試験的T細胞療法は幹細胞移植後によく見られる6種類のウイルス感染症に対し有望

既製品を用いた治療で95%の患者が反応を示す

6種類のウイルスを同時に標的とする試験的な既製品を用いた同種異系T細胞療法であるポソリューセルは、がんやその他の血液疾患の治療のために幹細胞移植を受けた患者を対象とした第2相試験で有望な抗ウイルス効果と安全性を実証したことが、米国がん学会(AACR)の定期刊行物Clinical Cancer Research誌に発表された。

血液がんやその他の血液疾患の患者は、患者の幹細胞をドナーの幹細胞と置き換える治療である同種異系の幹細胞移植(allo-SCT)の治療を受ける場合がある。この治療法を受ける患者は、ウイルス感染に非常にかかりやすく、有意な罹患率と死亡率につながる可能性があると本試験の筆頭著者であり、セントルイス(St. Louis)のワシントン大学医学部(Washington University School of Medicine)小児科助教授のThomas Pfeiffer医師は解説する。

「allo-SCT後に感染症を発症した患者に現在適用できる治療法には制約がいくつかあると本試験の統括著者であり、テキサス小児病院(Texas Children’s Hospital)の小児血液腫瘍医でベイラー医科大学(Baylor College of Medicine)のDan L Duncan総合がんセンター(Dan L Duncan Comprehensive Cancer Center)小児科助教授でメンバーのBilal Omer 医師は指摘する。

「従来の抗ウイルス剤は、骨髄抑制や腎障害など耐え難い毒性があることが多いのです」とBilal Omer医師は語る。「加えて、その効果はこの患者集団では限定的、治療に対する耐性が比較的容易に生じます」

allo-SCT後の患者に最も多く見られる6種類のウイルス(アデノウイルス、BKウイルス、サイトメガロウイルス(CMV)、エプスタイン・バー・ウイルス、ヒトヘルペスウイルス6、JCウイルス)を標的とするドナーのT細胞からなるポソリューセルの試験的治療の安全性と有効性をPfeiffer医師やOmer医師らがこの第2相臨床試験で評価した。

「単一の治療薬で6種類のウイルスを標的とすることが可能なため、複数のウイルスに感染している患者に有益です」とOmerは語る。「さらに、ポソリューセルは、重篤な膀胱炎を引き起こして患者に耐え難い痛みをもたらすBKウイルスに対する開発中の初のT細胞治療薬です」と語る。ポソリューセルは、患者や移植ドナーのT細胞ではなく、健康なドナーのT細胞を利用するため、よりカスタマイズされた治療法のような長い開発プロセスを回避し、すぐに使用できる既製品を用いた治療法であるとOmer医師は付け加えた。「このようなウイルスに感染した患者は多くの場合、重篤な症状を示し、一刻も早い治療が必要となります」とOmer医師は語る。

がんや血液疾患の治療のためにallo-SCTを受け、ポソリューセルが標的とする6種類のウイルスのうち少なくとも1種類に感染している成人および小児患者58名が本試験に登録された。試験対象者はこれらのウイルスに対する標準的な治療法に反応しない、または忍容性のない患者であった。この試験集団のウイルス感染数は合計70であり、その大半はCMVとBKウイルス感染であった。

58人中55人(95%)でポソリューセルが投与後6週間以内に奏効し、これらの患者は循環するウイルスの量が平均97%減少した。複数のウイルスに感染した12人の患者のうち、10人(83%)が感染していたウイルスに対して奏効を示した。

奏効の定義は、ウイルス量が正常範囲に減少し、臨床的な徴候や症状も消失した場合(完全奏効)、またはウイルス量が50%以上減少するか臨床的な徴候や症状が50%以上改善した場合(部分奏効)とする。

特定のウイルスに対する反応は以下の通り。

・アデノウイルス:12人中83%の患者で6週間以内に奏効。

・BKウイルス:27人中100%の患者で6週間以内に奏効。

・CMV:24人中96%の患者で6週間以内に奏効。

・エプスタイン・バー・ウイルス:2人の患者のうち100%で6週間以内に奏効。

・ヒトヘルペスウイルス6:4人中3人に反応があり、4人全員のウイルス量が減少。

・JCウイルス:JCウイルス感染症患者1人は、初期はウイルス症状が安定していたが、最終的に症状が進行し、死亡。

サイトカイン放出症候群の患者はいなかった。13人(22%)の患者が急性移植片対宿主病(GvHD)であるとの報告があったが、9人の患者はポソリューセル治療前にGvHDと診断されていたため、13人中の4人のみが新規の症例と見なされた。グレード2以上の急性GvHDであると報告のあった患者は3人のみであった。最も多く認められたGvHDの症状は皮膚炎で、大半の症例で治療が成功した。

「従来の治療法に反応しない感染症患者の95%がポソリューセルに反応し、ウイルス量が相当程度減少し、GvHDの発生率も限定的であった点が重要な試験結果です」とPfeiffer医師は語る。「ポソリューセルは概して、非常に脆弱な患者集団に非常に有効であることが明らかになり、安全性プロファイルも良好でした」

「この研究で得られたもう一つの興味深い結果は、場合によりポソリューセルを24時間以内に投与することが可能で、一部の患者は数日で症状が消失したことです」とOmer医師は語る。「患者の治療が早期に実施できたことが非常に素晴らしいです」

本試験は単一治療群のデザインであった点に限界がある。ポソリューセルを評価するランダム化第3相臨床試験が進行中である。

本研究は、National Heart, Lung, and Blood Institute Production Assistance for Cellular Therapies、Conquer Cancer Foundation/American Society for Clinical Oncology、Dan L Duncan総合がんセンター(Dan L Duncan Comprehensive Cancer Center)および米国国立衛生研究所より支援を受けた。Omer医師は、本試験とは関係のない人工T細胞療法に関する特許を出願中であり、ポソリューセルを製造するAloVir, LLC社より研究資金を受けている。Pfeiffer医師は利益相反を宣言していない。


  • 監修 花岡 秀樹(遺伝子解析/イルミナ株式会社)
  • 翻訳担当者 松長 愛美
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  • 原文掲載日 2023/01/11

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