一部の小細胞肺がんにタルラタマブが有効

米国国立がん研究所(NCI) がん研究ブログ

新しいタイプの標的免疫療法薬が、肺がんの中で最も悪性度の高い小細胞肺がん(SCLC)患者の約3人に1人で腫瘍を縮小させたことが臨床試験の結果から示された。進行SCLCの治療はほとんど進歩していないことから、この結果は期待が持てると専門家は語った。

SCLC患者の多くは化学療法と免疫療法による初回治療に反応する。しかし、がんは通常、追加治療を行っても進行し、これらの患者の大部分は数週間から数カ月以内に死亡する。

この早期臨床試験では、2種類以上の治療後にがんが進行したSCLC患者を対象に、タルラタマブという試験薬を2種類の用量で試験した。試験参加者の多くは、すでに3種類以上の治療を受けていた。

試験では、10mgのタルラタマブを2週間ごとに投与された患者の40%、100mgを投与された患者の約32%で腫瘍が縮小した。

さらに、タルラタマブによって腫瘍が縮小した患者の半数以上で、この治療によりがんの進行が少なくとも6カ月間抑制され、多くの患者は9カ月以上抑制された。

この最後の知見は特に注目に値すると、NCIがん研究センターのAnish Thomas博士は述べた。Thomas博士はSCLCの研究を行っているが、本試験には関与していない。

「これはおそらく、小細胞肺がんで現在試験されている治療のうち、最も有望なものの一つであろう」とThomas博士は述べた。この新たな知見は、「特に、小細胞肺がんは1980年代から治療にほとんど進歩がみられない高悪性度のがんであるため、患者やその治療にあたる医療者にとって希望になる」と続けた。

本試験(DeLLphi-301試験、タルラタマブの製造元であるAmgen社が資金提供)の結果は、10月20日にマドリードで開催された欧州腫瘍学会(ESMO)の年次総会で発表され、同日The New England Journal of Medicine(NEJM)誌に掲載された。

ESMO総会で結果を発表した、本試験の統括研究者であるLuis Paz-Ares医学博士(Hospital Universitario 12 de Octubre、マドリード)は、この新たな知見は、「こうした治療歴を有する患者へのタルラタマブの使用を支持する」と述べた。

Hospital Universitario Ramón y Cajal(マドリード)のPilar Garrido医学博士は、この結果は「有望だ」と同意した。Garrido氏はESMO会議で本試験についての講演を行ったが、試験には関与していない。しかしGarrido博士は、初回投与時に、患者は起こりうる重篤な副作用に備えて入院する必要があり、それがこの薬剤の投与を計画する上で課題になると指摘した。

Garrido博士はまた、脳に転移したSCLCに対するタルラタマブの有効性に関するさらなるデータと、この薬剤に反応する患者を予測できるバイオマーカーの必要性を指摘した。

Paz-Ares博士によると、タルラタマブの製造元はすでに、初回治療後に再発したSCLC患者を対象に、タルラタマブと標準化学療法を比較する大規模臨床試験を開始している。

タルラタマブはT細胞を利用して小細胞肺がん細胞を破壊

タルラタマブは、二重特異性T細胞エンゲージャー(BiTE)として知られる免疫療法の一種である。この二本の腕を持つ薬剤は、腫瘍細胞とT細胞と呼ばれる免疫細胞とを同時につかむ。T細胞とがん細胞とを接近させることで、T細胞ががん細胞を認識し破壊するのを助ける。

小細胞肺がん細胞を標的とするタルラタマブの腕は、DLL3と呼ばれるタンパクに結合する。このタンパクは通常細胞内に存在するが、しばしばSCLC細胞の表面に高濃度で存在するため、タルラタマブはこれを認識することができる。

そのため、DLL3は「SCLCにおける非常に魅力的な標的」になるとGarrido博士は述べた。

この試験には、進行あるいは治療が無効となった200人以上の進行型または進展型SCLC患者が登録された。参加者全員が化学療法による治療歴を有し、多くが免疫チェックポイント阻害薬(別のタイプの免疫療法薬)による治療も受けていた。参加者全員が2種類以上の治療歴を有し、3分の1は3種類以上の治療歴があった。

研究チームは、2週間ごとにタルラタマブ10mgを静脈内投与された100人と、2週間ごとに100mgを静脈内投与された別の88人を対象に、タルラタマブに対する反応を解析した。副作用の解析には、10mg投与を受けた患者34人を追加で含めた。

10mg群でみられた40%の奏効率(腫瘍縮小率)は、再発SCLCに対して標準治療を受けた患者でこれまでに確認されている15%の奏効率を「はるかに上回る」と、Paz-Ares博士らはNEJMに報告している。

さらに、薬剤に反応したこれらの患者の30%は、少なくとも9カ月間効果が持続した。これは「素晴らしい」結果であるとThomas博士は述べた。なぜなら、がんは通常、急速に進行するからである。

