための厳重な品質管理法を用いている。

女性患者459人の原発腫瘍および再発腫瘍におけるERの発現が検査された。これらの女性の約33%において、治療から再発までの間に腫瘍のERの状態に変化が見られた(ERが発現または消失)。PRの発現を検査した女性430人のうち40%以上で、治療から再発までの間にPRの状態に変化が見られた。原発腫瘍と再発腫瘍のHER2発現状態を検査した104人の女性のうち約15%において、治療から再発までの間にHER2の状態に変化が見られた。

癌が複数回再発している女性患者において、バイオマーカーの変化率は同等であった。

過去に受けた治療が、いくつかのバイオマーカーの変化に影響すると思われた。例えば、以前にホルモン療法を受けた女性は、ホルモン療法を受けていない女性より、腫瘍のER発現状態の変化が大きかった。再発時にERの発現が消失したER陽性原発腫瘍の女性の方が、腫瘍のERが安定して発現している女性よりも死亡リスクが高いことも判明した。

転移性乳癌の治療は、原発腫瘍の特徴に基づいて行われることが多い。しかし、生検結果によって腫瘍の変化がわかる患者もいるため、「生検による確認が重要であり、それにより治療の選択肢も変わることがある」と著者らは結論付けた。

世界保健機関がディーゼル排気をヒト発癌性物質に分類

世界保健機関の一機関である国際癌研究機関(IARC)は、6月12日にディーゼルエンジンの排気ガスをヒトに対して発癌性が認められるグループ(グループ1発癌性物質)に分類した。この決定は、多くの証拠により、ディーゼル排気と肺癌リスク上昇との関連性が認められるというIARCのワーキンググループの考えに基づいている。ワーキンググループは、限られた証拠ではあるが、ディーゼル排気曝露と膀胱癌との関連性も発見した。

IARCは、ワーキンググループの評価の要約を6月18日付Lancet Oncology誌に発表した。

1988年、IARCは、ディーゼル排気はヒトに対して発癌性がおそらくあるグループ(グループ2A発癌性物質)に分類し、1998年、機関の諮問委員会は関連性の優先調査を求めた。今回改訂されたこの分類は、NCIおよび米国国立労働安全衛生研究所が中心となって行い、最近発表された研究「ディーゼル排気の鉱山労働者への影響に関する研究(DEMS)」を含むいくつかの大規模なヒトを対象とした試験結果に基づいている。

「ディーゼル排気と肺癌の関連性において、最も有力な証拠の一部を提供することによって行われた再評価で、われわれのデータが重要な役割を果たしているのは喜ばしいことである」とNCIの癌疫学・遺伝学部門の労働・環境疫学科の主任で、DEMSの主任研究者であるDr. Debra Silverman氏は述べた。

「ディーゼル排気の潜在的に有害な影響に関連した極めて多くの科学的証拠があった。数十の疫学研究、数百には及ばないまでも多くの実験動物を用いた基礎研究、そして、基礎的な細胞内プロセスとディーゼル排気やその成分がそれらにどのように影響するのかを調査した、文字通り何千もの分子生物学的またはその他の研究がある」とIARCワーキンググループの長Dr. Christopher Portier氏は記者会見で話した。

「われわれの役割は科学的証拠を要約し、それを公共の場に届けることであり、曝露の許容範囲や他の規制に関する問題に取り組むことではない」とIARCの長Dr. Christopher Wild氏は言う。「その証拠資料を提供するが、他の要因とのバランスをどれだけとるかは、まさに国内または国家間の規制当局次第である」と付け加えた。

これらの問題は特に汚染を引き起こす旧式のディーゼル技術がいまだに広く使われている、排出規制がおぼつかない発展途上国で重要な問題であろう、と結論づけた。

癌標的治療薬(パニツムマブ)に対する耐性発生の理由は、治療開始前から存在する変異で説明可能

進行大腸癌に対してパニツムマブ(ベクティビックス)による治療を受けた患者の大半にパニツムマブに対する耐性が発生するが、その理由が新しい研究で示唆されている。すなわち、患者の腫瘍細胞の中には、パニツムマブを投与する前からすでに、パニツムマブ耐性の原因となる遺伝子を有する腫瘍細胞が少数ながら存在する可能性があることが、6月13日付Nature誌で報告された

