特定の遺伝子制御パターンを持つ白血病ではCAR-T療法が効きにくい可能性

CD19標的CAR-T細胞療法による治療開始前からエピゲノム特性は明らか  

CD19を標的とするCAR-T療法に反応しなかった患者の急性リンパ性白血病(ALL)細胞には、治療抵抗性を促進する可能性のある遺伝子制御特性があったことが、4月8日から13日まで開催されたAACR(米国がん学会)年次総会2022で発表された。

この研究を発表した国立がん研究所遺伝学部門のNIH-Cambridge奨学生であるKatherine Masih氏は、「われわれは、治療が奏効しない患者において、治療前から存在し検出可能な遺伝子特性を同定しました」と述べた。

「このデータは、これらの白血病が比較的可塑的であり、幹細胞と同様に多分化能を示すことを裏付けています。このため、CD19を標的とするCAR-T細胞の進化的圧力に対してより迅速に適応できるのではないかと考えられます」と、Masih氏は付け加えている。

CAR-T細胞療法は、患者からT細胞と呼ばれる免疫細胞を採取し、がん細胞を標的とするように再プログラムした後、再び患者に注入してがんと闘う免疫療法の一種である。CAR-T細胞は、受容体であるCD19を標的とすることが一般的であるが、がん細胞はCD19を変異させたり、その発現を抑制することでCAR-T細胞耐性を獲得することができる。CD19の発現は、現在、CAR-Tに対する潜在的な反応性を示す数少ないバイオマーカーの一つであるが、抵抗性を獲得した患者すべてがCD19の発現を失うわけではない。

「われわれの研究は、CAR-T療法に対する一次不応答のCD19非依存性の原因を調べた数少ない研究の一つです」と、この研究の統括著者で、国立がん研究所の遺伝学部門の副部長であるJaved Khan医師は、いくつかの細胞は、治療抵抗性を持つ本質的素因があると説明した。「主な目的は、既存の、白血病に内在する抵抗性のメカニズムを特定することでした」。

研究者らは、Rebecca Gardner医師およびRimas Orentas博士と共同でシアトル小児病院で実施されたPLAT-02臨床試験から治療前の骨髄サンプルを入手した。このサンプルは、CD19を標的としたCAR-T療法後に完全寛解を達成した患者7人と、治療後63日目に白血病細胞が循環していることが引き続き確認されたことにより奏功しなかったと判断された患者7人から採取されたものである。全エクソームシーケンシング、細胞集団のRNAシーケンシング、単一細胞RNAシーケンシング、アレイを用いたメチル化解析、ATAC-seq(遺伝子発現の増加を示すことの多いアクセス可能なクロマチン領域を特定するアッセイ)など、複数の細胞プロファイリング手法を用いて白血病細胞を包括的に特徴づけた。

研究チームは、CAR-T抵抗性白血病細胞とCAR-T反応性白血病細胞の遺伝子制御機構を区別する3つの注目すべき特徴を明らかにした。1つは、幹細胞様の表現型に関連するDNAメチル化(遺伝子発現を低下させる制御マーク)のパターンであった。

「胚細胞やがん幹細胞で抑制されていることが知られている遺伝子の周辺で、メチル化が亢進していることが確認されました」とMasih氏は述べている。

Masih氏たちは、白血病細胞のDNAアクセス可能性のプロファイルを調べたところ、同様の結果を得た。CAR-T細胞耐性白血病に特徴的なオープンクロマチンの領域は、幹細胞の増殖と関連しており、造血幹細胞や急性骨髄性白血病(AML)と関連する異なるクラスの血液細胞である骨髄系前駆細胞を含む造血系前駆細胞で見られるパターンに類似していた。

