困難な急性骨髄性白血病にベネトクラクス併用療法が有効との3つのASH発表

米国血液学会(ASH)の会議で発表された研究結果はAML患者の予後改善を強調

アブストラクトNo.691、371、794

ベネトクラクス(販売名:ベネクレクスタ)と別の療法を含む併用療法により、特定の変異を有する再発または難治性の急性骨髄性白血病(AML)、高リスクAML、治療済みの二次AMLを含む、特に治療が困難なAMLに対し有望な結果を得た。テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの研究者らは、2021年米国血液学会(ASH)年次総会でAMLのベネトクラクス併用療法を含む数々の研究を発表した。

AMLは、骨髄幹細胞により成熟した健康な細胞ではなく未熟な血液細胞が産生される白血病の一種であり、貧血や出血と感染症のリスクを引き起こす。AML患者の大半は標準治療では治癒しないため、研究者らはより効果的で新しい治療法に対する満たされていないニーズに応える取り組みを行っている。

■ベネトクラクスとギルテリチニブとの併用で再発や難治性のFLT3変異AMLにFLT3変異の分子の除去が見られる(アブストラクトNo.691)

再発/難治性FLT3変異型(FLT3+)AMLは一般的にベネトクラクスに耐性があり、FLT3阻害剤の単剤で治療を行うと効果持続期間が短くなる。白血病(Leukemia)科の准教授Naval Daver医師が発表する多施設共同研究にベネトクラクスとFLT3チロシンキナーゼ阻害剤のギルテリチニブ(販売名:ゾスパタ)を併用投与されたR/R FLT3+AML患者54人が参加した。この併用療法は、試験参加者の80%に発生した頻繁ではあるが管理可能な血球減少を除き、安全かつ忍容性が高く、FLT3+患者74.5%が期待の持てる複合完全寛解率を達成した。さらに、この併用療法により治療に反応した患者の半数以上(56.7%)にFLT変異の除去が見られたため、生存期間の延長に貢献する可能性がある。

「本試験は、ベネトクラクスとギルテリチニブが再発や難治性のFLT3+AML患者にとって有効かつ安全な治療選択肢となり得ることを示す有望なエビデンスです」とDaver医師は語る。「今後、高齢AML患者や不適格AML患者のアザシチジンとベネトクラクス+ギルテリチニブとのフロントライン併用療法の開発を含め、より多くの患者に投与できるよう試験を拡大する予定です」。

この研究は、アステラス製薬、AbbVie社、Genentech社より資金提供を受けて実施された。Daver医師は研究支援を受けており、アステラス製薬、AbbVie社、Genentech社のコンサルタントや顧問を務めている。共同研究者の全リストと開示はアブストラクト(原文)に記載。

■アザシチジンにベネトクラクスとマグロリマブを併用すると高齢や不適格または高リスクAMLと新たに診断された患者において高い寛解率を示す(アブストラクトNo.371)

ベネトクラクスとアザシチジン(販売名:ビダーザ)の併用療法を受けるAML患者はフロントラインで高い寛解率を得るが、最終的には再発する傾向があり、再発/難治性AMLの生存率は非常に低い。Daver医師が発表した別の研究でマクロファージの「私を食べないで(don’t eat me)」シグナルを遮断する抗CD47抗体であるマグロリマブを併用療法に追加する治療を研究した。現在進行中の第2相試験に、新たにAMLと診断された患者、ベネトクラクス治療歴のない再発/難治性AML患者およびベネトクラクス治療後に再発/難治性AMLとなった患者から成る様々なタイプのAML患者48人が参加した。

新たに診断された患者の完全寛解率と血液学的完全寛解(CR/Cri)率は、TP53変異を有するフロントライン患者の完全寛解率64%を含み、それぞれ64%と76%であった。再発/難治性でもベネトクラクス治療を受けていないAML患者のCR/CRi率は63%、ベネトクラクス治療後に再発/難治性AMLとなった患者は27%であった。1回目と2回目の投与以降に起きる貧血は試験参加者によく見られる副作用だが、管理可能であり、ベネトクラクス、アザシチジン、マグロリマブの併用は、新たにAMLと診断された高齢患者や集中化学療法に適さない患者に特に有効であることが明らかになった。(*監訳者注:Criとは、骨髄は完全寛解でも血液細胞の回復が不完全な状態を意味します)

「新たに診断された患者、特にTP53遺伝子変異を有するような高リスクの患者に見られた高い完全寛解率は、特に励みになります」とDaver医師は語る。「既存のベネトクラクスとアザシチジンの併用療法にマグロリマブを追加する療法は、新たにAMLと診断された高齢患者や不適格患者を対象としたランダム化多国籍第3相試験で評価します」。

本研究はGilead社およびGenentech社より資金提供を受けて実施された。Daver医師は研究支援を受けており、Genentech社のコンサルタントや顧問を務めている。共同研究者の全リストと開示はアブストラクト(原文)に記載。

■ 治療歴のある二次AMLを用いたフロントライン療法のレトロスペクティブ分析(アブストラクトNo.794)

治療が困難なもう一つのAMLは治療歴のある二次AML(ts-AML)である。これは、骨髄異形成症候群(MDS)など前駆段階の血液疾患の治療後に発症するAMLである。ts-AMLは治療に反応する傾向が見られず、早期に再発するリスクが高いため、予後不良の疾患である。承認された治療法があるが、過去に脱メチル化薬(HMA)による治療を受けた患者の転帰は改善しない。HMA曝露歴のあるts-AML患者562人を対象としたレトロスペクティブ分析で、治療の種類(集中化学療法[IC]、低強度化学療法[LIC]、HMA+ベネトクラクス)別に寛解率を調査した。

白血病(Leukemia)科のフェロー、Sangeetha Venugopal医師が発表したこの分析で、HMAとベネトクラクスの併用療法は、集中化学療法や低強度化学療法と比較して寛解率が高く、生存期間も延長することが明らかになった。集中化学療法と低強度化学療法の完全寛解率(集中化学療法と低強度化学療法がそれぞれ24%と26%)と全生存期間(1年生存率:集中化学療法と低強度化学療法がそれぞれ14%と22%)が同等であった一方、ベネトクラクスを追加するのみで完全寛解(39%)と全生存期間(1年生存率:35%)は高かった。HMAとベネトクラクスの併用療法がHMA暴露歴のあるts-AML患者を治療する最良の選択肢となる可能性をこれらの結果は示唆している。

「HMAとベネトクラクス併用療法と寛解率が関連していることは、この併用療法が治療歴のある二次AMLの代表的な化学療法をベースにした治療法よりも望ましい可能性のあることを示唆しています」とVenugopal医師は語る。「しかし、治療歴のある二次AMLの予後は悪く、このような高リスク患者サブセットに対する有効な治療選択肢は緊急の満たされないニーズです」。

共同研究者の全リストと開示はアブストラクト(原文)に記載。

翻訳担当者 松長愛美

監修 北尾章人(腫瘍・血液内科/神戸大学大学院 医学研究科)

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