テストステロンが男性の脳腫瘍の増殖を抑制する可能性

テストステロンが男性の脳腫瘍の増殖を抑制する可能性

男性の発達に関わるホルモンが、男性の脳腫瘍において増殖を抑制する重要な役割を果たす可能性があることが、米国国立衛生研究所(NIH)の支援を受けたクリーブランドクリニックの研究により報告された。研究チームは、膠芽腫(グリオブラストーマ)の前臨床モデルにおいて、テストステロンなどのアンドロゲンが失われると、局所的な炎症の誘発やストレスホルモンの産生促進を通じて腫瘍の増殖が加速することを見出した。膠芽腫患者である男性1,300人以上のデータを解析した結果では、テストステロン補充療法が生存期間の延長と有意に関連していることが判明し、この結果は前臨床実験での結果とも整合するものであった。

「今回の結果は予想外の朗報です。男性で死亡率が高いこのタイプのがんに対し、新たな治療法を見つける手がかりになるかもしれません」と、米国国立がん研究所(NCI)のAnthony Letai所長は述べる。

膠芽腫は男性に多く、アンドロゲンも男性で高いことから、多くの研究者は、これらの男性ホルモンが脳腫瘍の進行に関与している可能性を疑ってきた。しかし、これまでの研究では、脳という特殊な環境におけるアンドロゲンの腫瘍増殖への影響は検討されていなかった。

「脳は、体内の他の部位からやってくる免疫細胞も含め、異物の侵入を防ぐように進化してきました。脳は繊細な組織であり、多くの場合、大規模な免疫反応を望んでいないのです」と、責任著者であるクリーブランドクリニックのがん科学科教授兼脳腫瘍センター科学部門責任者のJustin Lathia博士は述べた。

Lathia氏らは、脳内のアンドロゲンが、体の他の部位とは異なり、脳の防御機構を調節するうえで重要な役割を果たしていることを明らかにした。膠芽腫のマウスモデルでアンドロゲンを減少させると、「視床下部―下垂体―副腎(HPA)軸」と呼ばれる神経内分泌系が過剰に活性化した。その結果、ストレスホルモンが急増し、一部の細胞が脳を体の他の部分からさらに遮断するように働いた。

この防御機構の強化により、脳内には免疫抑制環境が形成され、免疫細胞が増殖する腫瘍へ十分に到達できなくなった。その結果、腫瘍はほとんど抑制されることなく進行した。一方、著者らによると、テストステロンは雌マウスでは同様の効果を示さなかった。

研究チームは、アンドロゲンが不足したマウスでは、腫瘍によって視床下部に生じた炎症がHPA軸を活性化している可能性を明らかにした。今後は、脳内の別の領域に存在する腫瘍が、どのような機序でこの反応を引き起こすのかを詳細に解明する予定である。

ヒトにおけるアンドロゲンと脳腫瘍との関係を検討するため、研究チームはNIH/NCIのSEER(Surveillance, Epidemiology, and End Results)データベースに登録された臨床データを解析した。その結果、がん以外の理由でテストステロン補充療法を受けていた膠芽腫の男性患者では、補充療法を受けていなかった患者と比較して死亡リスクが38%低いことが示された。

因果関係が確立されたわけではないものの、この観察研究の結果と前臨床試験の結果は、ヒトを対象とした臨床試験によるさらなる検証を行う根拠になると、Lathia氏らは考えている。

「次に行うべき研究は、多くのがん治療で用いられているアンドロゲン除去療法が、実際に膠芽腫に対して有害であるかどうかを明らかにすることです」とLathia氏は述べた。

本研究は、NCI、米国国立老化研究所(NIA)、および米国国立神経疾患・脳卒中研究所(NINDS)の研究助成を受けて実施された。

  • 記事担当 平沢沙枝
  • 監修 永根基雄(脳神経外科/杏林大学医学部 )
  • 原文を見る
  • 原文掲載日 2026/05/06

この記事は、米国国立がん研究所 (NCI)の了承を得て翻訳を掲載していますが、NCIが翻訳の内容を保証するものではありません。NCI はいかなる翻訳をもサポートしていません。“The National Cancer Institute (NCI) does not endorse this translation and no endorsement by NCI should be inferred.”】

【免責事項】
当サイトの記事は情報提供を目的として掲載しています。
翻訳内容や治療を特定の人に推奨または保証するものではありません。
ボランティア翻訳ならびに自動翻訳による誤訳により発生した結果について一切責任はとれません。
ご自身の疾患に適用されるかどうかは必ず主治医にご相談ください。

脳腫瘍に関連する記事

脳腫瘍(GBM)におけるケトン食療法の最新の系統的レビューと全米前向き試験の画像

脳腫瘍(GBM)におけるケトン食療法の最新の系統的レビューと全米前向き試験

膠芽腫におけるケトジェニックダイエットの有効性と安全性:最新の系統的レビューとメタ解析結果、および進行中の前向き臨床試験 膠芽腫(GBM)は成人における最も悪性度が高く侵襲的な原発性脳...
【ASCO26】脳転移にタイル型脳組織内照射が定位放射線の治療効果を上回るの画像

【ASCO26】脳転移にタイル型脳組織内照射が定位放射線の治療効果を上回る

ASCOの見解(引用)「脳転移を外科的に切除した後、切除腔およびその周辺に放射線を照射すると(多くの場合は体外から照射)、局所再発のリスクを大幅に低下させることが知られています...
小児のFGFR変異陽性神経膠腫に承認済み標的療法が有望の画像

小児のFGFR変異陽性神経膠腫に承認済み標的療法が有望

本試験の結果は、すでに承認されている分子標的治療薬が、FGFR遺伝子変異陽性神経膠腫小児患者にとって有益である可能性を示している。

小児脳腫瘍の中で最も多い神経膠腫の小児患者の8.9%が...
米FDAがびまん性正中線神経膠腫にドルダビプロンを迅速承認の画像

米FDAがびまん性正中線神経膠腫にドルダビプロンを迅速承認

2025年8月6日、米国食品医薬品局(FDA)は、H3 K27M変異を有するびまん性正中線神経膠腫の成人および1歳以上の小児のうち、治療後に病勢が進行した患者を対象に、プロテアーゼ活性...