2010/06/29号◆癌研究ハイライト

同号原文
NCI Cancer Bulletin2010年6月29日号(Volume 7 / Number 13)


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癌研究ハイライト

・ゲフィチニブはEGFR遺伝子変異を有する進行肺癌の無増悪生存期間を改善する
・医師が子宮頚癌検診ガイドラインを十分に遵守していないことが調査で明らかに
・小児の再発髄芽腫に対する分子標的薬が臨床試験中
・血中ビタミンD濃度はまれな癌のリスクには関連しない

ゲフィチニブはEGFR遺伝子変異を有する進行肺癌の無増悪生存期間を改善する

新たに(転移を有する)進行非小細胞肺癌(NSCLC)と診断され、ゲフィチニブ(イレッサ)を投与された患者は、カルボプラチンパクリタキセルを投与された患者に比べ、有意に奏効率が高く、無増悪生存期間も長かった(73.7%対30.7%、10.8カ月対5.4カ月)ことが、日本で行われた第3相試験の結果で示された。この結果は、6月24日付New England Journal of Medicine誌に発表された。

この臨床試験に登録された全患者は、チロシンキナーゼ阻害剤(TKI)であるゲフィチニブに対して感受性がある上皮成長因子受容体(EGFR)遺伝子変異を有していた。登録患者は耐性EGFR 遺伝子変異であるT790Mはなく、化学療法の前治療歴もなかった。

宮城県立がんセンターの前門戸任医師を筆頭とした研究者たちは、この研究によって感受性EGFR 変異を有するNSCLC 患者に対する一次治療としての、EGFR チロシンキナーゼ阻害剤の臨床上の有効性が確立されたと考えている。「ゲフィチニブが二次治療や三次治療として投与される場合、患者は治療を受ける機会を逸することになるかもしれない。なぜなら、一次治療の期間中または治療後に疾患が急速に進行するためである」。

この臨床試験は、予定されていた200人登録時点での中間解析で、疾患増悪または死亡がゲフィチニブ群で70%減少したことが明らかにされたのち、2009 年に早期中止された。最終的に日本国内の43 施設から230人の患者が登録され、解析の対象となった。1 年の時点で、ゲフィチニブ群の42.1%が無増悪だったのに対し化学療法群は3.2%、2 年後には化学療法群全員の疾患が増悪していたのに対し、ゲフィチニブ群は8.4%が依然、無増悪であった。女性の無増悪生存期間は、男性よりも有意に長かった。

一次治療を終了後または化学療法実施中に疾患が増悪した患者は、他群の治療を受けることが可能であり、112 人のうち106 人がゲフィチニブの投与を受けた。これらの患者の59%にゲフィチニブを用いた二次治療が奏効した。研究者らは、両群間の全生存率の差が統計的に有意でなかったのは、このクロスオーバーが影響した可能性があると著している。

米国でのゲフィチニブは、2005年の臨床試験で、患者を選択しない場合にはほとんど利益をもたらさないことが示されて以来新規には使用されておらず、現在の米国ではこの薬剤は非常に限定的な適応となっているが、一方エルロチニブ(タルセバ)は二次治療におけるEGFR TKI薬として承認されている。ゲフィチニブとエルロチニブの作用機序は類似しており、感受性EGFR遺伝子変異を有する患者は、エルロチニブ治療に対しても非常に反応がよい。

医師が子宮頚癌検診ガイドラインを十分に遵守していないことが調査で明らかに

1,200人以上のプライマリー医(※日本の一般開業医に類似)とに対する調査では、その多くが臨床治療ガイドラインで推奨している子宮頸癌の検診間隔に従っていない可能性を示している。これは、新しい検査であるヒトパピローマウイルス(HPV)DNA検査についてだけでなく、従来のパップテスト(子宮頸部細胞診検査)についても同様である。米国食品医薬品局(FDA)は、HPVのDNA検査をパップテストと併用するco-testing(併用検査の意)の検査手法を30歳以上の女性に適用することを承認した。

この調査が実施された当時、アメリカ癌協会(ACS)ガイドラインおよび米国産科婦人科学会議
ガイドライン
では、30 歳以上で3 回連続してパップテストが正常、あるいは1 回の併用検査で正常であった(パップテストが正常かつHPV DNA 検査が陰性)低リスクの女性については、検診の間隔を3 年に延ばすように勧告し
ていた。米国予防医療作業部会発行のガイドラインも検診の間隔を延ばすことで一致している。

