Her2低発現乳がんに対するトラスツズマブ・デルクステカンの副作用解析

HER2低発現の転移乳がんに対する抗体薬物複合体であるトラスツズマブ・デルクステカン(T-DXd、販売名:エンハーツ)の画期的ランダム化第3相試験に基づく安全性解析の結果、嘔吐と吐気の発症が非常に多いことが確認された。間質性肺疾患(ILD)も懸念されており、改善後の再投与の適否は明確ではない。

2022年8月にHER2低発現の乳がん患者に対して米国食品医薬品局(FDA)承認を受けたT-DXdは、しかしながら、これまでの報告と一致する管理可能な安全性プロファイルを示していることが、2023年の欧州臨床腫瘍学会(ESMO)乳がん会議で報告された。
しかし、同薬の副作用には、高度な間質性肺疾患/肺炎もあり、FDAも注意を促している。

今回報告されたのは、2022年7月にNew England Journal of Medicine誌に発表されたDESTINY-Breast04試験の追加の安全性データである。この試験では、373人の患者がT-DXdを投与され、184人が医師の選択治療を受けました。その結果、「すべての患者の中で、トラスツズマブ・デルクステカン群の無増悪生存期間中央値は9.9ヶ月であり、医師の選択治療群では5.1ヶ月であった(疾患進行または死亡のハザード比0.50、P < 0.001)。また、全生存期間はそれぞれ23.4ヶ月と16.8ヶ月であり(死亡のハザード比0.64、P = 0.001)、T-DXd群ではいかなるグレードの治療関連有害事象の発生率も、医師の選択治療群に比べて低かった(1.30 vs 2.66)(曝露調整後)。

ただし、吐気と嘔吐の事象は、T-DXdを服用した患者では医師の選択治療を受けた患者に比べて2倍以上多かった(79.5% vs 35.5%)。好中球減少症および発熱性好中球減少症は、T-DXd群では医師の選択治療群に比べて頻度が低かった(それぞれ12.9% vs 18.0%、0.3% vs 2.9%)。

間質性肺疾患(ILD)は、T-DXd群の患者45人(12.1%)と医師の選択治療群の患者1人(0.6%)で発生した。T-DXd群の患者のうち、10人の患者はデータカットオフ時点で回復していなかった。ILDから回復した後、6人の患者が再投与を受けた。そのうち1人は副作用のため中止、2人は病気の進行のため中止、3人は薬剤を継続しました。「T-DXdの再投与を受けた患者数がわずかであるため、ILDから回復後の再治療の効果については臨床的に有意な結論を得るのは困難であった。

討論の中で、著者は、ILDはT-DXdに関連する重要なリスクであり、管理ガイドラインと最新の毒性管理ガイドラインに従うことが重要だと語った。また、T-DXd療法を患者が耐えるために制吐剤を2、3種類処方することにより吐き気の管理が大幅に改善され、症状が軽減されるにつれて制吐剤を減らしていくことが述べられた。

「重要なメッセージの一つは、最初から患者に吐気と嘔吐のための適切な予防策を施すことです。」

関連レポートも発表された。HER2陽性の転移乳がんでトラスツズマブ・エムタンシンに耐性または不応である患者を対象としたT-DXd(n = 406)と医師の選択治療(n = 202)のランダム化第3相試験、のDESTINY-Breast02(The Lancet誌April 19, 2023)の患者報告アウトカムの解析です。

これらの試験は、第一三共株式会社と AstraZeneca社により実施された。著者情報は論文リンクを参照のこと。

監訳  尾崎 由記範(腫瘍内科・乳腺/がん研究会有明病院)
記事担当者  野中 希
参考原文  
原文掲載日  2023/5/15

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