2007/05/29号◆癌研究ハイライト「乳癌遺伝的変異」「シスプラチン、子宮頸癌生存を改善」ユーイング肉腫、ウィルムス腫瘍
同号原文|
NCI Cancer Bulletin2007年5月29日号(Volume 4 / Number 18)
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◇◆◇癌研究ハイライト◇◆◇
乳癌に関連する共通した遺伝的変異
研究者らはいくつかの地域住民の女性において、乳癌に関連する共通した遺伝的変異を見つけた。その遺伝的変異は、ある種の乳癌において増殖すると以前報告されたFGFR2(線維芽細胞増殖因子受容体2遺伝子)と呼ばれる腫瘍抑制遺伝子の中に見られる。
米国および英国の独立した2つの研究チームはゲノムと疾患との関連性を調べることにより、乳癌感受性遺伝子を探した。研究者らは、数千人の女性の乳癌患者および健康な女性から採取したDNAをスキャンした。両方の研究において、FGFR2の変異は疾病リスクと関連性があった。
ハーバード大学公衆衛生学部および国立癌研究所所属で、米国における上記研究の主著者であるDr. David Hunter氏は、「この遺伝子は乳癌に対する非常に大きな新しい危険因子である」と述べている。また、「この発見によって治療および予防に関与し得る、遺伝子およびそのシグナル経路の研究への新たな手段が切り開かれる。」とも述べている。
ヨーロッパ出身の女性では、変異遺伝子が単一コピーである場合は乳癌リスクが20%増加する。一方で、2つのコピー遺伝子がある場合は、リスクは60%または単一家族内に乳癌患者がいる場合のリスクと同等まで増加する。白人女性の約15%が2つの変異遺伝子を保有していると推定される。
Dr. David Hunter氏は、「FGFR2の危険変異の研究のために女性を調査することは時期尚早であるかもしれない。国立癌研究所による癌感応遺伝子マーカーイニシアティブ(CGEMS:Cancer Genetic Markers of Susceptibility)によって実施された研究の一部としてもたらされたゲノムデータを研究者らが分析することで、さらにその他の変異が発見される可能性がある」と述べている。
本研究の次の段階として、CGEMSの研究者らは、一連の共同研究の実施中に主としてNCI乳癌および前立腺癌コホートコンソーシアム(Breast & Prostate Cancer Cohort Consortium)から得られた29,000の乳癌リスク関連変異を評価している。
「ゲノム関連試験法をふるいにかけることで、われわれは乳癌遺伝子に対する理解に対して重要で密接な関係のある発見を必ずする。」と、国立癌研究所高位学者であるDr.Hunter氏は述べている。
これらの発見については、5月27日号のNature Geneticsに記載された。同日、NCIの癌疫学および遺伝学部門(DCOG:Division of Cancer Epidemiology and Genetics)の研究者が参加した英国の研究チームは、Nature誌のオンライン記事に研究結果を発表した。ケンブリッジ大学癌研究所のDr. Douglas Easton氏らは、FGFR2およびその他の乳癌感受性遺伝子(TNRC9, MAP3K1, and LSP1)を見つけた。
乳癌感受性におけるこれらの遺伝子の機能については知られていない。これらをもとに、新らたな研究結果によって乳癌の新しい生化学的プロセスを見つける情報を提供し、またBRCA突然変異によっては説明できない家族性リスクについての解明に寄与するかもしれない。
「その他のチームによっても発見された遺伝子をわれわれが直ちに見つけたことは心躍ることであり、また非常に心強いことでもある。」と、DCEGのCore Genotyping Facility所長であるDr. Stephen Chanock氏は述べている。
治療が困難な急性リンパ性白血病に対して有効なダサチニブ
36人を対象とした第2相臨床試験結果によって、分子標的薬であるイマチニブ(グリベックを用いた治療に抵抗性を示した、またはその治療が奏効しない急性リンパ性白血病の成人患者に対し、多標的チロシンキナーゼ阻害剤であるダサチニブ(スプリセル)は極めて有益である可能性が示された。
しばしばフィラデルフィア染色体と呼ばれ、急性リンパ性白血病と診断された後の急速な疾病進行、および低い生存率に関連がある特定の染色体転座が本臨床試験に参加した患者にみられた。この染色体転座がBCR-ABLとして知られる融合蛋白を産生する。融合蛋白は通常は慢性骨髄性白血病に見られ、イマチニブが有効な治療とされている。
「イマチニブを含め、現在の治療法に抵抗性を示す患者が本試験に登録されたことから、これらのデータは非常に有意義である。」と、主任研究者であるヨハン・ヴォルフガング・ゲーテ大学のDr. Olivier Ottmann氏らは5月11日付けでBloodのオンライン記事上に述べている。
本研究では、毎日70mgのダサチニブを2回投与された患者は強い血液学的および細胞遺伝学的効果が得られた。このことはそれぞれ、白血球数が通常に戻り、フィラデルフィア染色体陽性を示す細胞数が著しく減少したことを意味している。8ヶ月で42%の患者が血液学的効果を示し、そのうち3分の2が無増悪、58%の患者が遺伝子学的CR(完全寛解)を示した。
シスプラチンにより子宮頸癌女性の生存期間が改善
局所的に進行した子宮頸癌の放射線療法に追加する療法として、シスプラチンを中心とする化学療法とヒドロキシウレアとを比較するためGynecologic Oncology Group (婦人腫瘍学グループ)が実施した臨床試験から、長期フォローアップの結果がJounal of Clinical Oncology のオンライン版に発表され、シスプラチンを中心とする化学療法がヒドロキシウレア単独投与と比較して、無進行生存期間および全生存期間に有意な改善をもたらすことが示された。晩期副作用をみた女性の割合は、治療群間で有意差がなかった。
