FDAが進行胞巣状軟部肉腫にアテゾリズマブを承認

進行した胞巣状軟部肉腫(ASPS)に対する治療法が、米国国立衛生研究所(NIH)に属する米国国立がん研究所(NCI)が主導した臨床試験をもとに初めて承認された。免疫療法薬のアテゾリズマブ(販売名:テセントリク)は、このほど米国食品医薬品局(FDA)により、体の他の部位に転移しているか、手術で切除できないASPSの成人および2歳以上の小児の治療薬として承認された。

ASPSは、主に青少年や若年成人に発症する極めてまれながんである。今回の承認は、NCIが資金提供し、NCIがん治療・診断部門(DCTD)開発治療クリニックのAlice Chen医師が主導した非ランダム化第2相試験(NCT03141684)のデータに基づいている。Rocheグループの一社であり、アテゾリズマブの製造元であるGenentech社は、共同研究開発契約を通じてNCIに同剤を提供した。本試験の結果は、発表に向けて準備中である。

「ベセスダにあるNIH臨床センターにおいて、患者の40%に治療を行いました」と、がん治療・診断部門の部長であるJames H. Doroshow 医師は語った。「世界中から患者を集めるという我々の手腕が、この試験を行う上で重要な要因でした」。

「今回の承認は、特に治療が困難とされてきた希少疾病という点で、大きなインパクトを与えるでしょう」とChen医師は指摘した。

本試験は、ASPSに関する最大の試験である。また、NCIが出資する実験的治療臨床試験ネットワークで実施され薬剤承認に至った最初の試験である。このネットワークにより、北米の学術医療センターの肉腫専門医が、試験に患者を登録することが可能となった。

「このことは、実験的治療臨床試験ネットワークの研究者、ASPS患者のコミュニティ、希少がん研究にとって大きな節目となるものです」と本試験の主導者の一人であるがん治療・診断部門のElad Sharon医師は、述べている。

また、アテゾリズマブが、小児に対して承認されたのは今回が初めてである。Chen医師は、試験への小児の登録を促進してきたNCIのがん研究センター小児腫瘍科の参加により、承認が可能となったと指摘している。

「この研究は、小児腫瘍学と腫瘍内科学の連携の重要な実例であり、非常にまれながんの小児患者が効果的な新しい治療法を利用できるようにするものです」と、小児腫瘍科のJohn W. Glod 医学博士は述べている。「研究チーム全員が、この研究に参加し、この業績を可能にしてくれた患者に感謝しています」。

米国では、毎年約80人がASPSと診断されている。この病気は通常、臓器と他の組織をつなぎ、取り囲んでいる軟部組織で発生する。ASPSはゆっくり進行するが、いちど拡がると致命的となることが多く、化学療法は無効である。転移性疾患の患者のうち、5年後に生存しているのは約50%である。チロシンキナーゼ阻害薬と呼ばれる薬剤などの新しい標的療法は、効果の持続性がない。しかし、最近、免疫療法薬がASPSの治療法として期待されている。

アテゾリズマブは、抗PD-L1免疫チェックポイント阻害薬であり、免疫系ががんに対してより強く反応するよう促進することで効果を発揮する。FDAは、肝臓がん、メラノーマ(悪性黒色腫)、肺がんなど、いくつかのがん種の患者の治療薬としてアテゾリズマブを承認している。

2020年、FDAは、切除不能、または、転移性のASPS患者に対する治療薬として、アテゾリズマブを画期的治療薬に指定した。この指定は、重篤な症状の治療を目的とするアテゾリズマブが、FDAの薬剤に関する優先開発・審査の基準を満たしたことを意味する。その後、FDAは、軟部肉腫全般に対して、アテゾリズマブをオーファンドラッグ(希少疾病医薬品)に指定した。この認定は、企業が希少疾病の医薬品を開発する際のインセンティブとなるものである。

第2相臨床試験には、民族的に多様な2歳以上の転移性ASPS患者49人が登録され、21日ごとにアテゾリズマブの点滴を投与された。主治医の評価では、約3分の1の患者で腫瘍がある程度縮小し、治療効果が認められた。その他の患者のほとんどは、病勢が安定した。

2年間の治療後、治療を中断し、綿密なモニタリングのもと最長2年の治療中断を継続する機会を患者に与えた。治療の中断をした患者で、その間に病勢が進行した患者はいなかった。

重篤な副作用は、貧血、下痢、発疹、めまい、高血糖、四肢の痛みなどで、アテゾリズマブ投与患者の41%に発現した。しかし、副作用のために試験から脱落した患者はいなかった。

「今回の承認は、臨床試験で研究中の希少疾患にとって勝利を意味しています」とChen医師は述べた。「希少疾患でこの承認が下り、希少疾患の若者の生命に影響を与えることができるのは、とても意義深いことです」。

現在、研究チームはASPS患者を対象に、他の治療法との併用も含め、アテゾリズマブの追加試験を実施している。



監訳 遠藤 誠(肉腫、骨軟部腫瘍/九州大学病院)

翻訳担当者 山口みどり

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原文掲載日 2022/12/28


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