10mg群におけるタルラタマブ開始後の生存期間中央値は14.3カ月であったのに対し、現在の治療では6〜12カ月である。研究者らは、タルラタマブの副作用や寿命に及ぼす影響をさらに詳しく知るため、試験参加者の追跡調査を続けている。

DeLLphi-301の初期成績に基づき、今後の臨床試験では低用量(10mg)のタルラタマブが使用されることになるだろうとPaz-Ares博士は述べた。

タルラタマブで多くみられる重篤な副作用

Paz-Ares博士によると、タルラタマブの副作用はほとんどの場合「管理可能」であり、本試験で副作用のために治療を完全に中止した患者は約3%にすぎなかった。さらに、副作用のため治療の一時中断、用量の減量、あるいはその両方を余儀なくされた患者の割合は、10mg群では13%、100mg群では29%であった。

タルラタマブで最も多くみられた副作用は、サイトカイン放出症候群(炎症が全身に広がり、生命を脅かす可能性のある反応)であった。その他、食欲減退、発熱、貧血などの副作用が多くみられた。

患者の約3分の1が重症の副作用を経験し、この中には重篤なサイトカイン放出症候群の症例が含まれた。重症の副作用は、高用量のタルラタマブを投与された患者で頻度が高かった。

Paz-Ares博士によると、サイトカイン放出症候群のほとんどの症例は「管理可能」であり、大抵は発熱と炎症を抑えるための静脈内輸液や薬剤などの「対症療法で治療可能であった」。しかし、10mg群の患者が1人、治療による呼吸不全で死亡した。

タルラタマブのもう一つの重篤な副作用はICANS(免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群)であり、重度の錯乱、注意力障害、振戦、筋力低下など多くの神経学的事象が含まれる。ICANSは100mg群の患者で多くみられ、各用量群で1人の患者が治療を完全に中止した。

ICANSとサイトカイン放出症候群はいずれも、他のBiTEやCAR T細胞療法などの、T細胞を活性化させてがん細胞を殺す免疫療法でよくみられる。

課題、懸念、疑問は残る

本試験は、タルラタマブをSCLCの標準治療と比較するためにデザインされたものではないことをThomas博士は強調した。「しかし、標準治療を行った場合の病勢進行の早さについては十分な履歴データが存在する」。

Thomas博士は、もう一つの問題点として、現在の診療では診断時にすべての進展期SCLC患者に対して化学療法と免疫チェックポイント阻害薬で治療することになっている点を挙げた。しかし、本試験参加者の約4人に1人が免疫チェックポイント阻害薬による治療を受けていなかった。したがって、免疫療法薬を受けたにもかかわらずがんが再発した患者にとって、タルラタマブがどの程度有効かを知ることは有益だと説明した。

副作用の可能性も懸念される。本試験ではサイトカイン放出症候群の重症例はほとんどみられず、多くはタルラタマブの初回または2回目投与後に発現した。それでも、投与開始初期で副作用が発現するリスクがあることは「重要な懸念事項である」、とThomas博士は述べた。というのも、タルラタマブの最初の2〜3回の静脈内投与を受けるたびに、患者は万一に備えて数日間入院する必要があったからである。

さらに、試験に参加するためには全身の健康状態が良好でなければならず、重篤な副作用の影響は病弱な人ほど大きくなる可能性があるとThomas博士は続けた。

これらすべての理由から、「患者が入院せずにすむように、副作用をどのように管理するのが最善なのか、また、副作用をどのように予測し、予防し、治療できるのか」を知ることが重要になるとThomas博士は述べた。

また、一部の患者は治療開始後6週間以内に死亡し、その死亡ががんの進行によるものかどうかを研究チームが評価する間もなかったと指摘した。そして、「このような早期の死亡が副作用によるものであったのかどうか、もっとよく理解する必要がある」とThomas博士は述べた。

最後に、Garrido博士はもう一つの課題として、タルラタマブに最も反応しやすい患者を予測できるバイオマーカーの同定を挙げた。研究チームは有望なバイオマーカーとして腫瘍細胞上のDLL3に注目したが、薬剤への反応と腫瘍におけるDLL3の有無は関連がなかったと報告した。

Garrido博士は、今回の結果について「多くの課題があるものの、患者に新たな希望をもたらす」と述べた。

  • 監訳 田中謙太郎(呼吸器内科、腫瘍内科、免疫/九州大学病院 呼吸器科)
  • 翻訳担当者 工藤章子
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  • 原文掲載日 2023/12/01

この記事は、米国国立がん研究所 (NCI)の了承を得て翻訳を掲載していますが、NCIが翻訳の内容を保証するものではありません。NCI はいかなる翻訳をもサポートしていません。“The National Cancer Institute (NCI) does not endorse this translation and no endorsement by NCI should be inferred.”】

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