レブメニブが進行した急性骨髄性白血病の治療に有望

米国国立がん研究所(NCI) がん研究ブログ

治療が最も困難な白血病の一つである急性骨髄性白血病(AML)に対し、新たな種類の標的治療が有望視されている。レブメニブという薬剤はメニン阻害剤と呼ばれる薬剤グループ(分類)の一部である。

AUGMENT-101と呼ばれる初期段階の臨床試験で、レブメニブを使用した治療により試験参加者の約3分の1のがんが完全に消失し、完全寛解と呼ばれる状態に至った。参加者は全員、その他多くの治療(一部の患者では幹細胞移植)を含むを過去に受けていた。

本試験はレブメニブと他の薬剤を直接比較したものではないが、歴史的に見て、「これほど多くの治療法で患者のがんが進行すると、(現在)存在する他のどんな治療法であっても反応する可能性は10%未満です」と本試験の指揮を支援したテキサス大学MDアンダーソンがんセンターのGhayas Issa医師は語る。

レブメニブはタンパク質であるMLL1およびメニンとの相互作用を阻止する。このようなたんぱく質の複合体を形成させないということは、この複合体が白血病細胞の形成を促進する特定の遺伝子を活性化できないことを意味する。

3月15日にNature誌に掲載された本試験の最新データによると、参加者の1人は治療開始後16カ月以上経っても依然として寛解状態にあり、その他の寛解状態の12人が幹細胞移植を受けるに至った。このうち9人が、最後に解析した時点で寛解状態を維持していたとIssa医師らは報告している。
 
現在の標準治療では、寛解を達成し、移植を受けられるほど健康な状態を維持できる再発白血病の患者はほとんどいないと本試験の指揮を支援したスローンケタリング記念がんセンターのEytan Stein医師は語る。
 
他のいくつかのメニン阻害剤も初期段階の臨床試験で評価中であると本試験不参加のロズウェル・パーク総合がんセンターのEunice Wang医師は語る。「これは(AMLを治療する)新種の薬剤の第一歩となる可能性があり、非常に期待しています」とWang医師は加えた。

白血病のエンジンをかける鍵を取り外す

イボシデニブ(Tibsovo)やミドスタウリン(Rydapt)など新たに開発された治療薬の多くは、一部のAMLを促進すると思われる遺伝子変化を標的としている。しかし、これらの薬剤に対する耐性は比較的早く現れる傾向がある。また、これらの薬剤が標的とする遺伝子変化はいずれも患者のごく少数にしかみられない。

 「急性骨髄性白血病の約50%から60%にこれらの変異はなく、その結果、(治療には)毒性のある化学療法しか残らないのです」とWang医師は語る。
 
しかし、AMLの多くは、その他よくみられる2つの遺伝子変化であるKMT2A再配列とNPM1変異のうちの1つを有している。これらの変異は、血液細胞の退行、すなわち脱分化を引き起こし、血液細胞を生成する幹細胞のような働きをするようになる。その結果、機能的な血液細胞ではなく、白血病の細胞が形成される。

この2つの遺伝子変化に乗っ取られた細胞プログラムには、KMT2Aが作り出すMLL1と呼ばれるタンパク質に結合するメニンが必要である。これらのタンパク質により形成される複合体は次々にクロマチン(細胞の核内にあるDNAとタンパク質の密な集合体)に結合し、変化したKMT2AまたはNPM1によって引き起こされる異常な伝達経路のスイッチが入る。
 
レブメニブやその他メニン阻害剤は、これまでAMLに使用されてきた他の標的治療とは異なる働きをする。メニン阻害剤は、機能不全に陥ったタンパク質の活性を阻害するのではなく、第一に、変化したKMT2AやNPM1によって影響を受ける遺伝子の発現を阻止する。
 
Issa医師は、メニン‐MLL1複合体を白血病細胞生成のエンジンをかける鍵だと表現している。
 
そして、メニンへの結合により「(レブメニブは)鍵とエンジンの間にくさびを作り」、メニンがMLL1に結合するのを防止するとIssa医師は解説する。メニン‐MLL1複合体のクロマチンへの結合ができなくなると、正常に機能しない幹細胞のような働きをした細胞は、正常な細胞に戻るか(分化と呼ばれるプロセス)、死滅するかのいずれかである。
 
レブメニブに期待が高まる理由は、メニン阻害が機能する新たな仕組みだけでなく、メニンに依存する発がん遺伝子変異がAMLに非常に多くみられる点だとStein医師は語る。
 
「メニン阻害は、急性骨髄性白血病の40%から50%に関与している可能性があります」と言う。

血液細胞の働きを後押しする

第1相AUGMENT-101試験(レブメニブの製造元であるSyndax Pharmaceuticals社が資金提供)は、この新薬をヒトに対して試験した最初の試験であった。この試験は、薬剤の安全性を検証し、将来の大規模試験のための最適な用量を割り出すことを目的としている。

合計で成人60人、小児8人の白血病患者(多くはAML)が本試験に参加した。参加者は中央値で4回の前治療を受けており、ほぼ半数がすでに幹細胞移植を受けていた。

試験参加者は、白血病が再び増殖し始めるか、許容できない副作用が現れるまで、レブメニブを錠剤か、錠剤を服用できない場合は液剤で1日2回、用量を漸増して投与された[枠内参照]。

