胞巣状軟部肉腫にアテゾリズマブが有効

米国国立がん研究所(NCI) がん研究ブログ

胞巣状軟部肉腫と診断されたとき、ファイザンヌ・ヒル氏はわずか11歳であった。この軟部肉腫は極めてまれで、米国における年間診断数はわずか約80人(ほとんどが青年と若年成人)である。現在21歳の大学1年生であるファイザンヌは、この10年間多くのことを経験してきた。 

母国トリニダードでの普通の10代の経験に加え、メリーランド州ベセスダにある米国国立衛生研究所(NIH)臨床センターで、このがんではよくみられる、突然発生したかのような新しい腫瘍を取り除く手術を6回ほど受けた。 

今のところ、手術によって彼女の疾患は抑えられている。しかし、いつか手術が効かなくなり、治療の選択肢がほとんどなくなるのではないかと心配している、とファイザンヌは語った。一般に、胞巣状軟部肉腫には化学療法は効かない。

数年前、ファイザンヌは免疫療法薬のアテゾリズマブ(テセントリク)が腫瘍縮小に役立つかどうかを確かめる臨床試験に参加した。進行胞巣状軟部肉腫患者52人を対象としたこの試験の結果は、9月7日付のNew England Journal of Medicine誌に発表された。 

試験に参加した52人全員がアテゾリズマブによる治療を受けた。このうち19人(37%)は腫瘍が30%以上縮小し(部分奏効)、1人は腫瘍が完全に消失した(完全奏効)。2年以上治療を受けた患者には、治療を中断する選択肢が与えられた。

7人の患者がこの選択肢を選んだが、これまでのところ、画像検査で腫瘍が再び増殖していることを示す証拠は認められていない。

2022年12月、米国食品医薬品局(FDA)は、この試験の以前のレビューおよびその結果に基づき、進行胞巣状軟部肉腫の成人および2歳以上の小児を対象にアテゾリズマブを承認した。アテゾリズマブは、このまれな疾患に対して初めて承認された薬剤である。 

「免疫系を管理することで胞巣状軟部肉腫を管理できるということが、この試験によって示されています」と、この試験を率いたNCIがん治療・診断部門(DCTD)のAlice Chen医師は述べた。「患者は一定期間後に治療を中断できる場合もあります。若年患者にとって、これは大きな違いを生む可能性があります」。 

ジョンズホプキンス大学医学部の肉腫専門医で、この試験には参加していないChristian F. Meyer医学博士は、「これは最高に素晴らしい試験です」と述べた。「8年前、胞巣状軟部肉腫の治療として免疫療法薬のことは考えてはいませんでしたが、今回、主にこの試験に基づいて医薬品の承認を得ることができました。この試験はまた、希少がんを対象とした試験が可能であり、極めて重要な結果をもたらす可能性があるという希望を与えてくれます」。

ファイザンヌは、がんの大手術を受けるために試験を早期に中止しなければならなかったが、がんが進行した場合に承認された治療法があることに安堵していると言う。 

「効果のあるものが見つかって本当に嬉しいです」。

免疫療法薬でまれな疾患をコントロールする

胞巣状軟部肉腫(ASPS)は、筋肉、骨、神経、脂肪にできる軟部肉腫の一種である。ASPSは他の多くの肉腫よりも進行が遅く、一般に若年者に発症する。

多くの場合、最初は下腿、上腕、頭、頸部に痛みのないしこりができるが、肺など体の他の部位に転移することもある。他の軟部肉腫ではあまりみられないが、脳に転移することもある。

患者は通常、ASPS腫瘍を切除する手術を受け、その後、残存するがん細胞を死滅させるために放射線を照射することが多い。しかし、この腫瘍は再発することが多く、その後何度も手術が必要になる。

この疾患が最初に発症した部位を越えて転移し、手術で切除できない部位にまで転移してしまうと有効な治療法はない。転移して外科的治療ができないASPS患者のうち、診断から5年後に生存しているのは50%に満たない。 

化学療法がASPSに対してほとんど効果がないため、分子標的薬を含む新しい治療法が検討されているが、ほとんど成功していない。分子標的薬の一つであるパゾパニブ(ヴォトリエント)は、軟部肉腫全般に対して承認されているが、ASPSに対してどの程度効果があるかは不明である。

アテゾリズマブなどの免疫チェックポイント阻害薬も有望である。小規模臨床試験では、免疫チェックポイント阻害薬ペムブロリズマブ(キイトルーダ)と標的薬アキシチニブ(インライタ)の併用療法を受けたASPS患者11人中6人の腫瘍が縮小した。

