肺がん、次世代シーケンシングの優れた費用対効果

ASCOの見解

「今日、がん治療、特に肺がんの治療において、プレシジョン医療は実に期待できる目覚ましい進歩を遂げています。次世代の遺伝子検査法によって、より迅速に、またより低コストで、医師や患者が治療法決定に必要な、大事なゲノム情報を得られる可能性があることがわかり、これはとても期待できることです」と、 米国臨床腫瘍学会(ASCO)会長でASCOフェロー(FASCO)の、Bruce E. Johnson医師はいう。

転移性非小細胞肺がんにおけるさまざまなタイプの遺伝子検査を経済的な観点から比較したモデルによると、診断時に、既知の肺がん関連遺伝子変異をすべて検査する次世代シークエンシング(NGS)は、一度に一個または限られた数個の遺伝子を調べる検査よりも費用対効果が高く、より迅速にできることがわかった。

このモデルには、架空の100万人が加入するメディケア(米国の高齢者向け公的医療保険制度)および民間の医療保険制度が含められた。このモデルによると、次世代シークエンシングでは、メディケアにおいて210万ドル、民間が提供する医療保険制度では25万ドル以上のコスト削減となった。本研究は、シカゴで開催される2018年ASCO年次総会で発表予定である。

「肺がん治療は急速に進歩しています。われわれは、患者さんが肺がんと診断されたらすぐに最良の治療を決定するために、遺伝子変異の特徴を十分に把握しなければなりません」と、クリーブランドクリニック肺がんプログラムの共同責任者であり筆頭著者であるNathan A. Pennell医学博士はいう。「今日では、患者の腫瘍における特定の遺伝子変化の有無に基づいて、多くの治療決定がなされます。近い将来さらに数種類の遺伝子が同定されるでしょう。したがって、治療の標的となり得る多くの遺伝子変異を素早く見つけられる、費用対効果の高い遺伝子検査を見つけることが、より不可欠となっています」。

非小細胞肺がんに最適な治療を決めるために、腫瘍の遺伝子検査は重要である。今日ではさまざまな多くの検査が利用可能であるが、これらの検査をいつ、どのように行うかについては、一般に認められた標準的な方法はない。著者らは、どの遺伝子検査によるアプローチが最も費用対効果が高く、効率が良いかを明らかにするため、このモデルを立案した。このモデルではCMS(メディケア・メディケイドサービスセンター;注、メディケアの運営組織)および米国の民間医療保険制度のデータを用いて、それぞれの検査方法にかかる費用を推定した。

この研究について
非小細胞肺がんで変異する遺伝子として知られているのは、 EGFR、ALK、ROS1、BRAF、MET、HER2、RET、NTRK1など(このうち、承認済みの治療薬の標的となるのは、EGFR、ALK、ROS1、BRAF)である。その他の遺伝子変異は、臨床試験で検討中の治験薬の標的となりうる。より最近では、腫瘍に対する免疫療法の効果を予測する因子としてPD-L1の発現をみる検査も(遺伝子検査に加えて)行われる。

今回のモデルでは、新規に転移性非小細胞肺がんと診断された患者に対して、PD-L1の検査、および(次に挙げる)異なる4種の検査のうちの1つを用いた既知の肺がん関連遺伝子の検査、が行われた。

  • はじめから次世代シークエンシング(NGS)を行って、8個の非小細胞肺がん関連遺伝子とKRAS遺伝子を一度にすべて検査する方法
  • 遺伝子検査を逐次行う、つまり一度に1個の遺伝子を順に検査していく方法
  • 排他的にKRAS遺伝子検査を行って、KRAS遺伝子に変異がみられなかった場合、他の遺伝子異常の検査を順次行う方法(一つの肺がんにおいて、これらの遺伝子異常が重複して認められることは稀、つまり遺伝子変異は“排他的”なので、KRAS遺伝子に変異がみられた場合は、他の変異に対する検査は行わない)。 
  • EGFR、ALK、ROS1およびBRAF遺伝子を同時に調べるパネル検査をまず行い、他の遺伝子については遺伝子を一個づつ調べるかまたは次世代シークエンシング(NGS)を行う方法

今回のモデルでは、最初に次世代シークエンシングを行わなかった場合には、最初の生検では追加の遺伝子検査をするための組織検体量が十分ではないために更にもう一度生検を行わなければならないこと、また、そのような再生検の必要性は最初から網羅的な次世代シークエンスにより減ること、が仮定された。また、このモデルでは、生検標本が検査室に送られてから検査結果が返ってくるまでの時間、それぞれの遺伝子検査にかかる費用、および検査の対象となりうる米国の転移性進行非小細胞肺がん患者の推定人数を考慮にいれた。

主な結果
研究者らは、米国での、年間の転移性非小細胞肺がん患者の人数と年令に基づいて、100万人分の医療保険制度に対して、2066件の検査がCMSによって支払われ、156件の検査費用が民間の保険会社によって支払われると推定した。また、本モデルによると、次世代シークエンシングとパネル検査では結果を得られるまで2週間かかると推測された。一方、排他的検査法(サイト注:KRAS遺伝子検査をまず行う方法)や逐次検査法(サイト注:一つ一つの遺伝子を順番に調べる方法)では、結果が得られるまでの期間はそれぞれ4.7週間と4.8週間であった。

CMSの支出に関する経済的効果を検討すると、次世代シークエンシングによって、排他的遺伝子検査と比較して約140万ドル、逐次検査法と比較して150万ドル以上、パネル検査と比較して約210万ドル、の費用削減効果が期待される。民間の医療保険制度においては、次世代シークエンスによる費用削減効果は、排他的遺伝子検査と比較して3,809ドル、パネル検査と比較して250,842ドルと想定される。

次の段階

本研究の限界としては、今回のモデルはいくつかの仮定に基づいていることである。次のステップとしては、実在するそれぞれの医療制度を調査してその違いを評価し、実社会での費用対効果を検証することである。

本研究はノバルティス社から資金援助を受けた。

今回の研究を表で見る

疾病名転移性非小細胞肺がん
研究タイプ遺伝子検査の経済的効果のモデル化
本モデルでの患者数2,221人
モデル化したモダリティ肺がんに対する遺伝子シークエンシング
主要な結果1個の遺伝子または逐次的な遺伝子の検査の費用と、最初から網羅的な次世代シークエンシングを行う費用の比較
副次的な結果遺伝子検査の結果が得られるまでの時間

 
 抄録全文

参考記事:
腫瘍マーカーテスト
非小細胞肺がんについて

2018年ASCO年次総会ニュース企画チームの情報開示について

ASCOフェローBruce E. Johnson医師に関する開示事項:Stock and Other Ownership Interests with KEW Group; Honoria from Merck and Chugai Pharma; Consulting or Advisory Role with Novartis, AstraZeneca (Inst.), KEW Group, Merck, Transgene, Clovis Oncology, Genentech, Lilly (Inst.), Chugai Pharma, Boehringer Ingelhelm and Amgen; Research Funding with Novartis; Patents, Royalties and Other Intellectual Property with royalties from Dana-Farber Cancer Institute; Expert Testimony with Genentech.

報道には全てASCO年次総会に帰属の旨を明示のこと。

翻訳担当者 平沢沙枝

監修 田中文啓(呼吸器外科/産業医科大学)

原文を見る

原文掲載日 

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