UBTFタンデム重複は、小児白血病(AML)の新たな分類型を定義する可能性

小児急性骨髄性白血病(AML)の再発例の9%において、本疾患の新たな分類型であるとみられる新変異が確認されたことが、米国がん学会誌「Blood Cancer Discovery」に発表された。

この変異は、UBTFという遺伝子のエクソン13のタンデム重複(DNA配列の隣接する一連の繰り返し)であり、これは通常、細胞のタンパク質翻訳装置の発現を促進する。この変異は再発AMLの検体で特定されたが、多くの場合、この変異は初発時の検体にも存在し、他のサブタイプを定義するAMLの変異と相互排他的であることがわかった。

本研究の共同上席著者であり、聖ジュード小児研究病院の血液病理学・分子病理学部長であるJeffery Klco医学博士は、「AMLの子供が一度再発すると、長期生存の可能性はまさに急降下します」と話した。「診断時にUBTFタンデム重複をもつAMLであることを認識することは、その白血病患児は再発のリスクが高く、より積極的な治療が必要な可能性があるということを意味します」。

AMLは比較的まれな血液腫瘍であり、子供も成人も罹患する。医師が患者のリスクを層別化し、治療方針の決定に役立てられるようなAMLドライバー変異はいくつか同定されているが、この研究の多くは初発AMLを対象に行われたものである。Klco博士らは再発AML症例を調査し、再発を引き起こす可能性のある変異を特定しようと考えた。

「当初は再発症例にみられる変異が、既知の初診時の変異とどのように異なるかを理解しようという単純な目標から始まりました」とKlco博士は語った。「これは小児AMLの領域では広く行われていなかったことです」。

Klco博士らは再発AMLの136検体のコホートに対して、全ゲノムシーケンス、全エクソームシーケンス、ターゲットキャプチャーシーケンス、RNAシーケンスを実施した。彼らはKMT2AやNUP98の融合など、AMLの既知のドライバーに加え、再発例において頻度の上昇するいくつかの稀な変異を同定した。なかでも、骨髄性腫瘍ではそれまで報告が少なく、また、患者の9%という比較的高い割合で認められたことから、研究者らはUBTFタンデム重複に特に関心をもった。

本研究の共同著者であり、聖ジュード小児研究病院の助教であるXiaotu Ma博士は、「古典的ながんのドライバー遺伝子には、変異のホットスポットを有するものが多くあります」と話した。「私たちが観察した重複は、高い再現性を持ってUBTFのほぼ同じ部位に存在するため、何らかの機能性があるはずだと考えました」。

さらに417例の転写データを用いて調べたところ、UBTFタンデム重複は、AMLの一般的または希少なサブタイプを規定する変異と同時に発見されることはなかった。一方、このような変異は、FLT3とWT1というAMLでよくみられる2つの遺伝子変異とは頻繁に共存する。この2つの遺伝子変異(FLT3、WT1)は、サブタイプを規定するドライバーがない場合にみられることもあるが、それ自体が腫瘍化のドライバーとは考えられていない。UBTFタンデム重複は、WT1およびFLT3に変異があるが、その他のドライバー変異が確認されていないすべての検体で認められた。

これらのデータは、UBTFタンデム重複が上記のような場合のドライバーとなる事象である可能性を示唆した。もしそうであれば、重複が腫瘍発生の初期に存在しているはずであり、したがって、初発時の腫瘍において観察されるはずである。そこで研究者らは、拡大コホートにおいて初発と再発の検体がそろい、再発検体にUBTF重複を有する4例の患者を特定した。この4例すべてにおいてUBTFタンデム重複は初発時の検体に存在していた。

「小児AMLでFLT3やWT1の変異しかみつからないとは、我々は何かを見逃しているのではと思いました」とKlco博士は言った。「UBTFタンデム重複がそれだと思うのです」。

「これが機能的なドライバーであることを証明するには、確かに時間がかかります。しかし、われわれはこの推察が正しいと思っています」とMa博士は付け加えた。

上記が証明されるまでの間であっても、Klco氏とMa氏は、UBTFタンデム重複はリスク層別化に有用であると考えている。COG AAML1031試験のデータから、UBTFタンデム重複を有する患者は、5年全生存率が20%低く、5年無イベント生存率が15%低く、治療後に微小残存病変が陽性となる可能性が高いことが示された。これらの特徴は、FLT3およびWT1変異との併発とは無関係であった。

「UBTFタンデム重複が本当にAMLのドライバーであることを証明できれば、このサブタイプのAMLに有効な標的治療を特定する道が開かれるでしょう」とKlco博士は語った。

マサチューセッツ総合病院の病理学者である Robert Hasserjian医師 と Valentina Nardi医師は、本研究と同時に発表した Spotlight コメンタリーで、これまで分類に迷った AML の一部の症例の分類を明らかにする可能性を要約した。「本研究は、これまでドライバーが特定できない「ブラックボックス」型のAMLに隠れていた独自の生物学的特徴と予後不良の新規遺伝子サブタイプを明らかにし、AMLに対する我々の理解を促進するものです。本研究から、より効果的に病気を根絶する可能性があると同時に、忍容不良の過剰な積極的治療による好ましくない影響を回避できるような、個々の患者により適応させた治療が可能となるでしょう」。

この研究の限界は、UBTFタンデム重複を自動的に同定できる統合的な計算フレームワークがないため、UBTF変異を有する検体の割合が過小評価される可能性があることと、配列決定に利用できる小児AMLの検体数が比較的少ないことである。

本研究の資金は、聖ジュード小児研究病院のAmerican Lebanese Syrian Associated Charities、米国国立衛生研究所、Fund for Innovation in Cancer Informatics、St. Baldrick’s Consortium Grant、 Target Pediatric AML、Leukemia and Lymphoma Society、Andrew McDonough B+財団、Hyundai Hope on Wheels、Project Stellaから提供された。著者らは利益相反がないことを宣言している。

本研究の「Spotlight」の解説は閲覧可能である。

翻訳担当者 大澤朋子

監修 吉原哲(血液内科・細胞治療/兵庫医科大学)

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