肺癌患者に対するEGFRおよびALK分子学的検査についての合同ガイドライン

米国臨床腫瘍学会(ASCO)は本日、 米国病理学会(College of American Pathologists:CAP)、国際肺癌学会(International Association for the Study of Lung Cancer:IASLC)、米分子病理学会(Association for Molecular Pathology:AMP)の3学会合同で作成された、EGFR(上皮成長因子受容体)およびALK(未分化リンパ腫キナーゼ)をターゲットとした治療に適応する肺癌患者を選択するための分子学的検査に関する診療ガイドラインを承認したことを発表した。本ガイドラインは、EGFR とALK の遺伝子検査を受けるべき患者の特定について、またその検査を受ける時期と方法について定義するものである。ASCOが本ガイドラインを承認することにより、医師は急速に変化する現場において切望されている指標を得ることとなる。

「このガイドラインは肺癌治療の個別化と、進行肺癌患者の予後の改善を向上させる、非常に重要なものです」と、本ガイドラインを承認するASCO専門家委員会の共同議長であるNatasha B. Leighl医師・理学修士は語った。「ガイドラインには現在のエビデンスが記載されており、また腫瘍学者や病理学者が分子学的検査を理解し、臨床に取り入れるのに役立ちます」。

進行期では治療が極めて困難な肺癌は、男女ともに癌関連の死亡の主要原因である。 現在、数種の分子標的治療が、肺癌のもっとも一般的なサブタイプである進行非小細胞肺腺癌の患者に対して使用可能である。EGFRを標的とした薬剤であるエルロチニブやアファチニブ、ALKを標的とした薬剤であるクリゾチニブやセリチニブ[ceritinib]などを含む、これらの分子標的治療薬は、腫瘍を縮小し疾患進行を遅らせることができる一方、EGFR 遺伝子またはALK遺伝子に特定の変異がある患者においてのみ作用する。そのような治療に適応する可能性のあるすべての患者を確実に特定するために、迅速で正確な分子学的検査が重要である。

「このガイドラインは、どの患者を検査対象とするのか、また検査をいつどのように実施するのかといった点を標準化するのに役立つものです」と、本ガイドラインを承認するASCO専門家委員会の共同議長であるNatasha Rekhtman医学博士は話した。「このガイドラインにより分子学的結果に基づいた検査と治療が促進されることを望んでいます」。

ASCO専門家委員会がガイドラインの内容のレビューを行った結果、推奨事項は明確で包括的であり、もっとも妥当な科学的根拠に基づき、また患者にとって適当な選択肢を提供するものであると同意した。 本ガイドラインは、37の推奨事項と専門家の合意意見または提言で構成されている。

ガイドラインの主要な推奨事項:

•性別、人種、喫煙状態などの特性には関わらず、すべての肺腺癌患者(または腺癌成分のある混合型肺癌の患者)にEGFRおよびALK 遺伝子検査を提供する。
•研究施設では、一定の技術的要件を満たしている場合に限り、種々の異なる試験方法を使用してもよい。特定の種類の検査は推奨されていない。
•研究施設は、検体処理、試験方法のバリデーション、品質保証、および結果報告の所要時間などについての指針に従わなけばならない。

本承認(Molecular Testing for Selection of Patients with Lung Cancer for Epidermal Growth Factor Receptor and Anaplastic Lymphoma Kinase Tyrosine Kinase Inhibitors: American Society of Clinical Oncology Endorsement of the College of American Pathologists/International Association for the Study of Lung Cancer/Association for Molecular Pathology Guideline - 上皮成長因子受容体および未分化リンパ腫キナーゼ阻害剤に適応する肺癌患者を選択するための分子学的検査: 米国病理学会/国際肺癌学会/米分子病理学会によるガイドラインの米国臨床腫瘍学会の承認)は、本日Journal of Clinical Oncology誌に掲載された。
CAP、IASLC、AMPは現在、ALK遺伝子検査、EGFR およびALK 阻害薬に対する獲得耐性に関連した分子変異についての試験、ROS1、RET、ERBB2 (HER2)、BRAF、METなどの新しいマーカー、ならびに次世代の配列検査法に関する新たなエビデンスに基づき、ガイドラインの改訂作業を行っている。
現在の肺癌検査に関するガイドラインに対する重要な更新内容を把握し、ASCO推奨の改訂版の発行時期を決定するために、ASCO専門家委員会員はCAP、IASLC、AMPの会員とともに取り組みを行う予定である。

翻訳担当者 星野恭子

監修 後藤 悌 (呼吸器内科/東京大学大学院医学系研究科)

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<目次>
01:46 予後とは?
02:07 どのような肺がんの予後を改善したのか?
04:00 定位放射線とは?
04:39 この治療法は肺がんの患者さんに対して普通に行われているもの?
05:26 この臨床試験について
06:23 無イベント生存割合とは?
07:41 この臨床試験の結果は?
08:15 薬剤併用群と定位放射線治療単独群で効果に大きな差があるのはなぜ?
09:01 定位放射線治療よりも、標準治療である手術の方が効果が高い?
10:56  今日のおさらい
11:41 今後について

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