2007/01/09号◆癌研究ハイライト「網膜芽腫で軟部肉腫リスク」「HER2検査ガイドライン」「ヒ素が白血病細胞を障害」他

同号原文

米国国立がん研究所(NCI) キャンサーブレティン2007年01月09日号(Volume 4 / Number 2)
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癌研究ハイライト

網膜芽腫の生存者で軟部肉腫のリスクが増加

RB1遺伝子の生殖細胞系突然変異により引き起こされる、極めて稀な小児癌の一種である遺伝型網膜芽腫の患者は、軟部肉腫に罹患するリスクが有意に増加する。NCIの Division of Cancer Epidemiology and Genetics(DCEG)(癌疫学および遺伝学部門)の研究者らが、このような患者において初めて、軟部肉腫の個々の組織学的サブタイプに関するリスクを推定した。試験結果は、Journal of the National Cancer Institute (JNCI)誌の1月3月号に発表された。

本試験では、1914年から1984年の間に遺伝型網膜芽腫であると診断され、最低1年以上生存した963人の患者を評価した。「今回の試験の患者たちは、他の大半の小児癌生存者のグループよりも長い間経過観察を受けたので、私たちは軟部肉腫の複数のサブタイプ、特に中年以降に発症するタイプについて、リスクを測定することができました。」と主執筆者であるRuth Kleinerman氏は述べた。

上記のような生存者は、平滑筋細胞の腫瘍である平滑筋肉腫のリスクが、全サブタイプの中で最も高く(一般と比べて最大400倍高い)、何十年もの間リスクは高いままであるということを、研究者らは見出した。全軟部肉腫のうち45%は、網膜芽腫の診断後30年以上経ってから診断された。

放射線治療が、本試験で評価された軟部肉腫の全サブタイプにおいて、リスクの増加と関連していた。

「遺伝型網膜芽腫患者は長期生存率が非常に高いため、このことを理解しておくことが重要です。」と主要著者でDCEGのディレクターであるJoseph F. Fraumeni, Jr.は述べた。しかし一方で、「本試験で観察されたリスクは、何十年も前に一般的に行われていた治療を反映したもので、そのような治療は近年行われていません。」と注意を促した。

遺伝型網膜芽腫生存者の調査を成人期を通して行うことが重要であり、長期毒性がより少なくなるように組み立てられた現行の治療法を評価する必要があることを、著者らは強調した。

肺癌の治療結果に関する分子的特徴の同定

肺癌患者の再発および生存期間短縮のリスク予測を、より信頼に足るものにするための分子的特徴の探索により、肺癌の更なる遺伝子発現プロファイルを得られたことが、近頃発表された2つの試験結果から分かった。この2種類の異なる遺伝子的特徴により、再発および生存期間短縮のリスクが高く、積極的な術後療法による効果が期待される初期の肺癌患者を特定できる可能性がある。

New England Journal of Medicine(NEJM)の1月4日号に発表された台湾で実施された試験において、ステージ1から3の非小細胞肺癌(NSCLC)治療のため手術を受けた患者125人から、16の遺伝子が同定された。国立台湾公衆衛生大学(National Taiwan University College of Public Health)のHsuan-Yu Chen医師が率いる研究者らによると、この16遺伝子のセットは更に、無再発率および全生存率と密接に関連する5つの遺伝子的特徴に絞られた。採点法を用いて、59人の高リスクおよび42人の低リスク患者の遺伝子的特徴が同定された。全生存率の中央値は、低リスク患者の40ヶ月に比べて、高リスク患者ではたった20ヶ月であった。5つの遺伝的特徴による予測の正確性は、その他のNSCLC患者のデータおよび既報のデータにより確認された。

Public Library of Science(PLoS)の医療ウェブサイトに発表された2つ目の試験では、ステージ1のNSCLC患者における7つの遺伝子プロファイル試験より得られたデータのメタアナリシスが用いられた。研究者らにより、高リスクおよび低リスクの患者を85%以上の正確さで特定できる64の遺伝子的特徴が同定された。

