青年期の骨肉腫患者はこれまで考えられていた以上の割合で遺伝性の遺伝子変異を有する

米国国立がん研究所(NCI)プレスリリース

原文掲載日 :2015年4月20日

小児および青年の骨肉腫(骨のがん)患者が有する既知のがん抑制遺伝子の遺伝性の変異は、従来考えられていたよりもより多いことが新たな研究により明らかになっている。高齢患者も骨肉腫に罹患しやすいが、高齢患者ではTP53として知られているがん抑制遺伝子の変異は認められなかった。本研究は、若年発症の骨肉腫の遺伝的感受性が高齢者に発症する骨肉腫とは異なることを明らかにし、2015年4月20日付のJNCI誌の電子版で発表された。米国国立がん研究所(NCI)のがん疫学・遺伝学部門のLisa Mirabello博士が本研究を主導した。NCIは国立衛生研究所の一部門である。

骨肉腫の発生のピークは10歳から19歳である。このがんは、リ・フラウメニ症候群(遺伝性腫瘍症候群であり、多くの場合TP53遺伝子の生殖細胞系変異または遺伝性変異によって引き起こされる)患者において頻繁に発生する。リ・フラウメニ症候群では、腫瘍が好発し、多くの場合非常に若い年齢で発生する。また、骨肉腫は、リ・フラウメニ症候群ではないことが明らかな家系においても発生する可能性がある。リ・フラウメニ症候群ではないことが明らかな骨肉腫患者における遺伝性のTP53遺伝子変異の役割は、よくわかっていない。

骨肉腫におけるTP53遺伝子変異の関与をより深く理解するために、研究者らは、過去最大の母集団である765人の骨肉腫患者のランダム集合を対象に、TP53遺伝子配列を調査した。血液中や口腔内組織の細胞から解析用のDNAを採取した。腫瘍組織からのDNAは利用できなかった。

「われわれは、若年患者において予想以上の頻度でTP53遺伝子変異を見つけました。特に、リ・フラウメニ症候群と関連することが知られている変異や、まれで非常に有害な可能性のある新規の遺伝子変異を観察しました」とMirabello博士は述べた。「これらの変異のいくつかは、診断時にすでに転移しているリスクや、転移の有無とは関係なしに低い生存率と関連していました」。

本研究では若年(30歳未満)の骨肉腫患者のうち、過去に報告された約3%よりも非常に高い9.5%にTP53遺伝子変異を認め、そのうち3.8%はリ・フラウメニ症候群に関連する変異、5.7%はまれなTP53遺伝子の変異であった。高齢の骨肉腫患者はいずれもリ・フラウメニ症候群に関連する変異を有していなかった。

骨肉腫患者は過去の研究に基づいて抽出されたので、研究者らは、患者のがん家族歴に関する情報を持っていなかった。小児骨肉腫の症例の4%近くがリ・フラウメニ症候群に関連する生殖細胞系のTP53変異を有しているという知見は重要である。それは、患者自身およびその家族が、他のリ・フラウメニ症候群に関連するがんを発症するリスクがありうるからである。

「今回の発見により、小児骨肉腫患者における生殖細胞系DNA配列の解析が潜在的に重要であることが明らかになりました。なぜなら、生殖細胞系の分析によりリ・フラウメニ症候群の新規症例が発見される可能性があるからです。」とDoug Lowy医学博士(NCIの所長代理)は述べた。

リ・フラウメニ症候群とすでに診断されている人にとっても、二次がんに対するリスクが高いため、生殖細胞系におけるTP53遺伝子変異の検査を受けることは重要である。リスクのレベルを知ることにより、臨床医は遺伝カウンセリングやがんのスクリーニングを提案し、二次がんが早期に検出され、患者の生存率を 改善できる可能性がある。また、若年に発症する骨肉腫の90%は生殖細胞系における TP53遺伝子の変異を有さず、これらの症例における病態を理解するためにさらなる研究が必要である。

原文

翻訳担当者 渉里幸樹

監修 遠藤誠(骨軟部腫瘍科/国立がん研究センター中央病院)

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