トラベクテジン併用化学療法は平滑筋肉腫患者の延命に役立つ 

何十年もの間、化学療法薬であるドキソルビシンは、多くの種類の進行肉腫(身体の骨や軟部組織から発生するがん)患者に対する主力薬であり続けている。以前に検証されたドキソルビシン+他の化学療法薬の併用療法で、一部の患者は生存期間を延長できた。しかし、ドキソルビシン単剤療法と比較して、その併用療法の副作用は重度で、多くの医師は日常治療に使用するにはリスクが高すぎると考えていた。

しかし、フランスで実施された臨床試験の結果によって、この状況はまもなく変わる可能性がある。本臨床試験で、平滑筋肉腫(肉腫の一種)患者に対する初回治療として、ドキソルビシンにトラベクテジン(ヨンデリス)を追加することで、ドキソルビシン単剤療法で初回治療を受けた患者と比較して生存期間を延長できることが示された(中央値33カ月対24カ月)。 
本臨床試験結果はNew England Journal of Medicine誌9月5日号に掲載された。

薬剤の同時投与は、一方の一定期間投与後のもう一方の投与(逐次投与)と比較して効果が高いようでもある。本臨床試験で、一次治療としてドキソルビシン単剤療法を受けた患者の60%近くは後にトラベクテジンを投与されたが、それでも治療当初からの両薬剤同時投与患者と比較して生存期間は延長しなかった。

患者は、一次治療としてこの併用療法を約4カ月半受けたが、トラベクテジン単剤投与を最長で1年近く続けることができた(維持療法)。

この維持療法のため、より長期にわたる治療効果全般から、併用療法の効果を引き出すことは困難であるとMargaret von Mehren医師(フォックス・チェイスがんセンターの肉腫専門医で、本臨床試験には不参加)は解説した。

しかし、トラベクテジン+ドキソルビシン併用療法患者の生存期間はほぼ1年であるとvon Mehren氏は続け、「併用療法とその維持療法に対する初期反応は、逐次投与にはない有用性があったということです」と述べた。

この併用療法は、生活の質に重大な影響を及ぼす重篤な問題を含む副作用の急増を伴うものであった。しかし、生存期間の延長につながる可能性があるなら、多くの患者はそのリスクを受け入れる可能性があるとRobert Benjamin医師(テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの肉腫専門医で、本臨床試験には不参加)は述べた。

まれな腫瘍、難しい研究

肉腫はまれな腫瘍で、がん診断全体の2%未満である。この少ない数には、約70種類の異なる亜型が含まれる。その希少性から、新規治療法の臨床試験では、有意な結果を出すのに十分な参加患者を確保するため、多くの異なる亜型の肉腫患者を対象とすることが多い。

しかし、研究から、肉腫の異なる亜型によって異なる薬剤に対する感受性があることが示されており、治療戦略をそれぞれの亜型に合わせる必要があることが示唆されている。

トラベクテジン+ドキソルビシン併用療法は、平滑筋細胞に発生する腫瘍である平滑筋肉腫の小規模臨床試験で有望であった。平滑筋肉腫は身体のほとんどの部位にでも発生する可能性があるが、子宮、腹部、および骨盤に高頻度で発生する。

フランス肉腫グループが参加患者150人を本臨床試験に登録するのに数年を要した。参加患者は平滑筋肉腫と診断され、外科的に切除不能または転移しており、かつ、未治療であった。

研究者らは、参加患者の約半数をドキソルビシンの3週間に1回、最大6サイクル投与群に、残りの半数をトラベクテジン+ドキソルビシンの同一期間に6サイクル投与群にランダムに割り付けた。両群の参加患者は、体内血球数の危険なほどの減少の予防を目的とする薬剤を投与された。

トラベクテジンが平滑筋肉腫を抑制していると思われる限り、併用療法患者はほぼ1年間維持療法としてトラベクテジン投与を続けることができた。

治療を重ねれば生存期間が延びる

中央値4.5年以上の追跡調査の結果、併用療法患者は治療開始時にドキソルビシン単剤療法を受けた患者と比較して、無増悪生存期間が2倍延長した(12カ月対6カ月)。治療開始から2年後、併用療法患者の30%は平滑筋肉腫が増悪しなかった一方で、ドキソルビシン単剤療法患者では増悪しなかった患者はわずか3%であった。

初回治療としてドキソルビシン単剤療法を受けた患者のうち、約38%が平滑筋肉腫の再発後に、最終的にトラベクテジン療法を受け、23%が3回目以降の再発後にトラベクテジン療法を受けた。

計画された6サイクルの化学療法により、トラベクテジン+ドキソルビシン併用療法患者の20%では、原発腫瘍や転移腫瘍が外科的完全切除可能な程度に縮小した一方、初回治療としてドキソルビシン単剤療法を受けた患者ではわずか8%であった。
歴史的に見て、腫瘍を外科的に完全切除できた患者は、化学療法だけで腫瘍が完全に消失した患者と「長期生存の可能性は等しい」とBenjamin氏は解説した。

副作用が増えると、最善の治療法の選択についての決定が迫られる

ドキソルビシンにトラベクテジンを追加することで、併用療法患者において重篤な副作用の件数が大幅に増加した。
併用療法患者のほぼ全員(97%)が、赤血球/白血球減少症や一時的な肝障害などの、1件以上の重篤な副作用を経験した。一方、ドキソルビシン単剤療法患者の60%弱が治療中に重篤な副作用を経験した。

副作用の発症率が高いとはいえ、併用療法患者の81%が最初の6サイクルの化学療法を全て終了した一方、ドキソルビシン単剤療法患者では71%であった。ドキソルビシン単剤療法患者では心不全による治療関連死が1例生じた。

心疾患、肝疾患、または骨髄疾患などの、他の健康障害を抱えている患者の一部は、併用療法を使えないことがあるとBenjamin氏は解説した。

「しかし、化学療法が必要なら、ほとんどの平滑筋肉腫患者にとって、この併用療法が望ましいものと考えます」とBenjamin氏は述べた。

より多くの患者に併用療法を前もって試してもらうために、デクスラゾキサンなどの心臓保護薬の使用など、検討可能な戦略は他にもあるとBenjamin氏は言い添えた。

「しかし、一部の進行肉腫患者は、生存期間延長の可能性よりも副作用の少なさを今もなお優先することがあります。治療が患者の日々の生活(を送る)能力に与える影響に関して、患者の好みを考慮する必要があります」とvon Mehren氏は述べた。

また、別の患者は免疫療法などの新規治療法を検証する臨床試験への参加を望んでいることがあるとvon Mehren氏は言い添え、他の治療選択肢を試す機会があるなら、肉腫の亜型が異なる患者を対象とした臨床試験への参加を躊躇すべきではないと述べた。

この記事は、米国国立がん研究所 (NCI)の了承を得て翻訳を掲載していますが、NCIが翻訳の内容を保証するものではありません。NCI はいかなる翻訳をもサポートしていません。“The National Cancer Institute (NCI) does not endorse this translation and no endorsement by NCI should be inferred.”】

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