がん臨床試験の合理化モデル「Pragmatica-Lung」試験、肺がん患者登録を開始

米国国立がん研究所(NCI) プレスリリース

進行した非小細胞肺がん(NSCLC)を治療する2剤併用療法の第3相ランダム化臨床試験(NCT05633602)の立ち上げに米国国立衛生研究所(NIH)の一部である米国国立がん研究所(NCI)が支援した。「Pragmatica-Lung スタディ(またはS2302試験)」と呼ばれるこの試験は、患者の臨床試験参加を妨げる多くの障壁を取り除いた試験デザインを実践した初のNCI支援臨床試験の一つである。この「実用的(pragmatic)」アプローチは、臨床試験へのアクセス性を高めることを目的とする。

この研究は、NIHと米国食品医薬品局(FDA)による、臨床試験の近代化に向けた幅広い取り組みの一環である。実用的な臨床試験は、患者の安全性を確保しながら、従来の試験よりも参加資格基準の数を少なくして簡素化されている。この種の簡略化された臨床試験は、従来より患者や研究者への負担が少なく、試験参加者を迅速に獲得し、リアルワールドな患者集団を的確に反映することにより、将来のがん臨床試験のモデルとなることが期待される。

NCIのディレクター、Monica M. Bertagnolli医師は、「この試験は、参加の障壁となり得るものを取り除くようにデザインされており、臨床試験における多様性と参加者を増やすためのモデルを提供します」と述べている。「Pragmatica-Lung試験は、官民共同で、NCIが、がんムーンショット計画(Cancer Moonshot℠)の目標(今後25年以内のがん死亡率50%減少など)を達成するために行っている革新的アプローチの一例です」。

本試験は、免疫療法および化学療法による治療後に病勢が進行した進行非小細胞肺がん(NSCLC)患者を対象に、FDA承認薬であるラムシルマブ(サイラムザ、 Eli Lilly and Company社製)とペムブロリズマブ(キイトルーダ、Merck社製)の併用が標準治療と比較して全生存期間を改善するかを評価する。

NCIがん治療・診断部門のディレクターであるJames H. Doroshow医師は、「このような試験により、大規模な大学医療センターに勤務していない医師が患者を登録しやすくなり、結果としてより多様な人々が試験に参加することにつながります」と述べている。「厳格な科学および安全の基準を守りながら試験へのアクセス性を高めれば、より多くの医療従事者や患者が参加できるようになります」。

本試験には、米国各地から最大700人の参加者を登録する予定である。過去に免疫チェックポイント阻害薬(免疫療法薬の一つ)および化学療法による治療を受けたステージ4または再発したNSCLCの成人(18歳以上)が、ラムシルマブ+ペムブロリズマブ治療または標準治療のいずれかにランダムに割り付けられる。本試験は、主に2つのグループの患者の生存期間を観察し、2025年末までに登録が完了する予定である。

Pragmatica-Lung試験は、NCIが支援したはじめての肺がん精密医療試験である、Lung Cancer Master Protocol(Lung-MAP)の一環として行われた第2相ランダム化臨床試験(S1800A)の良好な結果を確認することを目的とする。この試験は、化学療法および免疫療法薬による治療歴のある進行NSCLC患者136人が参加し、ラムシルマブ+ペムブロリズマブ併用療法が標準治療と比較して生存期間を延長する証拠を明らかにした。ラムシルマブは新しい血管の成長を妨げることで効果を発揮する標的薬で、ペムブロリズマブは体の免疫系によるがん攻撃を助ける免疫療法薬である。

実用的アプローチは、研究対象の薬剤がすでに承認され、その副作用が十分に分かっている試験に最も適しているとDoroshow医師は述べている。

Pragmatica-Lung Studyに関して、Alliance for Clinical Trials in Oncologyとともに試験をデザイン・主導しているSWOG Cancer Research NetworkがNCIと協力している。

本試験は、SWOG、Allianceのほか、成人がんに取り組む米国NCI National Clinical Trials Network(NCTN)の2つのグループ、ECOG-ACRIN がん臨床試験グループおよびNRG Oncologyが参加して実施される。これら4つのNCTNグループは、合わせて米国内の1,600以上のがん治療機関を代表しており、これらの施設の医師は、本試験に患者を登録することができる。

  • 監訳 稲尾 崇(呼吸器内科/神鋼記念病院)
  • 翻訳担当者 奥山浩子
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  • 原文掲載日 2023/04/12

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