ネラチニブはHER2陽性乳癌の治療に有望である

キャンサーコンサルタンツ

2009年12月

タキソール(パクリタキセル)にネラチニブを追加投与すると、HER2陽性(HER2+)転移性乳癌女性において有望な奏効率が得られたことが、国際第1・第2相臨床試験に参加した研究者らにより報告された。これら結果は2009年のサンアントニオ乳癌シンポジウム(SABCS)で発表された[1]。

乳癌の20〜25%に、HER2の過剰発現が認められる。このHER2タンパクが過剰発現すると、癌細胞の過剰増殖が亢進され、乳癌の予後は不良となる。FDAが認可したHER2を標的とするHER2陽性乳癌の治療薬は、今のところハーセプチン(トラスツズマブ)だけである。ネラチニブは、HER4およびHER2と上皮成長因子受容体(EGFR)を標的とした、臨床試験中の経口薬である。 2008年のSABCSで、進行HER2陽性乳癌患者136人を対象としたネラチニブ単独投与の第2相臨床試験の結果が発表された[2]。

前治療としてハーセプチンの投与を受けたことのある患者は66人、受けたことのない患者は70人であった。奏効率は、ハーセプチン投与歴のある患者では26%、投与歴のない患者では51%であった。2009年のSABCSでは、この試験におけるネラチニブ単剤投与による循環器系・消化器系に対する毒性についての詳細が発表された[3]。この発表では、ネラチニブ投与にともなう重篤な心毒性はなかったが、下痢が有意に認められ、治療の初期に起こったとのことであった。下痢は、対症療法や投与の中断・投与量の減量などの対策を取ることで、容易に管理可能であると示唆された。

現在進行中の、HER2陽性乳癌女性におけるナベルビン(ビノレルビン)と併用した場合のネラチニブの第1・第2相臨床試験の結果が、 2009年のSABCSで発表された[4]。固形癌患者を対象として、ネラチニブとゼロ−ダ(カペシタビン)との併用療法も評価された [5]。

しかし、この2つの試験では、奏効が認められた例は少なかった。 タキソールと併用した際のネラチニブの安全性と有効性を評価するため、HER2陽性転移性乳癌女性を対象とした第1・第2相臨床試験が実施された。本試験の参加者中、数人は以前に転移性乳癌に対する治療を受けていたが、他の女性は治療を受けていなかった。

この試験は現在も進行中であるが、解析の時点で、タキソールとネラチニブの併用療法を受けた99人に関する情報が利用可能であった。 併用療法後、患者の69%に検出可能な病変の部分または完全奏効が認められた。全奏効率は、転移性乳癌に対する治療歴のない患者では70%、治療歴のある患者では68%であった。無増悪生存期間は、およそ1年(52.1週間)であった。主な副作用は下痢で、患者の91%で発症した。

コメント:これら結果から、ネラチニブとタキソールの併用療法は、HER2陽性転移性乳癌に対して効果があることが示唆された。この結果を基に、HER2 陽性進行乳癌の初回治療におけるネラチニブ+タキソールの併用療法をハーセプチン+タキソールの併用療法と比較するため、現在第3相臨床試験が行われている。

参考文献:

[1] Chow L, Gupta S, Hershman DL et al. Safety and efficacy of neratinib (HKI-272) in combination with paclitaxel in ErbB2+ metastatic breast cancer. Presented at the 32nd CTRC-AACR San Antonio Breast Cancer Symposium. December 9-13, 2009. San Antonio, TX. Abstract 5081.

[2] Burstein HJ, Sun Y, Tan AR, et al. Neratinib (HKI-272), An irreversible pan erbB receptor tyrosine kinase inhibitor: phase 2 results in patients with advanced HER2+ breast cancer. Cancer Research. 2009;69:meeting abstract supplement, page 725.

[3] Burstein HJ, Sun Y, Dirix L, et al. Gastrointestinal and cardiovascular safety profiles of neratinib monotherapy in patients with advanced ErbB2-positive breast cancer. Presented at the 32nd CTRC-AACR San Antonio Breast Cancer Symposium. December 9-13, 2009. San Antonio, TX. Abstract 5096.

[4] Awada A, Dirix L, Beck J, et al. Safety and efficach of neratinib (HKI-272) in combination with vinorelbine in ErbB2+ metastatic breast cancer. Presented at the 32nd CTRC-AACR San Antonio Breast Cancer Symposium. December 9-13, 2009. San Antonio, TX. Abstract 5095.

[5] Saura C, Martin M, MOroose R, et al. Safety of neraatinib (HKI-272) in combination with capecitabine in patients with solid tumors: a phase I/II study. Presented at the 32nd CTRC-AACR San Antonio Breast Cancer Symposium. December 9-13, 2009. San Antonio, TX. Abstract 5108


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翻訳担当者  山下裕子

監修 島村 義樹(薬学)

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