NEJMの記事に付随した論説の中で、M.D.アンダーソンの研究者であるRoy Herbst医師とScott Lippman医師が、今回の台湾の試験は「保存された組織および臨床カルテに基づいた肺癌ゲノミクスの第一段階が成熟したことを反映している。この分野は、今度は、Chen医師らの研究およびその他の研究により同定された分子的特徴から、再発や転移のリスクが高いことが分かった初期肺癌患者における術後補助化学療法の前方視的試験を行うという、次の段階へ進もうとしている。」とコメントした。

ASCO/CAPが乳癌のHER2検査に対するガイドラインを発表

米国臨床腫瘍学会(ASCO)および米国病理医協会(CAP)により召集された専門委員会が、乳癌患者の女性におけるヒト上皮成長因子2(HER2)の検査に対する新規の推奨ガイドラインを発表した。

HER2の状態が、予後、治療奏効率、治療法の選択と密接な関係にあることを、委員会はJournal of Clinical Oncology誌1月1日号の中で述べた。この中には、ランダム化臨床試験により、HER2を過剰発現している早期および転移性乳癌の女性における奏効率、無増悪期間、生存率を改善することが証明されたトラスツズマブ(ハーセプチン)による標的療法も含まれる。

しかし、かなりの割合でHER2検査の結果が間違っている可能性を示唆する知見が得られていることを、委員会は説明した。例えば、術後補助療法としてのトラスツズマブ使用について検討した2つの前方視的ランダム化臨床試験により、「この分野で実施されているHER2検査の20%が、同じ検体を大規模な中央研究所で再検査した際には、間違いであることが分かりました。非常に効果的であると同時に、死に至る可能性もあり、高価である治療法の使用を左右する重要な検査において、このように混乱した方法で、高率の誤差を出すことは受け入れられません。」と、委員会は強調した。

入手可能な文献の体系的で綿密な調査に基づいた今回の推奨は、HER2検査に対する最適なアルゴリズム、および検査の際に使用される2つの主要技術、蛍光in situハイブリデーション法(FISH)と免疫組織化学法(IHC)の必要性を明確にしている。また、最適な組織処理、内部バリデーション、品質保証過程、外部の能力評価、研究所の認定に関する推奨も盛り込まれた。

ヒ素治療が稀な白血病細胞を障害する機序が示される

ダートマス医学校の研究者らが行った新規の試験により、稀な型の骨髄球性白血病である急性前骨髄球性白血病(APL)に対するヒ素治療が、どのようにAPL細胞中のリソソームを不安定な状態にするのかが示された。ヒ素治療はまた、前骨髄球性白血病(PLM)タンパク質とレチノイド酸受容体α(RAR-α)の融合の結果としておこる発癌性タンパク質を分解し、APL細胞のアポトーシスを引き起こす可能性があるという試験結果が、JNCI誌の1月3日号に発表された。

Sutisak Kitareewan医師らは、3つのAPL細胞株を亜ヒ酸ナトリウムで処理し、リソソームの不安定化を誘導した。研究者らは、リソソーム・プロテアーゼであるカテプシンLの活性を検知、計測し、in vitroでの細胞溶解液中のPML/RAR-α分解試験を、プロテアーゼ阻害剤の存在下と非存在下で行った。

本試験により、ヒ素処理がAPL細胞中のリソソームを不安定化させることが分かった。これらのヒ素処理済みAPL細胞では、リソソームのカテプシンL活性が上昇し、処理済み細胞の溶解物は、PML/RAR-αの分解を誘導し、細胞死(アポトーシス)を引き起こした。

「リソソーム酵素のヒ素誘導放出の機序を解明し、非造血系腫瘍細胞やその他の造血系腫瘍細胞に対するヒ素治療も同様の機序で作用するのかどうかを究明するような更なる試験が必要である。」と研究者らは結論付けた。

翻訳担当者 Oonishi 、、 

監修 林 正樹(血液・腫瘍科)

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