ホルモン療法とリボシクリブ併用は、最も多いタイプの乳がん再発リスクを低下させる

米国臨床腫瘍学会(ASCO)

ASCOの見解 

「まだ初期の段階ではありますが、これらの結果は非常に有望であり、ステージ2以上のホルモン受容体陽性(HR陽性)HER2陰性乳がんに対し、リボシクリブ(CDK4/6阻害薬)が術後療法の一端を担う可能性があることを示しています」と、ASCO専門家のRita Nanda医師は述べた。

ホルモン(内分泌)療法に標的治療薬ribociclib[リボシクリブ](商標名:Kisqali[キスカリ])を併用すると、HR陽性HER2陰性早期乳がん患者の無浸潤疾患生存期間(iDFS)が有意に改善することが示された。本研究は、米国臨床腫瘍学会年次総会2023(ASCO2023)で発表される。 

HR陽性HER2陰性乳がんは、最も多くみられるタイプであり、米国における乳がん患者の70%近くを占めている。

試験要旨

目的ホルモン受容体陽性、HER2陰性早期乳がん術後療法として、ホルモン療法にリボシクリブを併用する。
対象者HR陽性HER2陰性で再発リスクがあるステージ2A、2B、3の男性あるいは閉経前、閉経後の女性乳がん患者5,101人
結果・患者を、術後療法としてのリボシクリブとホルモン療法を併用する群(2,549人)と、ホルモン療法を単独で行う群(2,552人)のいずれかに無作為に割り付けた。
・追跡期間中央値34カ月の時点で、リボシクリブ群の20.2%が3年間の治療を完了し、56.8%が2年間の治療を完了した。
・iDFSイベント426件の事前に規定した中間解析では、リボシクリブ群で189人(7.4%)、ホルモン療法単独群で237人(9.2%)の患者が再発を経験した。
・ホルモン療法にリボシクリブを併用することで、iDFSが有意に改善された。3年間のiDFS率は、ホルモン療法単独群の87.1%に対し、リボシクリブ群では90.4%だった。
・全体として、リボシクリブの併用により、再発のリスクが25%減少した。
重要性 HR陽性HER2陰性早期乳がんの、リンパ節に転移がない患者も含む幅広い集団において、ホルモン療法とリボシクリブの併用によりiDFSの有意な改善が見られ、これらの患者に対する新しい治療選択肢となり得ることが裏付けられた。

主な知見 

試験参加者は、ホルモン療法5年以上と術後療法としてのリボシクリブを3年間投与する併用群と、ホルモン療法を単独で行う群とに無作為に割り付けられた。追跡期間中央値34カ月の時点で、リボシクリブ併用群の20.2%が3年間の治療を完了し、56.8%が2年間の治療を完了していた。全体では、データカットオフ時に74.7%の参加者が試験治療を継続しており、リボシクリブ併用群では1,984人、ホルモン療法単独群では1,826人であった。

本試験では、ホルモン療法とリボシクリブの併用は、ホルモン療法単独と比較してiDFSが有意に改善することが判明した。研究者らは、中間解析のためにあらかじめ規定した数である426件のiDFSイベントが発生した後にiDFSを評価した。このうち、リボシクリブ併用群では189件(7.4%)、ホルモン療法単独群では237件(9.2%)に再発が認められた。3年間のiDFS率は、リボシクリブ併用群が90.4%であったのに対し、ホルモン療法単独群は87.1%であった。全体として、リボシクリブの併用により再発のリスクが25%減少した。リボシクリブ併用群で見られたiDFSの有効性は、臨床的に関連する患者サブグループで概ね一貫していた。また、リボシクリブは、全生存期間、無再発生存期間、無遠隔転移生存期間において、より良好な結果を示した。

リボシクリブ併用群で最もよく見られた副作用は好中球減少症および関節痛であった。消化器系の副作用と疲労の割合は少なかった。ホルモン療法単独群で最もよく見られた副作用は、関節痛とホットフラッシュであった。

「現在承認されている標的治療薬は、HR陽性HER2陰性の早期乳がんと診断された一部の患者さんにしか使用できず、多くの患者さんはがんの再発リスクを低減する有効な治療法がないままです」と、カリフォルニア州ロサンゼルスのUCLAジョンソン総合がんセンター、レブロン/UCLA女性のがん研究プログラムおよび臨床/トランスレーショナル研究のディレクターであり、筆頭著者でもあるDennis J. Slamon医師/医学博士は述べた。「つまり、再発リスクを低減することと、日常生活に支障をきたさない忍容性のある治療選択肢を提供することの両方において、大きなアンメットニーズが存在しています。NATALEE試験は、標準治療の術後ホルモン療法にリボシクリブを併用することを検討し、これらのアンメットニーズに対応するため特別に設計されました」。

HR陽性乳がんは、乳がん全体の約3分の2を占め、閉経後に多くみられる。著者によると、HR陽性HER2陰性のステージ2の患者では約3分の1、ステージ3の患者では2分の1以上が標準治療後に再発を経験する。再発した場合、より進行した病期であることが多い。

ribociclib[リボシクリブ]は、低分子阻害薬と呼ばれる標的治療薬の一種である。乳がん細胞内のCDK4およびCDK6と呼ばれるタンパク質を標的とし、がん細胞などの細胞の成長を調節することで効果を発揮する。リボシクリブは現在、HR陽性HER2陰性の進行または転移性乳がんの治療薬として、閉経前の患者ではアロマターゼ阻害剤との併用、閉経後の患者ではフルベストラントとの併用で、米国食品医薬品局(FDA)に承認されている。リボシクリブは、これまで転移を有する患者において生存率の向上を示してきたが、本試験では、リンパ節に転移していない早期の患者の予後についても改善する可能性が示された。

試験について

NATALEE第3相臨床試験には、20カ国から、ステージ2A、2B、3のHR陽性HER2陰性乳がんで、再発リスクがある男性および閉経前または閉経後の女性が参加した。参加者は、リボシクリブ400ミリグラム(mg)を術後療法として3年間投与し、ホルモン療法を5年以上行う群(2,549人)、またはホルモン療法を単独で5年以上行う群(2,552人)のいずれかに無作為に割り付けられた。男性と閉経前の女性には、卵巣抑制薬であるゴセレリン(ゾラデックス)も投与された。ホルモン療法の先行は、試験開始前1年以内に開始されたものであれば許可された。

現在、転移のある患者に対するリボシクリブの推奨開始用量は600mgである。しかし、治療期間を延長することで、細胞の複製や分裂を止め、残ったがん細胞を破壊することができる。このため著者らは、有効性を維持しながら副作用を軽減するため、リボシクリブの用量400mg、治療期間3年を選択した。

次のステップ

ホルモン療法にリボシクリブを併用することがQOLにどのような影響を与えるかを引き続き評価し、長期的な転帰を観察するために患者を追跡調査する予定である。

本試験は、ノバルティスファーマ株式会社から資金提供を受けた。

  • 監訳 下村昭彦(乳腺・腫瘍内科/国立国際医療研究センター乳腺腫瘍内科)
  • 翻訳担当者 平沢沙枝
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  • 原文掲載日 2023/06/02

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