最大耐用量を求める
本試験は第1相臨床試験であるため、研究者らはより大規模な試験で使用するための薬剤の最適用量を決定しようとした。そのために、最初の少人数グループは特定の用量を服用し、重篤な副作用が発生しなければ、次のグループがより高い用量を服用した。この過程を、許容できない副作用に至る用量(最大耐用量)が明らかになるまで続けた。

全体として、KMT2A再配列またはNPM1変異を有する60人中18人の患者が、健康な血液細胞の数が完全にまたは部分的に回復する完全寛解となり、中央値9カ月間持続した。
 
このうち12人は、寛解後に幹細胞移植を受けた。
 
「(再発AMLの)ほぼすべての患者は標準的な化学療法で寛解に至りませんが、移植を成功させるには患者が寛解状態にあることが必要です」とStein医師は語る。

 本試験でみられた副作用のうち、今後の研究のために最大耐用量の決定に役立ったのは、QT間隔延長と呼ばれる心臓の電気活動に関する問題であった。それ以外で、治療中にみられた重大な副作用として白血球と赤血球の数の減少があった。副作用のためレブメニブの服用を永久に中止しなければならなかった参加者はおらず、本薬剤が原因で死亡した人もいなかった。
 
一部の白血病治療では、危険を伴う可能性のある分化症候群という副作用がある。この副作用の原因は、白血病細胞が正常な細胞に戻り始めた際に引き起こされる免疫系の反応である。患者11人に分化症候群が発症したが、いずれも重症ではなく、抗炎症治療によりすべて消失した。
 
治療中、臨床試験医師は参加者から採取した骨髄細胞の遺伝子発現の変化を追跡調査した。予想していたとおり、白血病を促進する遺伝子の活性が少なく、健康な血液細胞の分化に関連する遺伝子の活性が高いことが確認された。

治療抵抗性をリアルタイムで追跡

AUGMENT-101試験の参加者の中には、がんがレブメニブに対する耐性を急速に獲得する人もいた。Nature誌の同号に掲載されたコンパニオン試験で、スローンケタリング記念がんセンターのSheng Cai医学博士、Ross Levine医師、ダナファーバーがん研究所のScott Armstrong医学博士が率いるチームが、白血病細胞内のどのような変化によってこのような耐性が働くのかを正確に突き止めた。
 
本試験の一環として、レブメニブとメニン‐MLLのタンパク質複合体の物理的相互作用を観察するためのX線結晶構造解析や、全ゲノム配列解析など、複数の方法を用いた。
 
当初、AMLがメニンに反応したが、その後、再び増殖を始めた患者の中には、メニンをコード化するMEN1遺伝子に新たな変化がみられた人もいた。これら希少または新たな変異の選択は、治療開始後2カ月という早い時期に発生した。このようなMEN1の新たな変化を持つ細胞は、レブメニブがなければ実際に生存および増殖する可能性が低いことを研究者らは追跡臨床実験で確認した。
 
しかし、レブメニブが追加されると即座に変化した。MEN1の変化により、レブメニブがメニンのMLL1への結合を阻害することができなくなった。「白血病遺伝子のスイッチが入り続け、それが耐性の基礎になります」とCai博士は語る。
 
耐性の獲得は課題であるが、このような種類のAMLに対するメニンの重要性も確認されたとCai博士は付け加えた。「(白血病細胞が)本薬剤から逃れるために突然変異を起こさなければならないということは、この種の白血病のアキレス腱を突き止めつつあるということなのです」とCai博士は語る。

併用療法でメニンをいち早く阻害

第一世代のメニン阻害剤は初期の試験で有望視されている。しかし、Cai博士のチームが収集した構造情報が将来の薬剤開発に役立つことをCai博士は期待している。「薬剤がタンパク質と相互作用する方法を確認することで、他の方法で作用する新たなメニン阻害剤を戦略的に設計できるかもしれないという視点が得られるのです」とCai博士は語る。
 
レブメニブは現在、このような特定の遺伝子変化を有する進行AMLの人々の治療に対するFDA承認を目指して第2相試験が行われているとStein医師は語る。「そして、現在も併用療法を検討する研究を続けています」とStein医師は付け加えた。例えば、Stein医師のチームは現在、レブメニブにAMLに対して有望視されている別の標的治療薬であるベネトクラックス(Venclexta)を併用する療法を試験中である。
 
その他で可能性のある戦略として、メニン阻害剤と標準的な化学療法との併用もあるとWang医師は語る。「この場合、他のメカニズムで耐性がつきつつある、これらの(細胞の)いくつかを死滅できる可能性があります」とWang医師は語る。現在進行中の第1相AUGMENT-102試験は、白血病が再発した人または少なくとも2回の前治療に反応しなかった人を対象にこの種の併用療法を検証する試験である。
 
メニン阻害剤を含む治療の併用は、白血病と診断された直後が最も効果的な可能性があるとWang医師は付け加えた。
 
「(メニン阻害剤の)真の効果を得るためには、治癒の可能性が最も高い治療初期にメニン阻害剤を使用する必要があるかもしれません」とWang医師は語る。

  • 監訳 佐々木裕哉(血液内科/筑波大学血液内科)
  • 翻訳担当者 松長愛美
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  • 原文掲載日 2023年4月18日

【この翻訳は、米国国立がん研究所 (NCI) が正式に認めたものではなく、またNCI は翻訳に対していかなる承認も行いません。“The National Cancer Institute (NCI) does not endorse this translation and no endorsement by NCI should be inferred.”】"

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