薬剤が乳癌の骨転移を阻止するとの研究結果/トロント大学2006/5

薬剤が乳癌の骨転移を阻止するとの研究結果/トロント大学2006/5

キャンサーコンサルタンツ
2006年5月

国際的な研究チームが、腫瘍が骨に転移(拡がる)する能力において決定的に重要な意味を持つ可能性がある分子を特定した。本研究は、トロント大学で開始し、ウィーンのオーストリア科学アカデミーの分子生物工学研究所(IMBA)(the Institute of Molecular Biotechnology of the Austrian Academy of Sciences (IMBA)で継続し、RANKLと呼ばれる骨内のタンパクが乳癌、前立腺癌、皮膚癌の細胞に骨内に遊走するよう伝達することが明らかになった。さらに、RANKLの活性を阻害することが知られているある薬剤は、癌が骨内に拡がることを予防する可能性がある。

約120年前、骨組織が癌細胞を誘導して骨に入り込ませるある種の分子を生産するのではないかと研究者らは予測した。多くの人々は原発癌よりむしろ、転移腫瘍、すなわち他の部位に生じた癌によって死亡するが、特に骨は遊走する癌の「種子」にとって肥沃した「土壌」である。進行性乳癌患者の70%および前立腺癌患者の84%に骨転移が生じると推定されている。

D. Holstead Jones氏はトロント大学のJosef Penninger教授の医学生物物理学および免疫学研究室の元博士研究員で、3月30日発行のNature誌で発表される本論文の主著者である。研究チームには西オンタリオ大学の生理学および薬理学の研究者も含まれている。現在、Josef Penninger教授は本プロジェクトを継続しているウィーンのIMBAの責任者である。

Jones氏とその同僚、特にTomoki Nakashima氏は骨髄内で大量に産生されるRANKLというサイトカインがRANKL受容体を通じて乳癌、前立腺癌、および皮膚癌の細胞に作用することを明らかにしている。過去数年間、Penninger教授の研究室ではRANKLが骨吸収および乳腺組織を形成する細胞増殖の制御において必須であることを確認した。これら2つの発見を併せ、本チームは乳癌、骨転移とRANKLシステムとの関連性を研究することにした。

Jones氏らはRANKL阻害剤で知られるオステオプロテゲリン(OPG)と呼ばれる薬剤を黒色腫のマウスモデルに投与して骨転移を研究した。「OPGを投与したマウスの腫瘍は、投与しなかったマウスより骨内の腫瘍がより少なかった」と現在、オンタリオ工科大学保健学科の准教授であるJones氏は述べる。例えば、対照群のマウスでは長骨、椎骨、卵巣、副腎、および脳への癌転移がみとめられる。また、対照群のマウスの進行性の腫瘍増殖によって脊髄への浸潤に引き続いて麻痺が生じる。しかし、OPGを投与したマウスでは、骨及び椎骨への転移が有意に減少し、OPGを投与されたマウスには麻痺が全く生じなかった。OPGを投与したマウスではその他の臓器への転移が遅くなるわけではないことに研究者らは注目した。

RANKLまたはRANKL受容体を阻害する薬剤はヒトの骨転移も遮断する可能性があると研究者らは示唆している。「複数の新規RANKL阻害剤の臨床開発が大いに進んでいることから、骨転移を起こすと知られている癌の患者は、診断された時点からこの阻害剤の服用を開始することができるのではないかということを狙ったものである」とJones氏は述べる。「この阻害剤によってどれほど多くの転移を回避できることか。そして、骨転移をどこまで抑止できるかは癌の病期によるが、予防手段になるだけでなく、骨内部の腫瘍による痛みの多くが緩和される可能性がある」。

「その所見はマウスを用いた研究に基づいているので、ヒトに応用する場合は常に慎重にならなければならない」と、Penninger教授は警告している。しかし、RANKLを阻害する薬剤は既に後期相の臨床試験に入っており、それは近い将来、直接癌患者に試験が行われるであろうことを意味している。「毎年100万人に骨転移が起こると推定され、特に乳癌の女性に顕著にみられる」と、Penninger教授は述べる。「問題は、そのような癌転移が激しい疼痛を引き起こすことにある。癌患者のQOLを改善できるわれわれの研究結果によれば、患者の延命には至らないかもしれないが、もし、われわれが正しいならば癌患者のQOLをよりよいものとすることができるだろう」。

本研究は、マクギル大学および西オンタリオ大学の研究者が参加し、資金提供施設は以下の通りである。

the Canadian Institutes of Health Research, the Canadian Arthritis Network, the Arthritis Society, the National Cancer Institute of Canada, IMBA, the Austrian National Bank, a European Union Marie Curie Excellence Grant and a European Union Marie Curie Mobility Fellowship

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翻訳担当者 吉村 祐実

監修 平 栄(放射線腫瘍医)

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