Khan医師は、CD19-CAR-T療法に対する抵抗性のメカニズムとして、リンパ系から骨髄系への転換が観察されていると述べた。「興味深いことに、リンパ系と骨髄系の両方のマーカーを発現する細胞の亜集団が見られ、一部の非反応性白血病のエピゲノムには、急性リンパ性白血病と急性骨髄性白血病のエピゲノムをハイブリッドに持つ細胞集団が含まれている可能性を示しています」と、Khan医師は述べた。「われわれのデータは、リンパ系と骨髄系に特異的なアクセス可能領域の両方を特徴とするこれらの白血病が、反応性白血病よりも分化度が低い可能性があることを示唆しています」。

また、CAR-T療法に反応しなかった細胞では、免疫反応を起こすために重要な経路である抗原提示とプロセシングに関わる遺伝子の発現が減少していることも確認された。抗原提示の減少は、白血病細胞がCD19を発現し続けたとしても、追加の免疫標的を効果的に処理できない可能性を示している。

「次のステップは、白血病細胞の異なる亜集団を用いて、この臨床現象をマウスモデルで再現し、組合せ療法または代替療法でこの一次耐性を克服できるかどうかを検討することです」とMasih氏は述べている。

「この研究により、潜在的な臨床バイオマーカーを同定できただけでなく、これらのプロファイリング手法を患者の治療に役立てるための物流面での実現可能性を検証できました」とKhan医師は付け加えた。「この表現型をスクリーニングすることで、治療前に治療が効きにくい白血病患者を特定し、これらの患者の予後を改善するための代替療法を提供できる日が来ることを期待しています」。

この研究の限界は、サンプル数が少ないことである。

この研究の資金は、米国国立衛生研究所(NIH)の国立がん研究センター、シアトル小児研究所、Stand Up To Cancer、Strong Against Cancer、Alex’s Lemonade Stand、St. Baldrick’s Foundation、NIH Oxford-Cambridge 奨学生プログラムから提供された。Masih氏とKhan医師に開示すべき利益相反はないとされる。

******

【関連動画】NCIミニット:CAR-T細胞免疫療法が効かない白血病がAACRで発表/米国国立がん研究所(NCI)

翻訳担当者 伊藤彰

監修 佐々木裕哉(白血病/MDアンダーソンがんセンター)

原文を見る

原文掲載日 

【免責事項】
当サイトの記事は情報提供を目的として掲載しています。
翻訳内容や治療を特定の人に推奨または保証するものではありません。
ボランティア翻訳ならびに自動翻訳による誤訳により発生した結果について一切責任はとれません。
ご自身の疾患に適用されるかどうかは必ず主治医にご相談ください。

白血病に関連する記事

レブメニブが進行した急性骨髄性白血病の治療に有望の画像

レブメニブが進行した急性骨髄性白血病の治療に有望

米国国立がん研究所(NCI) がん研究ブログ治療が最も困難な白血病の一つである急性骨髄性白血病(AML)に対し、新たな種類の標的治療が有望視されている。レブメニブという薬剤はメニン阻害...
FDAが造血器腫瘍における好中球回復期間の短縮と感染症の低減にomidubicelを承認の画像

FDAが造血器腫瘍における好中球回復期間の短縮と感染症の低減にomidubicelを承認

米国食品医薬品局(FDA)2023年4月17日、米国食品医薬品局(FDA)は、骨髄破壊的前処置後に臍帯血移植が予定されている造血器腫瘍の成人および小児患者(12歳以上)に対して、好中球...
急性白血病患者における新規薬剤耐性の原因を解明の画像

急性白血病患者における新規薬剤耐性の原因を解明

ダナファーバーがん研究所新たな標的薬剤により、一般的な白血病の患者が寛解に至るだけでなく、がん細胞が薬剤に抵抗を示す仕組みの一つを明かすよう誘導されることをダナファーバーがん研究所と他...
ポナチニブは新たに診断されたPh+白血病(ALL)に対してイマチニブより有効の画像

ポナチニブは新たに診断されたPh+白血病(ALL)に対してイマチニブより有効

ASCOエキスパートの見解「今回の結果は、これまで予後不良とされてきた、悪性度の高い急性白血病であるPh+ALL(フィラデルフィア染色体陽性急性リンパ性白血病)に対して、ポナチニブ+化...