試験担当医師らは被験者女性をランダム化により3群に割り付けた。第1群はシスプラチン単独、第2群は化学療法薬ヒドロキシウレア単独、第3群はシスプラチン、ヒドロキシウレアおよび5-フルオロウラシル(5-FU)の併用とした。いずれも放射線療法の期間に投与され、どの女性にも同じ種類の放射線療法を同一線量で施行した。
平均でほぼ9年間、患者を追跡した。シスプラチン単独投与またはシスプラチン、5-FUおよびヒドロキシウレア併用投与を受けた女性では、ヒドロキシウレア単独投与を受けた女性より、癌の局所進行度に関係なく無進行生存期間および全生存期間が有意に延長した。副作用の分析では、シスプラチンを単独または併用レジメンで投与した女性の方が生存者が多かったという事実によって補正しても、試験担当医師らは各治療群の晩期副作用に有意差を認めなかった。
「総合的にみると、今回のフォローアップ分析により、局所進行した子宮頸癌にはシスプラチンを中心とする化学療法と骨盤の放射線療法とを併用する方法が有効であることが、これまで通り裏づけられた」と、著者らは締めくくった。
カスパーゼ-8が操るユーイング肉腫のTRAIL抵抗性
ドイツ、フライブルク市のアルバート・ルードヴィヒ大学(Albert Ludwigs University)の研究者とNCI癌研究センター(Center for Cancer Research)(CCR)の研究者の共同研究により、腫瘍壊死因子関連アポトーシス誘導リガンド(TRAIL)と呼ばれる実験段階の治療タンパクに対してユーイング肉腫(ES)が抵抗性を示す機序と、この抵抗性を克服する可能性がある方法が発見された。 共同研究の結果は、American Journal of Pathologyの6月号に発表された。
これまでの研究では、カスパーゼ-8の欠損と、ES細胞をはじめとする腫瘍のTRAIL抵抗性との間に何らかの関係があると考えられてきたことから、研究者らはカスパーゼ-8の発現に着目した。まず、ES患者47人から集めた組織サンプルを観察した。このサンプルの3/4で、細胞の60~100%にカスパーゼ-8の発現が認められた。残りのサンプルでは、カスパーゼ-8発現細胞が0~50%にとどまった。このため、個々のES腫瘍の内部で、カスパーゼ-8欠損細胞がTRAIL抵抗性を引き起こすのではないかと考えられた。
研究者らは次に、細胞のカスパーゼ-8発現を増大させることが研究所で示されたインターフェロン-γ(IFN-γ)によって、TRAILを用いた治療に対するカスパーゼ-8低発現ES細胞の感度が高まるかどうかを試験した。カスパーゼ-8欠損細胞株に、患者が難なく耐用できる範囲内の用量でIFN-γを投与すると、カスパーゼ-8の発現が増大することがわかった。IFN-γ投与細胞にTRAILを用いるとアポトーシスを来たし、TRAILに対する感度が回復したことが示された。
別のin vitroの実験では、化学療法にはカスパーゼ-8を欠損した腫瘍細胞に対する選択性がないため、化学療法後にTRAILを用いた治療を行っても効果が低いと考えられることが示された。遺伝子操作またはIFB-γを加えることによって細胞のカスパーゼ-8発現レベルを変えても、細胞の化学療法に対する感度は変わらず、「ESではTRAILおよびIFN-γと標準化学療法との併用が実現可能と考えられる」と著者らは述べた。
WTX、ウィルムス腫瘍で腫瘍抑制因子となることが判明
Wntシグナル伝達経路に異常が生じた場合、β-カテニンを標的とするタンパク分解複合体ではWTXと呼ばれるタンパクが重要な因子となることが新たな試験により発見された。試験の結果はScienceの5月18日オンライン版に発表された。β-カテニン活性化がウィルムス腫瘍を引き起こすと言う。
ハワード・ヒューズ医学研究所(Howard Hughes Medical Institute)のDr.Michael B. Majorらは、まず、細胞溶解物中でβ-カテニンに結合するタンパクを明らかにするためプロテオーム解析を利用した。タンパク分解複合体では、WTXがβ-カテニンと相互作用することがわかった。さらにWTXの活性を探るため、WTXを発現した培養細胞を作成した。このほか、アフリカツメガエルおよびゼブラフィッシュの胚を操作し、WTXの存在下および非存在下でWnt遺伝子の影響を検討した。
作成した培養細胞の観察により、WTXは、分解複合体を形成している他のタンパクと協同でβ-カテニンの分解を促進することがわかった。また、Wnt遺伝子を注入したアフリカツメガエルの胚では頭が二つ発生したが、WntおよびWTXを注入した場合は頭部の奇形が軽度であることが判明した。ゼブラフィッシュの胚でも、ほぼ同じ結果が得られた。研究者らは、WTXがWnt/β-カテニンのシグナル伝達を負に制御しているという結論を下した。また、WTXがβ-カテニンを調節する能力に基づくと、WTXがウィルムス腫瘍の腫瘍抑制因子であるということになる。
スタンフォード大学医学部(Stanford University School of Medicine)のDr.Roel Nusseは論説で、「他のヒト癌でβ-カテニンの活性が検知されてきたのは、β-カテニンタンパクが核に存在することによるものである。その場合でも多くは、Wntシグナル伝達経路の既知の構成タンパクが変異しているという証拠が得られたことがなく、β-カテニンが活性化されるのは、遺伝子異常によるものではないことが示唆されてきた。しかし、Dr.Majorらがもたらした新しい知見によって、そのようなヒト癌では、実はWTXが変異しているとの推測が導き出されることになった」と記載した。
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佐々木 了子、Nobara 訳
小宮 武文(NCI研究員) 監修
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