研究室で作製した毒素産生幹細胞による脳腫瘍治療の可能性
英国医療サービス(NHS)
2014年10月27日月曜日
「幹細胞を脳腫瘍と戦う破壊マシンに変える方法を研究チームが発見しました」と、BBCニュースが報じた。ただし、本研究の結果は有望であるものの、実験はマウスに関するものでありヒトにおけるものではない。
緑膿菌外毒素として知られる毒素の一種を産生するよう遺伝子組換えした幹細胞の作製は、大ニュースとして報じられた。この毒素は抗体断片と結合され、特定の脳腫瘍細胞(膠芽腫細胞)を標的とするよう作製されている。
この技術は白血病などの血液癌の治療にすでに使用され大きな成果をおさめているが、固形癌の治療ではあまり成果をあげられなかった。これは、毒素が短期間しか活性を維持することができない(半減期が短い)ためと、腫瘍に到達するのが難しいためではないかと示唆されている。
これらの問題を克服するために、毒素そのものには抵抗性を有しながら緑膿菌外毒素を産生できるように、神経幹細胞の遺伝子組換えが行われた。
毒素産生幹細胞は、試験管内での実験および脳腫瘍を発現する組換えマウスの双方で、脳腫瘍細胞を死滅させることができた。
この結果は有望であるが、「新たな宿主である『人間』において問題となる課題に取り組み、ヒト患者へ応用する必要があります」と、研究チーム自身が指摘している。
半減期とは何か
半減期とは、化学物質がどれだけ長く活性を維持するかを表すために用いられる学術用語である。化学療法に用いられる化学物質などでは半減期が長いことが望ましいが、一方で半減期の長さが重大な問題となる場合もある。プルトニウム-239の半減期は、最長で約24,000年である。
研究の由来
本研究は、マサチューセッツ総合病院、ダナ・ファーバー癌研究所およびハーバード大学の研究チームにより行われた。
この研究には、米国国立衛生研究所が資金を提供している。
研究結果は、ピアレビュー専門誌であるStem Cells誌で発表された。
この話は、BBCニュースおよびThe Independent誌でも取り上げられている。どちらも、これがマウスでの実験である点を明確にしている。
研究の種類
マウスを用いた本研究は、緑膿菌外毒素を産生できる一方で細胞自体は毒素に抵抗性を有する遺伝子組換え神経幹細胞を開発し、試験することを目的としている。
緑膿菌外毒素は細胞のタンパク質産生を阻害し、標的細胞を死に至らしめる。緑膿菌外毒素を抗体断片に結合させ、細胞表面に特異的な受容体が存在する細胞を標的とした。これらの特殊な受容体は、膠芽腫細胞(脳腫瘍の特定の一種)に存在することが多く、正常細胞には存在しない。
研究者チームによると、血液癌の治療では抗体断片に結合させた緑膿菌外毒素が使用され大きな成果をおさめてきたが、固形癌の治療ではあまり成果が得られていないという。これは、緑膿菌外毒素が短時間しか活性を維持できないためと、腫瘍に到達するのが難しいためであることが示唆されている。
これらの問題を克服するために、神経幹細胞の遺伝子組換えが行なわれた。これまでのところ、この技術はマウスや特定の癌細胞を用いた試験管内での実験でのみ試されており、ヒトで安全かつ有効であることを保証するにはさらに多くの研究を行う必要がある。
研究内容
簡潔に述べると、神経細胞に緑膿菌外毒素を産生させるように遺伝子組み換えが行なわれた。
研究チームは、毒素産生幹細胞の活性を実験室で増殖させた細胞とマウスで試す実験を行った。
結果
研究チームはまず、作製した毒素産生幹細胞を、実験室で増殖させた膠芽腫細胞で実験した。この幹細胞と膠芽細胞腫細胞を共に増殖させると、膠芽腫細胞は死滅した。腫瘍特異的な受容体の発現量が最も高い膠芽腫細胞で、幹細胞に対する感受性が最も高かった。
その後、研究チームは毒素産生幹細胞が動物で働くかどうかを実験した。腫瘍細胞と毒素産生幹細胞を混合してマウスの皮下に注入した結果、毒素産生幹細胞は腫瘍細胞を死滅させることができた。
研究チームによると、現行の膠芽腫治療の主な限界として、術後に残った腫瘍に対する化学療法薬剤の到達が不十分であることがあげられる。
手術では腫瘍をすべて除去することを目指しているが、常にすべてを安全に除去できるとは限らない。腫瘍には脳の奥深くに生じるものがあり、完全に除去しようとすると大きな脳損傷につながる場合もある。
膠芽腫を起こすよう遺伝子操作されたマウスの腫瘍を手術で除去した後、毒素産生幹細胞が注入された。
毒素産生幹細胞が注入されたマウスでは術後21日目までに腫瘍は検出されなかったが、対象群のマウスでは腫瘍塊が検出された。
毒素産生幹細胞により、平均生存期間も対照群マウスの26日と比較して治療群マウスでは79日に延長した。
研究チームは、最終的にヒト患者由来の膠芽腫細胞で毒素産生幹細胞の実験を行った。毒素産生幹細胞により、腫瘍に特異的な受容体を発現する膠芽細胞腫細胞を死滅させることができた。
結果の解釈
研究チームは、幹細胞を用いて緑膿菌外毒素を届けることで毒素が腫瘍に届く期間を延長すること、および侵襲的投与を繰り返す必要性をなくすことによって、抗腫瘍奏効率の可能性を高めると結論づけた。
結論
本研究は、緑膿菌外毒素を産生する遺伝子組換え神経幹細胞の作製について述べた。幹細胞はまた、それ自体毒素に抵抗性を有するようデザインされている。毒素は、特定の種の脳腫瘍細胞(膠芽腫)を標的とするように抗体断片に結合された。
膠芽腫は通常非常に悪性度の高い癌であり、現行の治療では外科的切除の後に放射線治療と化学療法で残存癌細胞を死滅させる方法が一般的である。
この治療法では重大な副作用が発現することがあり、治癒が得られる保証もない。
本研究では、毒素産生幹細胞により試験管内およびマウスモデルの双方で脳腫瘍細胞を死滅させることができた。
この技術はこれまでに、マウスと試験管内の膠芽腫細胞を用いて実験されただけである。これは、脳腫瘍のヒトにおいてこの技術が安全で有効であることを保証するにはさらに多くの研究が必要であることを意味する。
また、膠芽腫は脳腫瘍のほんの一部である。この治療が他の脳腫瘍の治療用にも開発できるかどうかは不明である。
※この記事で用いられている「抗体断片(原文antibody fragment)」はIL-13リガンドを、「特異的な受容体(原文specific receptor)」はIL-13Rα2を指している。
Analysis by Bazian. Edited by NHS Choices. Follow Behind the Headlines on Twitter. Join the Healthy Evidence forum.
原文掲載日
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