生菌を用いた免疫療法が悪性胸膜中皮腫の奏効率を改善

 ・トピック:肺がんおよびその他の胸部腫瘍/がん免疫学および免疫療法

悪性胸膜中皮腫(MPM)患者に生菌を用いた免疫療法と化学療法を併用すると、90%以上の病勢コントロールと59%の奏効率が示されたとの第1b相試験の結果が、スイスのジュネーブで行われた2016年欧州肺がん学会(ELCC)にて本日発表された。

「悪性胸膜中皮腫は肺の被膜(胸膜)にできるがんで、まれではあるが治療が難しい」と米国サンフランシスコにあるUCSF Helen Diller Family総合がんセンター医学部教授のThierry Jahan教授は述べた。「ペメトレキセド+白金製剤併用化学療法による標準的治療では、30%の奏効率が得られるが、生存に関する効果はそれほど大きいものではない。それゆえ、この特定の患者群に対する未対処のニーズがあることは明らかである」。

MPM患者は、腫瘍内にメソテリン抗原を強く発現している。CRS-207は、病原性を取り除くために2カ所の遺伝子を欠失させ、メソテリンを発現するよう設計された弱毒化リステリア・モノサイトゲネスの生菌である。

「われわれの初期研究では、CRS-207はメソテリンを発現する腫瘍患者において、抗メソテリン反応および腫瘍特異的な細胞免疫を惹起した」とJahan氏は述べた。「われわれは、この免疫療法と化学療法との相乗効果を示唆するデータも有しているため、この免疫標的薬と化学療法の併用効果を評価することは当然の成り行きであった」。

今回の試験で、化学療法が適応される切除不能の進行中皮腫患者を対象に、CRS-207と標準化学療法の併用効果を検証した。参加患者38人に対して、2週間の間隔でCRS-207投与を2回、3週間の間隔でペメトレキセド+シスプラチン投与を最大6クール、その後3週間の間隔でCRS-207を2回追加投与した。適格患者には8週間ごとにCRS-207の維持投与を行った。患者は病勢が進行するまで8週間ごとに評価が行われた。

中央値で9.4カ月(範囲:0.2~28.1カ月)の追跡期間後、研究者らは患者の59%が部分奏効、35%が病勢安定を示し、全体では94%の病勢コントロール率であったことを見出した。無増悪生存期間の中央値は8.5カ月であった。Jahan氏は、「CRS-207と化学療法の併用療法を受けた患者は、90%以上の病勢コントロール率であり、非常に大きな効果であった」と述べた。

CRS-207投与にともなう主な副作用は、スパイク熱と悪寒であった。これらの副作用は、点滴に伴うもので、24時間以内に寛解した。「薬剤の安全性は、注目すべきものである」とJahan氏は述べた。「安全性は実際に明らかであり、ペメトレキセド+白金製剤化学療法との併用も十分な忍容性であった。いかなる蓄積毒性もみられなかった」。

治療薬投与後に、3人の患者で免疫組織化学的分析が行われ、腫瘍浸潤白血球の著しい集積と増加が認められた。CD8+細胞、マクロファージ、ナチュラルキラー細胞の浸潤増加も認められた。

Jahan氏は、「本剤使用の前臨床段階での仮説が証明され、良好な免疫活性化を確認した。CRS-207は、自然免疫、獲得免疫の両者を活性化すると思われ、化学療法との相乗効果を発揮するものである」と述べた。

Jahan氏は「CRS-207は中皮腫患者にとって画期的な薬剤である。今回の予備的な結果は希望を与えるものであり、標準的化学療法と併用すれば、よりすぐれた臨床活性が得られることを示唆している。このことは、ランダム化試験でCRS-207の効果を評価することを支持するものであり、このランダム化試験は、目下計画段階で、年内に開始されることになっている」と結論づけた。

研究の論評として、スイスのチューリッヒにあるチューリッヒ大学病院の腫瘍学教授であるRolf Stahel教授は、「今回の知見から、この種の免疫療法の追加は、化学療法単独で期待される効果と比較すると、奏効率を改善し、無増悪生存期間を延長すると言える。このことは、本ワクチン接種が有益であるとの仮説を支持するものであるが、ワクチン接種の化学療法への追加が生存率に寄与するか否かは今後のランダム化試験で調査されるだろう」と述べた。

翻訳担当者 橋本奈美

監修 廣田 裕(呼吸器外科、腫瘍学/とみます外科プライマリーケアクリニック)

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