ブリナツモマブは進行期白血病(ALL)の乳児の生存率を改善
米国国立がん研究所(NCI) がん研究ブログ
化学療法にブリナツモマブ(販売名:Blincyto[ビーリンサイト])を追加することで、より多くの急性リンパ性白血病(ALL)の乳児が生存できる可能性があることが、小規模な国際臨床試験の結果で示された。
第2相試験に参加した30人の乳児はすべて、ALL乳児の約80%にみられるKMT2A遺伝子の特定の変化を原因とするALLであった。
全体として、初回治療として併用療法を受けた試験対象の乳児の90%以上が、2年後も生存した。この生存率は、過去の研究の化学療法単独による生存率を大きく上回る。
この結果は、4月27日にNew England Journal of Medicine誌に掲載された。
研究チームによると、KMT2A再構成と呼ばれる変化が原因であるALLの乳児に対するより効果的な治療が必要とされているが、本試験はその重要なニーズに応えるものである。このタイプのALLは、あらゆる年齢層において急速に進行し、特に乳児では予後不良につながる。例えば、歴史的に見ても、KMT2A再構成陽性ALLの乳児で診断から5年後に無病生存できる患者の割合は約40%に過ぎない。
臨床試験責任医師のInge van der Sluis医学博士(オランダ、ユトレヒトにあるプリンセス・マキシマ小児腫瘍センターの小児腫瘍医で臨床薬理学者)は、「KMT2A再構成陽性ALL患者では、予後の改善が切実に望まれています」と述べている。
より高用量の化学療法が試みられてきたが、「KMT2A再構成陽性ALLの乳児の予後は、ここ数十年改善されていません」とvan der Sluis氏は続けた。
今回の結果は、これらの乳児にとって「無病生存率の劇的な改善」であると述べたのは、NCIがん治療評価プログラムのMalcolm Smith医学博士である。Smith氏は本研究には参加していない。
この結果をより大規模な試験で確認できれば、「KMT2A再構成陽性ALLの乳児にとって大きな前進となり、新たな標準治療になるでしょう」と続けた。
予後不良に待望の改善
二重特異性T細胞誘導(BiTE)と呼ばれる免疫療法薬の一種であるブリナツモマブは、「一方では白血病細胞に、もう一方では免疫細胞に結合する」ように特別に設計された抗体であるとvan der Sluis氏は説明する。「これにより、免疫細胞と白血病細胞が結びつき、免疫システムが白血病細胞を殺すのです」。
2017年、米国食品医薬品局(FDA)は、治療を1サイクル以上受けた後にALLが再発した小児および成人の治療薬としてブリナツモマブを承認した。その後の臨床試験で、ブリナツモマブは、化学療法を単独で行った場合と比較して、寛解状態の小児ALL患者の割合を大幅に増加させ、かつ副作用も少ないことが示された。
小児および成人におけるブリナツモマブの安全性と有効性を踏まえ、KMT2A再構成陽性ALLの乳児を対象に試験を行うことをvan der Sluis氏は強く望んでいた。ブリナツモマブの製造元であるAmgen社から一部資金提供を受けたこの国際臨床試験には、KMT2A再構成陽性ALLと新たに診断された1歳未満の患者30人が参加した。
患者は、Interfant-06プロトコルと呼ばれる標準化学療法レジメンによる治療を受けた。1カ月の化学療法の後、すべての乳児が、4週間の持続点滴静注によるブリナツモマブ治療を1サイクル受けた。ブリナツモマブの投与後、必要に応じて標準化学療法が継続された。
標準化学療法レジメンに28日間のブリナツモマブ治療を加えることで、過去の試験と比べて全生存率が劇的に改善した。
例えば、中央値2年の追跡調査後の全生存率は、このグループでは93%であったのに対し、化学療法を単独で行った過去の試験では66%であった。また、ブリナツモマブを投与された患者の約82%は、その間、疾患が再発することなく生存(無病生存)したのに対し、過去の試験ではわずか49%であった。
これは「驚くべき予後の改善です」と述べたのは、本試験の臨床試験責任医師であるプリンセス・マキシマ小児腫瘍センターのRob Pieters医学博士である。「非常に急速に進行するこの種の白血病では、再発の大部分が最初の2年間に起こるため、30人の乳児を対象とした、このパイロット試験のデータは非常に期待が持てます」と付け加えた。
研究者らによると、乳児におけるブリナツモマブ治療の副作用は年長患者でみられたものと同様であり、発熱、感染症、高血圧、嘔吐などであったと述べている。特に多くみられた重篤な副作用は赤血球の減少で、5人(17%)の乳児にみられた。なお、副作用が原因で治療を中止した患者はいなかった。
より大規模な試験とより長期の追跡調査が必要
患者の長期的な追跡調査が待たれると研究著者らは指摘する。さらに、プリンセス・マキシマ小児腫瘍センターは、KMT2A再構成陽性白血病と新たに診断された乳児160人を対象としたより大規模な試験「Interfant-21」を支援している。試験はこのほど開始され、世界27カ国で展開される予定である。
ブリナツモマブの最も効果的な投与方法については、依然として疑問が残るとSmith氏は述べた。今回の試験では、乳児はブリナツモマブを1サイクルしか投与されなかった。
「2サイクルまたは3サイクルがより効果的である可能性がある」とSmith氏は考える。注目すべきは、Interfant-21試験では、ほとんどの患者で、追加の化学療法が2サイクル目のブリナツモマブに置き換えられることである。
標的治療薬の効果を引き出し、長期的副作用を軽減する
がん細胞を特異的に標的とするブリナツモマブは、ALL乳児の治療で通常行われる強力な化学療法よりも毒性が少ない。これはブリナツモマブの重要な利点であるとSmith氏は指摘する。
「化学療法を免疫療法に置き換えることで、副作用の少ない、より効果的な治療が可能になると期待しています」とvan der Sluis氏は述べた。
Pieters氏もこれに同意する。「目的は、生存率を改善し、強力な治療の毒性を軽減することです」と述べた。
- 監訳 吉原 哲(血液内科・細胞治療/兵庫医科大学)
- 翻訳担当者 工藤章子
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- 原文掲載日 2023年6月8日
【この翻訳は、米国国立がん研究所 (NCI) が正式に認めたものではなく、またNCI は翻訳に対していかなる承認も行いません。“The National Cancer Institute (NCI) does not endorse this translation and no endorsement by NCI should be inferred.”】
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