他の数種類のがんの治療薬として承認されているアテゾリズマブも、このがんの患者数人にはある程度の有効性が認められたという逸話もある。 

これらの逸話的知見に基づき、Chen氏とNCIの同僚らは、臨床試験のより厳格な基準の下で同等の結果が得られるかどうかを確認したいと考えた。アテゾリズマブを製造しているGenentech社は、NCIとの特別研究契約に基づき、この試験に薬剤を提供した。

アテゾリズマブの効果は持続すると考えられる

第2相試験では、免疫チェックポイント阻害薬による治療歴のない進行ASPSの成人および小児52人に、アテゾリズマブを21日ごとに点滴投与した。

腫瘍に治療が奏効した37%の参加者のうち、唯一の完全奏効は治療開始から約1年後に起こった。残りの33人の参加者のうち、30人は病勢が安定していた、つまりがんは良くも悪くもならなかった。通常、治療を受けなければASPSの腫瘍は増殖し続けるとChen氏は述べた。

治療が奏効した患者のほとんどは、最初の3~5カ月で腫瘍の縮小がみられた。3人の患者では、腫瘍が縮小し始めるまでにアテゾリズマブの点滴投与を1年以上行った。

治療の副作用はほとんど軽度で、貧血、下痢、発疹、痛みなどであった。副作用が原因で治療を中止した患者はいなかった。

2年以上の治療後、7人が2年間の治療中断を選択した。7人のうち2人は、どの時点でもアテゾリズマブを再開する必要がなく休薬期間を終了したため、試験から離脱した。

他の5人はまだ休薬中である。これまでのところ、この7人のうちでがんの進行や再発が認められた患者はいない。

アテゾリズマブがASPSにどのように作用するのか理解する

NCI在籍中に本試験を共同で主導したダナファーバーがん研究所のElad Sharon医師は、アテゾリズマブは、他の肉腫に対してはASPSほど有効性が示されていないと指摘した。

「実際、[ASPS]患者の免疫系は、他の肉腫の患者とは異なる方法で機能しています」とSharon氏は述べた。考えられる違いの一つは、ASPSの腫瘍には異なるがん関連タンパク質が含まれており、アテゾリズマブの助けを借りれば、免疫系がそれを認識して攻撃しやすくなるということである、と同氏は続けた。

研究チームは、なぜこの治療が有効な患者とそうでない患者がいるのか、なぜ治療開始後何カ月も経ってから腫瘍が縮小し始めたのか、その理由をより深く理解したいと考えた。

何人かの患者から長期にわたって採取された血液と腫瘍のサンプルを分析した結果、特に興味深かったのは、アテゾリズマブによる治療によって、アテゾリズマブが作用するのに必要なPD-1またはPD-L1という2つのタンパク質のいずれかが最初に欠如していた腫瘍が、最終的にはいずれかのタンパク質を高レベルで産生する腫瘍に「転換」する可能性があることであった。

この知見は、アテゾリズマブの使用方法にとって重要な意味を持つ可能性がある、とChen氏および研究チームは記した。

この薬剤が奏効する腫瘍に「転換する可能性」があるため、最初に腫瘍のPD-1またはPD-L1レベルが高い患者にのみ投与することは、「免疫チェックポイント阻害薬治療が[奏効する]可能性のあるASPS患者を除外する可能性がある」と同氏らは続けた。

現在、アテゾリズマブと他の薬剤を併用することで、特にアテゾリズマブ単独投与が奏効しない患者における有効性を高めることができるかどうかが検討されている。

Chen氏らは、アテゾリズマブ単独投与と、腫瘍細胞の増殖に必要な主要タンパク質を阻害するセリンエキソール(Xpovio)との併用投与を比較する試験を開始した。

一方、ファイザンヌのような患者にとって今回の承認は、彼女や他のASPS患者らが手術からの回復に費やす時間を減らし、より多くの時間を自分の生活に費やすことができるかもしれないという感覚を与えてくれる。

「アテゾリズマブが承認されたことで、大丈夫だという希望が持てるようになりました」と彼女は語った。

  • 監訳 遠藤 誠(肉腫、骨軟部腫瘍/九州大学病院)
  • 翻訳担当者 生田亜以子
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  • 原文掲載日 2023/10/20

【この記事は、米国国立がん研究所 (NCI)の了承を得て翻訳を掲載していますが、NCIが翻訳の内容を保証するものではありません。NCI はいかなる翻訳をもサポートしていません。“The National Cancer Institute (NCI) does not endorse this translation and no endorsement by NCI should be inferred.”】

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