この調査では、パップテストを過去に3回受診し正常な結果であった35歳の低リスク女性という仮想上の臨床例をもとにしたものであるが、ガイドラインの推奨を遵守するだろうと報告したのは回答医師の32%のみであった。6 月14 日付けArchives of Internal Medicine 誌において、米国疾病対策センター(CDC)およびNCI の研究者らが発表した。その女性が単回受診で、併用試験で正常な結果であった場合に、ガイドラインを遵守するとした回答者は、さらに少数の19%であった。調査対象となったおよそ60%の一般内科医、家庭医、および産婦人科医が、いまだなおパップ検診を毎年受けるよう女性に勧めると回答した。

パップテストはもっとも頻繁に用いられる子宮頸癌検診の検査方法である。しかし、この癌症例の大多数の原因であるヒトパピローマウイルスに対するDNA検査の方が、高度異形成の前癌状態病変部を検出する感度がパップテストより高いと多くの試験で示されている。これにより米国では子宮頸癌検診の至適方法についての議論に拍車がかかっている

しかしこの新しい調査から、検診の間隔を延ばすというガイドラインの推奨は、現在の臨床医療に反映されていないと考えられると、CDC の癌予防・管理部門のDr. Mona Saraiya 氏とその同僚は記している。「HPV 検査の選択を示された場合、多くの医師がパップテストに用いたのと同様のパターンに従う」と彼らは記した。すなわち、両方の検査を毎年行なうか、HPV検査については推奨しないかである。

「この医療の進め方は子宮頸癌の転帰に大きな改善はもたらさないと思われる。それどころか不必要な再検査や、コルポスコピー(膣鏡診)に伴う合併症リスクの増加、また患者への心理的負担を強いる結果となる恐れがある」と、試験の共著者で、NCI 癌制御・人口科学部門のDr. Robin Yabroff 氏は述べた。

「新規のHPV 感染症は大変多くみられるが、圧倒的に良性である。殆どの場合はウイルスが自然にいなくなる」とNCI 癌疫学・遺伝学部門のDr. Mark
Schiffman 氏は述べた。「持続的な感染のみが癌のリスクファクターとなる」。もしHPV 検診を過度に行えば、持続性の感染よりも、新規感染を見つけることになり、過剰治療のリスクをもたらすであろう」。

小児の再発髄芽腫に対する分子標的薬が臨床試験中

ヘッジホッグシグナル伝達経路を阻害する研究段階の薬剤を試みる小規模第1相臨床試験で、悪性の小児脳腫瘍の中で発生頻度が高い髄芽腫の再発小児患者において、この薬剤が安全とみられることがわかった。加えて、腫瘍においてヘッジホッグ経路の活性化を示した2 人の患者が、分子標的薬GDC-0449の延長投与をうけ、同剤から効果を得られた可能性が研究者らに示された。米国臨床腫瘍学会(ASCO)の年次総会で発表されたこの結果を受けて、小児脳腫瘍コンソーシアム(PBTC)では、髄芽腫を有する小児における本剤の有効性を検証するため第2 相臨床試験を計画している。

ヘッジホッグシグナル伝達経路は胎生早期の発達と成人組織の維持にとって重要であるが、経路の異常な活性化は癌に寄与するかもしれない。髄芽腫のおよそ20%に異常なヘッジホッグシグナルが関与していると考えられている。

試験では、13 人中12 人の再発あるいは薬剤抵抗性髄芽腫の子供が薬に対して忍容性を示し、前臨床試験でマウスに観察された骨や歯での問題は生じなかった。試験に参加し、腫瘍のヘッジホッグ経路活性化が確認された2 人の患者のうち、治療開始から6 カ月後に1 人の患者が増悪し、もう1 人の患者については試験の期間、少なくとも391 日は病勢進行がなかったと、試験を実施したPBTC を代表して試験責任医師のDr. Amar Gajjar 氏は述べた。

患者は全員が4 歳から21 歳の間で、本薬剤を2 種類の投与法のうち1 つを用い、最短で28 日間、疾患が増悪しない限り継続して服用した。この研究段階の薬剤の小児への安全性と適切な投与量を決定することに加え、研究者らは、ヘッジホッグ経路の活性化を引き起こす腫瘍を正確に特定するために病理学やゲノムの手法についての研究を行なった。

