乳がん化学療法による神経障害にアルゼンチンタンゴ ダンス療法

化学療法の副作用としてよくみられる神経障害を伴う乳がんサバイバーに、アルゼンチンタンゴをアレンジしたダンス療法が自然なバランスと感覚を取り戻す助けとなっている。化学療法によって変化した神経機能の改善に、音楽による運動介入がどのように脳を「再配線 」しているのか、新たな臨床試験を延長して行う予定である。

今回の試験の責任者であるLise Worthen-Chaudhari博士(オハイオ州立大学総合がんセンターのアーサー・G・ジェームズがん病院およびリチャード・J・ソロブ研究所およびオハイオ州立大学医学部理学医学・リハビリテーション学科の研究者)は、ダンスと音楽によって、いかに身体が「再学習」をして感覚を取り戻し、神経障害を克服しているかを調べた。神経障害は手足の神経に影響を及ぼし、しびれ、ほてり、感覚の喪失を引き起こす。神経障害があると、転倒のリスクが高まり、タキサン系化学療法を受けたがんサバイバーの約80%で日常生活が困難になる。Worthen-Chaudhari氏氏は、この新しいダンス療法は多くの人にとって救いになると同時に、神経障害を和らげることで生活の質も向上させると指摘する。

「ダンス療法の本質は、がんサバイバーが、単に生きていくというだけではなく、人生を取り戻し、成長するのを助けるということです。楽しくて効果がある方法を提供することで、感覚運動能力を向上させ、転倒の不安を軽減し、最終的には全体的な幸福感を高めることができるのです」とWorthen-Chaudhari氏は語った。

「デュアルタスク」機能の重要性

2024年、Worthen-Chaudhari氏らは、神経障害を有する乳がんサバイバーにおいて、短時間の社交ダンスは、長時間の自宅での運動と比較して、デュアルタスク機能を改善するという試験的データを報告し、それは認知的エンゲージメントの違いによるものであろうと報告した。

Worthen-Chaudhari氏らは、5年間の延長試験では、OSUCCC-JamesおよびYale大学で治療を受けた乳がんサバイバー140人の参加を見込んでいる。この研究では、デュアルタスク遂行能力(動きながら同時に考える能力)の測定に焦点を当てる。これは、歩行や親しい人との交流といった日常的な活動にとって重要である。研究の目的は、タンゴ療法の効果が長期にわたって持続するかどうか、また、タンゴ療法によって運動と認知機能の両方が改善されるかどうかを確認することである。

「脳と身体のつながりは、調整機能を向上させ、転倒のリスクを軽減します。私たちの試験的研究のデータでは、週に数回、わずか20分程度の社交ダンスをすることで、がん治療によって影響を受けた神経経路が再配線される可能性が示されました」とWorthen-Chaudhari氏は述べ、この研究は、糖尿病、認知症、神経変性疾患、一般的な老化など、バランスや足の感覚に影響を与える他の疾患を持つ人々にも有益であると指摘した。

なぜアレンジしたアルゼンチンタンゴなのか?

運動は、損傷した神経組織への血流を増加させるが、長期的に行うのは難しい。

アルゼンチンタンゴの毎分約120拍のリズムは、2つ以上の振動(脳波や行動など)が合致する同調(リズムの協調)と呼ばれる神経現象の活性化に役立つ。ここでデュアルタスク機能という概念が登場する。音楽は脳の神経活動を合図に身体を動かす。試験的データでは、この繰り返しゆっくりとした音楽とウォーキングダンスが、化学療法で損傷した神経の再マッピングに役立つことが示されている。一貫して参加することはハードルが高いので、試験的研究では 「楽しく 」社会的なものにすることがコンプライアンスの重要な原動力になった、とWorthen-Chaudhari氏は指摘する。

「この種の治療によって、がんサバイバーの気分が良くなるだけでなく、全体的な機能と生活の質が向上することを目の当たりにして、驚いています」と同氏は語った。

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