米国初の遺伝子治療(CAR-T療法)薬tisagenlecleucelをFDAが承認

FDAニュースリリース

B細胞性急性リンパ芽球性白血病の小児および若年成人に対してCAR-T療法を承認

米国食品医薬品局(FDA)は2017年8月30日、米国で初めて遺伝子治療を承認するという歴史的な発表を行った。がんや、その他の重篤で生命を脅かす疾患に対する新たなアプローチの導入となる。

FDAが承認したのはtisagenlecleucel(商品名:Kymriah)で、特定の急性リンパ芽球性白血病(ALL)を有する小児および若年成人患者が対象となる。

「致死性のがんを攻撃するために、患者自身の細胞を再プログラムする能力とともに、医療革新の新たなフロンティアに突入したのです」と、FDA長官のScott Gottlieb医師は述べた。「多くの難治性の疾患を治療し、さらには根治させる能力において、遺伝子や細胞療法といった新たな技術は、医学を大きく変換させ、変曲点を作り出す可能性をもたらします。FDAでは、生命を救う可能性のある画期的な治療法の開発と再調査を促進すべく取り組んでいます」。

細胞を用いる遺伝子治療であるtisagenlecleucelは、難治性または2回以上再発した前駆B細胞性ALLの25歳までの患者の治療薬として米国で承認された。

Tisagenlecleucelは、遺伝子組み換えによる自己T細胞免疫療法である。それぞれのtisagenlecleucelは、患者自身の白血球の一種でリンパ球として知られるT細胞を用いて作られた、オーダーメイド治療薬である。採取された患者のT細胞は製造センターに送られ、特異的タンパク質(キメラ抗原受容体またはCAR)を発現させる新しい遺伝子を含むように遺伝子操作が行われる。T細胞は、遺伝子を改変することで、表面に特異的抗原(CD19)を持つ白血病細胞を標的にして死滅させるようになる。遺伝子改変後のT細胞は、がん細胞を殺傷させるために、再び患者の体内に注入される。

ALLは、骨髄および血液のがんであり、体内で異常なリンパ球を産生する。この病気は急速に進行し、米国で最も一般的な小児がんである。国立がん研究所(NCI)の推計では、毎年、20歳以下の約3,100人の患者がALLの診断を受けている。ALLは、T細胞またはB細胞のいずれかの由来で、B細胞が最も一般的である。Tisagenlecleucelは、B細胞ALLを有する小児および若年成人患者での使用が承認されており、治療抵抗性、または初回治療後に再発した患者が対象となる。対象者は、患者の15%~20%と推定される。

「Tisagenlecleucelは、これまで対処法がなかった、この深刻な疾患を持つ子供や若者のニーズに応える初の治療法です」と、FDAの生物製剤評価研究センター(CBER)ディレクターのPeter Marks医師は述べた。「Tisagenlecleucelは、非常に限られた選択肢しかない患者に新たな治療選択肢を与えるだけでなく、臨床試験で有望な寛解率および生存率を示しています」。

Tisagenlecleucelの安全性および有効性は、再発性または難治性の前駆B細胞性ALLの小児および若年成人患者63人を登録した多施設臨床試験で実証された。治療3カ月以内の全寛解率は83%であった。

Tisagenlecleucelを使った治療は、重度の副作用を引き起こす可能性がある。CAR-T細胞の活性化および増殖に対する全身性反応として、高熱やインフルエンザ様症状を起こすサイトカイン放出症候群(CRS)および神経学的異常に対する枠囲み警告がついている。CRSも神経学的異常も、生命を脅かす可能性がある。Tisagenlecleucelのその他の重度の副作用には、重篤な感染症、低血圧、急性腎障害、発熱、および低酸素が含まれる。ほとんどの症状は、tisagenlecleucelの注入後1〜22日以内に現れる。CD19抗原は正常なB細胞にも存在し、またtisagenlecleucelは抗体を産生する正常なB細胞も破壊するので、長期間にわたり感染症リスクが増加する可能性がある。

FDAはさらに同日、2歳以上の患者に対し、CAR-T細胞が誘発する重篤、または生命を脅かすCRSを治療するためにトシリズマブ(商品名:アクテムラ)の承認を拡大した。CAR-T細胞による治療を受けた患者の臨床試験では、トシリズマブを1回または2回投与した2週間以内に、69%の患者のCRSが完全に消失した。

Tisagenlecleucelの承認にあたっては、CRSや神経学的異常を生じるリスクがあるため、安全な使用を保証する要素を含むリスク評価と緩和戦略(REMS)が課されている。FDAは、tisagenlecleucelを扱う病院および診療所には、特別な認定を受けることを義務付けている。認定の一環として、tisagenlecleucelの処方、調剤、投薬に携わるスタッフは、CRSおよび神経学的異常を認識し、管理できるような訓練を受ける必要がある。さらに認定医療機関では、トシリズマブが即時に投与可能であることを確認した後でのみ、tisagenlecleucelを投与できるというプロトコルを定める必要がある。REMSプログラムでは、tisagenlecleucel注入後のCRSおよび神経毒性の徴候や症状を患者に説明すること、また患者が治療後に発熱または他の有害反応を起こした場合、速やかに治療を受けた医療機関に戻ることの重要性を規定している。

長期的な安全性をさらに評価するために、ノバルティス社にも、tisagenlecleucelで治療した患者を対象に、市販後の観察研究の実施が義務付けられている。

FDAはtisagenlecleucelの承認において、優先審査および画期的治療薬の指定を行った。Tisagenlecleucelの承認は、複数の部門による連携アプローチでレビューされた。臨床レビューは、FDAのOncology Center of Excellence室が連絡調整する一方で、CBERがレビューにかかわる、それ以外の部分を全て実施し、最終製品承認決定を下した。

FDAはノバルティスファーマ社に対し、Kymriah(tisagenlecleucel)を承認した。またGenentech社に対し、アクテムラ(トシリズマブ)の承認を拡大した。

参考:FDA Approved Products KYMRIAH (tisagenlecleucel)

翻訳担当者 片瀬ケイ

監修 野﨑健司(血液・腫瘍内科/大阪大学大学院医学系研究科 )

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