髄芽腫と診断された4 人中3 人の小児は長期生存が可能となったが、腫瘍が再発した小児において、治癒はまれである。米国で毎年およそ500 人もの小児がこの癌に罹患しており、毒性の低い、新しい治療法が必要であるとNCI の癌治療評価プログラムのDr.Malcolm Smith 氏は指摘した。髄芽腫患者、特にヘッジホッグ経路活性を呈する腫瘍を有する患者に対するGDC-0449 の評価を進めることは、優先度が高い、とSmith 氏は付け加えた

血中ビタミンD濃度はまれな癌のリスクには関連しない

循環血液中のビタミンD 値は、子宮内膜、食道、胃、卵巣、膵臓、腎臓、非ホジキンリンパ腫の、7 つのまれな癌種のその後の発生リスクに関連しないことが大規模前向き試験でわかった。個々にはまれな癌であるが、合計すると米国における癌死のほぼ4 分の1 の割合を占める。一連の研究の中での結果は、6 月18 日のAmerican Journal of Epidemiology 誌電子版に掲載された。

「これらの癌部位を選んだのは、基礎研究や生物学的エビデンスで、ビタミンD がこの癌種のリスクを変える役割を担っているかもしれないと示されてきたにもかかわらず、これまでの疫学調査が不足していたからである」と、米国国立癌研究所(NCI)癌疫学・遺伝学部門のDr. Demetrius Albanes 氏は述べた。「これらの癌は比較的まれであるため、単発の試験ではリスクを特定できません。10 の試験からのデータを蓄積することで、これらの癌の転帰におけるビタミンD仮説を厳密に検証できたのです」。

研究者らは、まれな癌のCohort Consortium Vitamin D Pooling Project (共同コホート研究ビタミンD データ蓄積プロジェクト)の一環で、25-OH ビタミンDの血中濃度を測定した。これはビタミンD の、循環血液中における主要な代謝型である。これらの癌について、ビタミンD の血中濃度が正常値にある人と比較しても、血中濃度が高い人に癌リスクの低下はみとめられなかった。逆の角度から見ても、血中ビタミンD濃度が低い参加者に高い癌リスクがみられたわけではなかった。しかしながら、血中ビタミンD 濃度が非常に高い(100 nmol/L 以上)少数の患者(2.3%)での膵臓癌リスクの増加を研究者らは観察した。「この知見はさらに追加研究が必要である」と、Albanes 氏は述べた。

ボルチモアにあるマーシー医療センター予防・研究センターの医師で、このプロジェクトの運営委員会の議長を務めるDr. Kathy J. Helzlsouer 氏概論中に、ビタミンD の至適濃度、特に骨の健康にとっての重要性について書いている。同氏が示したこの試験からの教訓は「何事も中庸が肝腎である。ビタミンD 値は低すぎてもいけないが、過剰に高くする必要もない」ということであった。

「これらの試験は、循環ビタミンD 値がこれらの癌に関連するという仮説に対抗する説得力のあるエビデンスを提供している」と、オーロラにあるコロラド大学がんセンターのDr. Tim Byers 氏は付随論説に記している。この新しい情報は重要だと同氏は続けた。なぜならばWHOによる国際癌研究機関(IARC:International Agency for Research on Cancer)によるレビューでは、この7種の癌部位について結論を出すためにはエビデンスがこれまで不十分であったと判断していたからである。

癌罹患者の多くは18歳以下の子供がいる親である6 月28 日Cancer 誌電子版に掲載された分析によれば、米国では推定158 万人の癌サバイバーが1 人ないし2 人の18 歳以下の子供と暮らしている。この評価は2000 年から2007年までに米国国民健康調査(NHIS)に参加した癌既往歴を有する13,385人の成人から得られたデータにもとづいている。以前に米国国立癌研究所(NCI)の癌生存者局に所属していたDr. Kathryn Weaver 氏らは、最近(過去2 年内)診断された癌サバイバーの18.3%、またサバイバー全体では14%の人々が、18 歳以下の子供と生活していると指摘した。大半の癌サバイバーは女性(78.9%)で、既婚(69.8%)、年齢は50 歳以下(85.8%)である。著者らは、この対象となる多くの世帯のために、患者家族のニーズや医療福祉資源の紹介サービスについて評価する調査を進めるよう要請した。「癌に苦しむ多くの家庭について記述することで、潜在しているリスクグループが認識されるように、これまで以上に関心が払われるよう望んでいる」と、著者らは記している。

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横山 加奈子、岡田 章代 訳
久保田 馨(呼吸器内科/国立がん研究センター中央病院)
寺島 慶太(小児科/テキサス小児がんセンター)監修 

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