2007/10/23号◆特別レポート「増加する予防的両側乳房切除への懸念」

同号原文
NCI Cancer Bulletin2007年10月23号(Volume 4 / Number 28)
____________________

◇◆◇特別レポート◇◆◇

増加する予防的両側乳房切除への懸念

片方の乳房のみに癌が見つかった女性が予防手段として両方の乳房を外科的切除する率が、米国においてこの6年の間に2倍以上になったとの調査結果が、10月22日付けのJournal of Clinical Oncology誌オンライン版に掲載された。多くの場合積極的な治療は不要であるかもしれず、そして、侵襲が少ない他の予防手段があるにも関わらずこの傾向が起きていることに研究者らは警告した。

対側乳癌の年間発症率は約0.5%~0.75%で時間による変化はない。一方の乳房に癌がある(片側性乳癌)患者の中には、対側の乳癌予防の為に対側乳房切除を選択する人もいる。この処置は予防的対側乳房切除(CPM)と呼ばれている。米国における初めてのCPMの傾向調査においてミネソタ大学の研究者らは、1998年から2003年の間に片側性乳癌と診断された患者の治療方法を検討するために、NCIのSEER(Surveillance, Epidemiology and End Results)癌登録データベースを分析した。彼らは外科手術を行った全ての患者に対するCPM率と乳房切除を行った全ての患者に対するCPM率を調査した。

152,755人が調査対象となり、その内の4,969人はCPMを選択した。CPM率は外科手術を行った患者全体では3.3%、また、乳房切除を行った患者全体では7.7%であった。全体に占めるCPMの割合は、1998年には1.8%であったのが2003年には4.5%と有意に増加した。同様に乳房切除を行った患者のCMP率も1998年の4.2%から2003年には11%と有意に増加した。これらの増加は全ての病期でみられ、そして調査期間終了まで続いた。

研究者らは、CPMにより対側乳癌のリスクを大幅に低下させることは認識しているが、しかしこの処置はより侵襲的かつ不可逆的であり、そして、「多くの患者には対側乳癌予防のためには不必要である」。さらに、片側乳癌から全身転移するリスクがしばしば対側乳癌となるリスクを上回るため、多くの患者はCPMによって生存の恩恵を経験することはないであろう。

「今日、乳癌はしばしば早期ステージで診断され、そして、この不可逆的処置が全生存率を向上させることを示すデータがごくわずかしかないにもかかわらず、より多くの女性がCPMを行っているのを目撃している」と主著者であるDr Todd M Tuttle氏は説明した。「われわれは、なぜこの様なことが起こっているのかを究明し、そして侵襲が少ないオプションの可能性について女性に助言をするためにこの情報を利用する必要がある。」

NCIの癌疫学・遺伝学研究部門(DCEG: Division of Cancer Epidemiology and Genetics)のスタッフ臨床医であるDr Larissa Korde氏は、「興味深いことに、同時期に乳房温存手術の割合も増加した。そして著者たちは、患者は片側だけの乳房切除術より、むしろ侵襲が少ない(乳房温存術)あるいはより侵襲的(CPM)な外科的治療のどちらかを選択していたとの結論に達した。」との調査結果に注目した。

Dr.Tuttle氏はCPM率が増加したいくつかの可能性のある理由を提示した。乳癌の遺伝学の認識がより一般的になり、そして、両側乳癌リスクを高めるBRCA遺伝子の突然変異を調べる検査がより頻繁に行なわれるようになったことである。(しかしこの研究では患者のBRCAの状態を検査していない。)侵襲の少ない乳房切除手術方法と改善された乳房再建技術も、より多くの女性を同時に両側乳房切除へと促したのかもしれないと彼は示唆した。

Dr.Korde氏はこの調査により、若年で癌と診断された患者や小葉癌と診断された患者にCPMを選択する傾向が強いことが判明したと指摘した。「これら2つの要因は対側乳癌リスクの増加と関係していることが示されているため、驚くことではない」と、彼女は語った。「強い家族歴のある女性や、特にBRCA1とBRCA2の既知の突然変異は対側乳癌のリスクがかなり高くなるため、この研究において家族歴に関する情報があれば非常に有益であっただろう。しかしその情報はSEERのデータベースにはない。」

片側性乳癌患者には、CPMより「極端でない」オプションがある、と研究者らは主張した。これらには、臨床的乳房診察、マンモグラフィや、早期癌の発見も可能な乳房MRIといった新しい画像診断様式による監視を含む。

Dr.Korde氏は、遺伝子リスク評価を受けた女性で行われた研究では、癌に関する苦悩を伴う患者はCPMを選択する可能性が高いことを示している点に注目した。この意思決定プロセスを完全に解明するために、さらなる研究が必要である。

******
Nogawa 訳
榎本  裕  (泌尿器科) 監修 
******

【免責事項】
当サイトの記事は情報提供を目的として掲載しています。
翻訳内容や治療を特定の人に推奨または保証するものではありません。
ボランティア翻訳ならびに自動翻訳による誤訳により発生した結果について一切責任はとれません。
ご自身の疾患に適用されるかどうかは必ず主治医にご相談ください。

乳がんに関連する記事

HER2陰性進行乳がんにエンチノスタット+免疫療法薬が有望の画像

HER2陰性進行乳がんにエンチノスタット+免疫療法薬が有望

ジョンズホプキンス大学ジョンズホプキンス大学キンメルがんセンターの研究者らによる新たな研究によると、新規の3剤併用療法がHER2陰性進行乳がん患者において顕著な奏効を示した。この治療で...
英国、BRCA陽性の進行乳がんに初の標的薬タラゾパリブの画像

英国、BRCA陽性の進行乳がんに初の標的薬タラゾパリブ

キャンサーリサーチUKタラゾパリブ(販売名:ターゼナ(Talzenna))が、英国国立医療技術評価機構(NICE)による推奨を受け、国民保健サービス(NHS)がBRCA遺伝子変異による...
乳がん術後3年以降にマンモグラフィの頻度を減らせる可能性の画像

乳がん術後3年以降にマンモグラフィの頻度を減らせる可能性

米国がん学会(AACR)  サンアントニオ乳癌シンポジウム(SABCS)50歳以上で、初期乳がんの根治手術から3年経過後マンモグラフィを受ける頻度を段階的に減らした女性が、毎年マンモグ...
早期乳がんにリボシクリブとホルモン療法の併用は転帰を改善:SABCSの画像

早期乳がんにリボシクリブとホルモン療法の併用は転帰を改善:SABCS

MDアンダーソンがんセンターアブストラクト:GA03-03

Ribociclib[リボシクリブ](販売名:Kisqali[キスカリ])とホルモン療法の併用による標的治療は、再発リスクのあ...