骨肉腫に対する抗体薬物複合体(ADC)の新たな治療標的となる表面タンパク質を特定

新アプローチにより骨肉腫を標的とする薬剤数の大幅な増加が可能に

MDアンダーソンニュースリリース
抄録#LB008

表面タンパク質MT1-MMPを標的とした抗体薬物複合体(ADC)が、正常組織を傷つけることなく骨肉腫の腫瘍細胞を一掃する誘導ミサイルとして機能することが、テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの研究者らが行なった前臨床試験で示された。この技術は、バイシクル毒素複合体(BTC)を用いて細胞表面タンパク質を標的とした精密な治療を行なうものであり、骨肉腫の治療に有望な結果を示している。

本試験の結果は、本日、AACRバーチャル年次総会で小児科研究の博士研究員であるYifei Wang医師により発表された。本試験は、小児科の教授兼部門長であるRichard Gorick医師の主導によって実施された。

骨肉腫は、青年および若年成人に最もよくみられる骨腫瘍の一種である。骨肉腫患者の転帰は、術後化学療法が導入されて以来、ここ数十年間改善されていない。化学療法の副作用に耐えることができない患者に実施できる代替治療はほとんどない。新たな免疫療法は、白血病およびリンパ腫などの血液悪性腫瘍では有望な効果を示しているが、骨肉腫では近年ほとんど進展がみられていない。

「これは骨肉腫に対する斬新な取り組みであり、新たな治療法を模索する機会が得られた」とGorlick氏は述べている。「この発見は、より迅速な進展が期待できるパラダイムシフトとなる。検証可能な他の薬剤が増えると思う。そのような薬剤は、特定の表面タンパク質を標的としているため、より効果的で副作用の少ない薬剤となる可能性がある」。

本試験では、研究者らは、骨肉腫の細胞株、マウスモデル、数百の患者の腫瘍標本、数千の正常なヒト組織のプロファイリングデータを基に作成されたプロテオミクスおよびトランスクリプトミクスデータを用いて、統合的なバイオインフォマティクス手法を開発した。この方法により、骨肉腫の細胞表面に高発現するが、正常組織には発現しない表面タンパク質が特定された。この分析実験技術の結果は、抗体薬物複合体(ADC)やバイシクル毒素複合体(BTC)が特異的タンパク質を治療標的とする可能性があることを確認するものであった。

研究チームはこれまでに、骨肉腫の表面細胞に高発現するが、正常なヒト組織には発現しない4つの表面タンパク質、MT1-MMP、MRC2、CD276およびLRRC15を特定していた。CD276とLRRC15を標的とした抗体薬物複合体(ADC)の初期評価では、有望な抗腫瘍活性が示されており、研究チームのアプローチの妥当性が裏づけられた。

本試験では、研究者らは、薬剤標的としてMT1-MMPに着目し、患者標本での標的の発現を実証した。次にMT1-MMPを標的としたバイシクル毒素複合体(BTC)であるBT1769を前臨床の骨肉腫マウスモデルで検証した。50%のマウスで100%の奏効改善がみられ、同薬剤は、前臨床試験で高い活性を示した。

「この標的と薬剤はこれまで骨肉腫では報告されていなかったため、このような結果をとてもうれしく思う」とWang氏は述べている。「同じ方法で他にも複数のタンパク質が識別されているが、これが最初のものである」。

本研究が臨床試験で成功すれば、骨肉腫治療として、有効性が高く毒性曝露も最小限に抑えた新たな治療法が生まれると思われる。Gorlick氏らは、MDアンダーソンの治療法発見チームとともに、抗体を標的とする新たなアプローチにも取り組んでいる。

本試験の資金提供機関は次の通りである。National Institutes of Health (NIH)/National Cancer Institute (NCI) (5U01CA199221-06), Swim Across America, The Foster Foundation, the Terry Fox Foundation, an Osteosarcoma Institute Translational and Preclinical grant, and the Barbara Epstein Foundation. 

翻訳担当者 渡邉純子

監修 遠藤 誠(肉腫、骨軟部腫瘍/九州大学病院 整形外科)

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