高リスクくすぶり型骨髄腫の治療効果予測に免疫プロファイルが関与

多発性骨髄腫の前段階にいる多くの患者では、早期治療により骨髄腫への進行を遅らせることが可能である。ダナファーバーがん研究所の研究者らによる新たな研究で、免疫系細胞に認められる変化から、高リスクの「くすぶり型」骨髄腫患者のうち、骨髄腫に進行する可能性が高い患者や治療から最も恩恵を受ける患者を特定できることを明らかになった。

これらの知見は、免疫療法薬と標準治療の併用がこのような患者集団に安全かつ有効であることを示した臨床試験から得られたものであり、この併用療法が骨髄腫の進行を抑えるだけでなく、治療を受ける患者を選別し、治療でどれだけ良好な奏効が得られるかを評価するための新たな「バイオマーカー」の組み合わせとなることが、11月14日付Cancer Cell誌オンライン版で発表された。

「今回の結果は、高リスクくすぶり型骨髄腫患者の『免疫学的プロファイル』を得ることによって、治療が有効な患者を特定できる可能性を示しています。また、今回のデータは、骨髄で見られるのと同じ免疫学的変化の多くを患者の血液が共有していることを示していて、血液検査によって、患者の免疫調節異常が検出されるだけでなく、治療効果が確認できる可能性も提起しています」と、本研究の筆頭著者であるダナファーバーがん研究所および MIT・ハーバード大学ブロード研究所のRomanos Sklavenitis-Pistofidis医師は述べている。

くすぶり型骨髄腫は、患者の血液中にモノクローナル蛋白と呼ばれる異常な蛋白質が大量に認められ、骨髄中に異常な形質細胞が大量に存在する無症状の疾患である。くすぶり型骨髄腫患者の約半数は、診断から5年以内に骨髄腫を発症するが、発症しない患者もいる。「ハイリスク」に分類されるくすぶり型骨髄腫患者は特に骨髄腫を発症しやすく、その時点で治療が必要である。

多発性骨髄腫とは、感染症などと闘う骨髄の白血球「形質細胞」が腫瘍化したものである。標準的な管理法として、くすぶり型骨髄腫では骨髄腫の症状がない間は治療を行わない。しかし、リスクの高いくすぶり型骨髄腫患者には、通常、臨床試験の一環として、症状が出る前に治療を行うことができる。治療の進歩により、多くの患者でこの病気と共存できる期間が延長されたが、依然として不治の病である。

近年、くすぶり型骨髄腫が本格的な骨髄腫に進行するのを妨げる、または食い止めることを目的とした治療法の臨床試験が複数行われている。2つの第3相試験により、高リスクのくすぶり型骨髄腫患者において、免疫調整薬のレナリドミド(販売名:レブラミド)単独または骨髄腫細胞に対して大きな活性を持つ抗炎症薬デキサメタゾンとの併用で、増悪が起こるまでの期間を有意に延長できることが示された。

新たに実施された第2相試験では、くすぶり型骨髄腫患者51人に、レナリドミド、デキサメタゾン、およびエロツズマブ(販売名:エムプリシティ、骨髄腫細胞に対する免疫系の攻撃を促進する抗体薬)のレジメンが投与された。この研究の一部として、研究者らは、くすぶり型骨髄腫患者とそうでない人から血液と骨髄のサンプルを149個採取し、それぞれのサンプルから免疫系細胞を分離した。その後、これらの細胞内のRNAを分析することによって、遺伝子発現の変化とT細胞受容体の変化を検出した。T細胞受容体は、疾患細胞由来のタンパク質を認識するT細胞上のタンパク質で、この認識が病気に対する免疫攻撃の引き金となり、免疫系が病気に対する記憶を形成できるようにする。この情報を用いて、各サンプルに存在する免疫細胞の種類とそれぞれのサブタイプの相対的なレベルを特定した。

研究者らは、本試験の対象となった患者の87%が3剤併用療法に効果を示し、95.6%が治療後2年間生存していることを明らかにした。この試験には比較対照となる未治療の患者群は含まれていなかったが、高リスクのくすぶり型骨髄腫患者では骨髄腫への進行率が予想より低かったことから、この治療が安全で有効であることが示されたと、研究著者らは述べている。

患者と健康な試験参加者の免疫系細胞の種類を比較したところ、骨髄中の免疫細胞の構成が健康な試験参加者と最も異なる患者では、病状が悪化するまでの期間である無増悪生存期間が有意に長いことが明らかになった。これはおそらく、骨髄内のT細胞のバランスが、骨髄腫を攻撃するのに最適な細胞へと変化したためと考えられる。また、グランザイムK(GZMK)陽性CD8陽性エフェクターメモリーT細胞と呼ばれるT細胞が豊富な患者は、3剤併用療法に最も効果を示すことがわかった。

最後に、研究者らは、患者の血流で生じた免疫変化の多くが骨髄で生じた免疫変化に類似していることを発見した。このことは、患者の免疫異常を検出しモニターするための簡単な血液検査、ひいては、いつの日か治療効果が最も期待できる患者を選別するための検査が可能になる可能性を示している。

本研究の統括著者: Irene Ghobrial, MD, of Dana-Farber and the Broad Institute of MIT and Harvard and Gad Getz, PhD, of Massachusetts General Hospital and the Broad Institute

共著者は原文参照のこと。

本研究は、Stand Up To Cancer-Bristol-Myers Squibb Catalyst Research Grant(SU2C-AACR- CT05-17)、米国国立衛生研究所(R01 CA205954)、Leukemia and Lymphoma Society、The Multiple Myeloma Research Foundation、Dr. Miriam and Sheldon G. Adelson Medical Research Foundationから助成を受けた。MMRF Research Fellowship Award、International Waldenstrom’s Macroglobulinemia Foundation’s Robert A. Kyle Award、Claudia Adams-Barr Award for Innovative Basic Cancer Research、International Myeloma Societyなどの受賞がある。



監訳 喜安純一(血液内科・血液病理/飯塚病院 血液内科)

翻訳担当者 青山真佐枝

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原文掲載日 2022/11/14


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