若い乳がん女性の多くは安全に出産できるとの国際試験結果

ダナファーバーがん研究所

妊娠を希望する乳がん患者に朗報がもたらされた。ホルモン受容体陽性乳がんを有する若年女性が妊娠を望んでホルモン療法(内分泌療法)を休止しても、がん再発のリスクは短期的に上昇しないということが、本日、New England Journal of Medicine誌で発表された新たな試験において明らかとなった。さらに、国際共同臨床試験POSITIVEの参加者においては、ホルモン療法を休止している間に、75%近くが1回以上妊娠し、65%近くが健康な赤ちゃんを出産した。

ホルモン受容体陽性早期乳がんを有する若年女性については、がん細胞からの成長刺激ホルモンへのアクセスを阻害させるホルモン療法が行われることが多い。ホルモン療法中は妊娠しないことが推奨されており、数年にわたる治療期間のために出産可能年齢を超えてしまう女性も多い。

本試験の筆頭著者であり、ダナファーバーがん研究所の若年乳がん女性プログラム責任者兼部長であるAnn Partridge医師(公衆衛生学修士)は、次のように語った。「幸いなことに、大半の早期乳がん女性は治癒します。しかし、現在の治療ガイドラインでは、女性から子どもを作る機会を奪ってしまうことが多い。POSITIVE試験から得たデータから、多くの若年患者は妊娠を望んでホルモン療法を安全に中断することができるということが示されました」。

国際研究チームの研究者らは、POSITIVE試験(Pregnancy Outcome and Safety of Interrupting Therapy for Women with Endocrine-ResponsIVE Breast Cancer)を企画し、妊娠を望んでホルモン療法を一時的に中断する場合の安全性、特に中断することで乳がん再発のリスクにどう影響するかを検討した。本試験の患者は、4大陸20カ国116施設から募集した。

本試験の上級統計学者であり、国際乳がん研究グループ(IBCSG)統計センターの共同責任者であるRichard Gelber博士は、次のように説明した。「世界各国の乳がんを有する若年女性は、妊娠するために、がんの治療に用いられるホルモン療法を中断するという選択を、乳がん再発リスクが上昇しないことを示すデータなしで行ってきました。この重大な疑問に回答するためには、世界各国との連携が必要でした」。IBCSG統計センターは、世界各国の臨床研究者と協力し、早期乳がん患者の転帰を改善する臨床試験結果を設計、分析、報告を行ってきた。

2014年12月から2019年12月の間、妊娠を希望する42歳以下の女性516人が本試験に登録され、ホルモン療法を最長2年間中断して妊娠を試みることを選択した。参加女性は、中断前に乳がんの手術を受け、ホルモン療法を18カ月から30カ月間行っていた。

追跡調査期間中央値41カ月の時点では、参加者44人に乳がんの再発が認められた。3年間の再発率は8.9%で、内分泌療法を中断していない外部グループの再発率9.2%と同等であった。

妊娠状況を追跡調査した女性497人のうち、368人(74%)が1回以上妊娠し、317人(63.8%)が1人以上の生児を出産し、合計365人の赤ちゃんが生まれた。この割合は、一般的な女性と比較して同等またはそれ以上であった。

国際乳がん研究グループを代表して国際研究の責任者を務めるOlivia Pagani医師は、次のように語った。「POSITIVE試験の主要結果により、エストロゲン依存性乳がんを有する女性の妊娠は実現可能であることが立証され、さらに妊娠はがん再発リスクを上昇させるというタブーを完全に打ち砕きました。ここ数年間、臨床研究により、エストロゲン依存性乳がんを有する女性に関する治療法は改善され、さらにPOSITIVE試験によって彼女らはライフプランを立て、人生をより良く生きる機会を得られます」。

試験参加者は、妊娠して出産後にはホルモン療法を再開することが強く推奨された。研究者らは、長期にわたる再発リスクを評価するため、試験参加者の追跡調査を継続する予定である。

POSITIVE試験は、ETOP-IBCSGパートナーズ財団の一部門である国際乳がん研究グループと、北米のAlliance for Clinical Trials in Oncologyが、Breast International Group(BIG)、米国National Clinical Trials Networkグループと共同で実施した。初期結果は、2022年サンアントニオ乳がんシンポジウムで報告された。

研究者らは、長期にわたる再発リスクを評価するため、試験参加者の追跡調査を継続している。研究者らは、ホルモン受容体陽性乳がんは最初の診断から何年も経ってから再発する可能性があるため、これまでの追跡期間が短いことがPOSITIVE試験の限界であると指摘している。

POSITIVE試験に対する研究支援については、以下のとおり。
Globally, POSITIVE receives grant support for central and/or local trial conduct from: International Breast Cancer Study Group own funds; Frontier Science & Technology Research Foundation; Southern Europe, Switzerland; BIG against breast cancer and Baillet Latour Fund, Belgium; Pink Ribbon Switzerland; Swiss Cancer League, Switzerland (KLS-3361-02); San Salvatore Foundation, Switzerland; Rising Tide Foundation for Clinical Research, Switzerland (CCR-15-120); Swiss Cancer Research Group, Switzerland and Clinical Cancer Research Foundation of Eastern Switzerland (OSKK); Gateway for Cancer Research, USA (G-15-1900); Breast Cancer Research Foundation (BCRF), USA; Roche Diagnostics International Ltd, Switzerland; Swiss Cancer Foundation, Switzerland; Piajoh Fondazione di Famiglia, Switzerland; Gruppo Giovani Pazienti “Anna dai Capelli Corti," Switzerland; Verein Bärgüf, Switzerland; Schweizer Frauenlauf, Bern, Switzerland; C&A, Germany; Dutch Cancer Society, Netherlands; Norwegian Breast Cancer Society, Norway; Pink Ribbon, Norway; ELGC K.K., Tokyo, Japan; Pink Ring, Tokyo, Japan; Korea Breast Cancer Foundation, Seoul, South Korea; Mr. Yong Seop Lee, Seoul, South Korea; and other private donors to support the conduct of the POSITIVE study within participating centers worldwide.

In North America, Alliance for Clinical Trials in Oncology receives support from the National Cancer Institute of the National Institutes of Health (NIH) under grant UG1CA189823 and the biorepository resource grant award number U24CA196171 https://acknowledgments.alliancefound.org; ECOG-ACRIN receives support under the EA NCORP grant award numbers: UG1CA189828 and UG1CA233196; SWOG Cancer Research Network receives support under the US NIH grant award numbers: UG1CA189974 and U10CA180888; and NRG Oncology receives support under the US NIH grant award number U10CA180868 and NCORP grant award number UG1CA189867. Canadian Cancer Trials Group (CCTG) participation in the POSITIVE trial is supported through a grant from the US National Cancer Institute of the NIH under the award number CA180863. Additional programmatic funding support for the CCTG is provided by the Canadian Cancer Society (#707213) and the Canada Foundation for Innovation. In addition, POSITIVE receives support from RETHINK Breast Cancer, Canada and the Gilson Family Foundation, USA.

  • 監訳 小坂泰二郎(乳腺外科/JA長野厚生連 佐久総合病院 佐久医療センター)
  • 翻訳担当者 平 千鶴
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  • 原文掲載日 2023/05/03

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