KRAS遺伝子変異のない大腸癌では、通常、パニツムマブ投与後数カ月以内にパニツムマブに対する耐性が生じる。その理由を研究するため、シドニー・キンメル総合がんセンターのDr. Luis Diaz氏らは、28人の患者の血液検体で、パニツムマブ耐性の原因として最も一般的なKRAS遺伝子変異の有無を調べた。血液検体は、治療前と、治療中は4週間おきに採取した。

28人の患者のうち4人は、腫瘍でのKRAS遺伝子に変異があることがすでにわかっており、そのうち3人では治療開始の血液検体中にも変異型のKRAS遺伝子が検出された。腫瘍でのKRAS遺伝子変異が存在しないと考えられていた24人の患者では、治療開始前の血液中には変異型KRAS遺伝子は検出されなかった。

治療中に採取した血液検体を分析すると、この24人のうち9人に治療中にKRAS変異が生じたことが示された。KRAS変異出現の時期は、通常、パニツムマブ耐性が現れるのにかかる5~6カ月という期間と一致していた。

研究者らはこの知見を用いて、当初はパニツムマブの効果がみられた患者における腫瘍増殖の数学的モデルを開発した。このモデルにより、患者がパニツムマブによる治療を始める前から腫瘍内にはKRAS変異をもつ細胞がおそらくあったことが示された。そして、いったん治療が始まると、KRAS変異をもつ耐性細胞の数が増加した。「したがって、耐性は『覆すことのできない』既成事実である」ことが示唆される。

この研究に参加した患者の多くで変異は単一の遺伝子に生じたという事実は、限られた少数の変異と遺伝子のみが原因で耐性が生じる可能性を示唆していると研究者らは述べた。少なくとも2つの経路を標的とする薬剤で患者を治療すると耐性の予防が可能な場合があるため、この発見に勇気づけられると研究者らは結論づけた。

併用療法の検証が膵臓癌の生物学的特徴解明の手掛かりに

ある標的治療薬を単独で投与した後に化学療法との併用で投与するという試験治療を試みたところ、少数の進行膵癌患者に治療効果がみられた。あくまでも予備段階ではあるが、、予後が極めて不良なこの癌の患者の一部においてこの治療法の有用性を示唆する研究結果が、6月18~21日にネバダ州レイクタホで開催された「Pancreatic Cancer: Progress and Challenges(膵癌:進歩と挑戦)」集会で報告された。

試験参加者18人は、初めの数週間はビスモデギブ[vismodegib](Erivedge)のみの投与を受け、その後、ビスモデギブとゲムシタビンの併用療法を受けた。3カ月後に、患者の半数では、癌の進行が認められないか、または部分奏効が認められた。ビスモデギブは一部の皮膚癌患者に承認された錠剤で、ヘッジホッグシグナル伝達経路を阻害する。この経路は、ほとんどの成人組織では不活性状態であるが一部の膵癌細胞でスイッチがオンとなっている増殖促進経路である。さらに、ヘッジホッグ経路が活性化することによって腫瘍の周囲を多くの間質細胞が取り囲み、そのため化学療法薬の膵癌病巣への到達が妨げられるようになる可能性もあると、主任試験責任医師であるミシガン総合がんセンターのDr. Edward Kim氏は記者会見で説明した。つまり、ビスモデギブを用いることによって癌細胞に対する化学療法の効果が高まる可能性も示唆された。

しかし、併用療法はしばらくの間効果があっても、膵臓腫瘍内の癌幹細胞によって耐性につながる可能性があるとKim氏は述べた。これらの細胞は自己複製能力があると考えられている。これまでの研究で、膵癌幹細胞では、ヘッジホッグ経路が他の膵癌細胞と比べてより活性化されている可能性があることが示されている。

今回の試験の目的は、膵癌幹細胞中のヘッジホッグ経路を標的とすることが患者の利益になるかどうかを知ることである。ビスモデギブ開始の前後に採取された生検組織を比較することで、この薬剤のヘッジホッグ経路に対する効果が示され、どの患者がこの治療法から最も利益を得られそうかを明らかにできるだろう。

膵癌における別のもう一つのヘッジホッグ阻害剤の試験が、否定的な結果が出て最近中止された。そのため、この経路と膵癌におけるその役割についてさらに知ることは重要であると、記者会見で司会をしたトランスレーショナル・ゲノミクス研究所のDr. Daniel Von Hoff氏は述べた。

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滝川俊和、鈴木久美子 訳
須藤智久(薬学/国立がん研究センター東病院 臨床開発センター)、田中文啓(呼吸器外科/産業医科大学) 監修 
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