病理画像AIで小児肉腫を高精度で分類

デジタル病理画像のみを用いた人工知能(AI)解析により、小児肉腫を高精度に分類できることを示した研究成果が、4月25日〜30日に開催された米国癌学会(AACR)年次総会で発表された。

小児肉腫はまれで多様な腫瘍であり、筋肉、腱、脂肪、血管やリンパ管、神経、関節周囲の組織など、さまざまな種類の軟部組織に形成される。肉腫は、発生組織や様々な分子的特徴など、いくつかの要因に基づいてサブタイプに分類される。

「肉腫のサブタイプを正確に分類することは、適切な治療方針の決定と最適化において重要なステップです」と語るのは、コネチカット大学医学部およびジャクソン研究所、Jeffrey Chuang博士の研究室に所属するMD/PhD候補のAdam Thiesen氏である。「しかし、肉腫はその多様性ゆえに分類が非常に難しく、診断には複雑な分子・遺伝子検査に加え、長年の訓練によって培われたパターン認識能力を持つ高度専門病理医による外部評価が求められることも少なくありません。こうしたリソースは、多くの医療現場では十分に確保されていないのが現状です」。

本研究において、Thiesen氏らは、AIを用いて小児肉腫のサブタイプを正確に分類できる可能性を検討した。研究チームは、マサチューセッツ総合病院、イェール・ニューへイブン小児病院、セントジュード小児研究病院、およびChildren’s Oncology Groupから提供された691枚の病理スライドのデジタル画像を用いて、9種類の肉腫サブタイプに対応するパターンをAIに学習させた。

「病理スライドをデジタル化することで、病理医が肉眼で確認していた画像情報を、コンピュータが解析可能な数値データに変換しました」とThiesen氏は説明する。「スマートフォンが写真の人物を認識して自動的にアルバムを作成するように、AIモデルは腫瘍の形態パターンを認識し、関連する特定のサブタイプに分類します」。

研究チームはまず、施設ごとに異なる画像のフォーマット、染色、倍率などのばらつきを補正するため、オープンソースソフトウェアを開発・適用し、画像の標準化を行った。その後、標準化された画像を小さなタイルに分割して深層学習モデルに入力し、モデルは各タイルから数値データを抽出した。この数値データは新たな統計手法により各スライドの特徴として要約・解析され、学習済みのAIアルゴリズムによって最終的に特定のサブタイプに分類された。

検証実験では、AIアルゴリズムは高い精度で肉腫のサブタイプを同定したとThiesen氏は報告した。AIモデルは、以下のとおり正しく識別した:

  • ユーイング肉腫と他の肉腫の識別:92.2%
  • 非横紋筋肉腫と横紋筋肉腫の識別:93.8%
  • 胞巣型と胎児型横紋筋肉腫の識別:95.1%
  • 胞巣型、胎児型、紡錘細胞型横紋筋肉腫の識別:87.3%

「私たちの研究は、AIモデルが通常使用される病理画像のみを用いて、小児肉腫の多様なサブタイプを高精度で識別し、診断に活用できる可能性を示しています」とThiesen氏は述べている。「このAIモデルにより、地理的条件や医療体制にかかわらず、より多くの小児患者に対して、迅速かつ効率的で高精度ながん診断の支援が可能になると考えられます」。

さらに同氏は、「このモデルは、最小限の計算リソースで新しい画像を追加し、学習できるように設計されています」と付け加えた。「標準的なデータ処理後、臨床医は理論上、自分のノートパソコンでこのモデルを使用することができるため、リソースの限られた環境においても、診断へのアクセスを向上できる可能性があります」。

本研究の限界として、AIのトレーニングに使用可能な病理画像の数が、研究者の想定よりも少なかった点が挙げられる。しかしThiesen氏は、「小児肉腫の希少性を踏まえると、本データセットは、多様なサブタイプ、解剖学的部位、患者背景を含む、これまでに構築された最大規模の多施設共同による小児肉腫画像データセットの一つだと考えられます」と述べた。

「今後さらに多くの研究機関と連携し、このデータセットの規模を拡大していきたいと考えています」とThiesen氏は語る。

本研究は、ジャクソン研究所の上級研究員で腫瘍外科医のJill Rubinstein博士が主導し、同研究所の計算科学者Sergii Domanskyi博士が開発したソフトウェアが使用された。

本研究は、米国国立衛生研究所(NIH)、ジャクソン研究所、およびハートフォード病院の支援を受けて実施された。Thiesen氏は、本研究に関連する利益相反はないと申告している。

  • 監修 遠藤 誠(肉腫、骨軟部腫瘍/九州大学病院)
  • 記事担当者 為石万里子
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  • 原文掲載日 2025/04/28

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