糖尿病治療薬は放射線治療による脳損傷の予防に有望

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糖尿病治療薬は放射線治療による脳損傷の予防に有望
ウェイクフォレスト大学 2007年1月10日

ウェイクフォレスト大学医学部の研究者らは、動物実験において、一般的な糖尿病治療薬が全脳照射後にしばしば生じる記憶障害や学習障害を予防すると初めて報告した。

「これらの知見は全脳照射を受けた患者のQOLの改善に有望であることを示している。」「本剤は糖尿病にすでに処方されているので安全な投与量は分かっている。」と主任研究員であるマイク・ロビンス博士は語った。

全脳照射は再発性の脳腫瘍の治療だけでなく、乳癌、肺癌、悪性黒色腫が脳に広がるのを予防するためにも広く使用されている。年間、約20万人の人々が全脳照射を受けており、およそ1年後、半数以下の人々に記憶、言語、論理的推理に影響を与える進行性の認知障害が発症している。

International Journal of Radiation Oncology -Biology-Physics誌の最新号でロビンスのグループは放射線治療を受ける前と治療中、そして受けた後に糖尿病治療薬ピオグリタゾン(製品名アクトスR)を投与されたラットに認知障害が発現しなかったと報告している。

研究者らは放射線照射後にアクトスを4週間投与した場合と54週間投与した場合で有効性を比較したが、両者間で有意な差はみられなかった。

本試験ではヒトに照射する線量と同程度の放射線または放射線を全く含まない偽照射を実施した若い成熟ラットを対象とした。両群のラットには通常の食餌または糖尿病治療薬を含む食餌が与えられた。

放射線治療が完了してから1年後の認知機能を物体認識試験によって評価した。放射線を照射されたラットは、照射後に糖尿病治療薬を4週間または54週間服用していない場合、認知機能に著しい低下を呈した。

「これは患者にも容易に適用できるだろう。本剤が腫瘍の増殖を促進しないこと、場合によっては腫瘍の増殖を阻害することがわかっている。」と、放射線生物学の教授であるロビンス氏は述べた。

現在、認知障害を予防する治療方法は不明で、アメリカ人の高齢化によりこの問題の解決が不可欠になっている。

「癌は高齢者の病気であるので、全脳照射を受ける人数は増えるだろう」と彼は語った。

つまり、放射線が脳の老化過程を速めるので認知障害が生じる。最近の研究では認知障害の原因が慢性の炎症または酸化ストレスかもしれないと示唆されている。酸化ストレスは、細胞が活性酸素または健康な細胞を損傷する構造的に不安定な細胞を除去できない場合に生じる。

ロビンス氏とその同僚による研究は糖尿病治療薬ピオグリタゾンが炎症を予防するというエビデンスに基づいている。この薬は、脂肪とグルコースの代謝を制御し、炎症にも関与すると思われるペルオキシゾーム増殖剤応答性受容体(PPARs)の特定の種類を活性化する。

本剤は認知障害の予防に有望であることが示されているので、より高線量の放射線照射が可能かもしれないとロビンス氏は語った。現在、高線量の放射線照射は生存期間延長に関連しているが、周辺の健常組織に対する損傷の可能性があるので照射量は限定されている。

本研究はNCIの助成を受けている。共同研究者は、ウェイクフォレスト大学Weiling Zhao, Ph.D.、Valerie Payne, B.S., Ellen Tommasi, B.S.、Debra Diz, Ph.D.、Fang-Chi Hsu, Ph.Dである。

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(吉村祐実 訳・島村義樹(薬学) 監修 )

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