進行卵巣がん治療薬ルカパリブは英国NHSで初回承認されず

卵巣がんの進行を遅らせる可能性のある分子標的薬は、英国医療サービス(NHS)で使用を認められなかった。

Rucaparib[ルカパリブ](Rubraca[ルブラカ])の仮決定を下すにあたり、英国国立医療技術評価機構(NICE)は生存における治療効果のエビデンス欠如を挙げた。

「NICEは本剤の長期的有用性に対し信頼に足るだけのエビデンスが十分でなく、本剤がもたらす有用性はコストに十分見合うとは言えないと思ったようです」とキャンサーリサーチUKの政策マネージャーであるRose Gray氏は述べた。

NICEは9月にその決定を見直すことになっている。その前に、本剤を患者に利用可能にする方法についてさらに検証を進めるようGray氏は要請している。

化学療法後の選択肢
ルカパリブは、DNAダメージの修復を助ける働きがあるPARPと呼ばれる分子の活性を阻害することによって、がんの細胞死を誘導する。

本剤は卵巣がんを有する成人患者の維持療法として用いられる見込みである。すでにプラチナベースの化学療法が奏効した患者に提供されるもので、追加治療が提案されるまでがん再発に対してなすすべがないという状況がなくなると思われる。

ルカパリブは、がんが再発するまでの期間を延長し、追加のプラチナベースの化学療法の必要性を遅らせるために用いられる。プラチナベースの化学療法に対して患者のがんに耐性が生じると治療選択肢はほとんどなくなるのだが、本剤の効果によって耐性を生じるリスクが軽減する可能性がある点が重要である。

進行卵巣がんと同様、今回の決定は卵管や胃(腹膜)を覆う組織層に生じる婦人科がんを有する一部の患者にも影響を及ぼす。

Gray氏が言うには、この決定はこれらのがん種患者を失望させることになるであろう。「臨床試験のエビデンスは、ルカパリブが、がんが悪化するまでの期間を延長し、追加治療の必要性を遅らせることを示唆しています」。

不確実性とコスト
臨床試験の結果によれば、ルカパリブによってがん進行までの期間が10.8カ月に延長したのに対し、標準治療では5.4カ月であった。

しかし、試験の長期的データがまだそろっていないため、患者がルカパリブ投与後、正確にどれくらい延命したかについては依然として不確実性が非常に高い。

情報の欠如に加え、効果に対する推定コストが、NICEが通常許容範囲内とみなす値よりも高かった。

「NICEは来月この決定を見直しますが、われわれは英国NHSと製薬会社に対して、見直しまでに本剤をNHS患者に利用可能にする方法を探すべく協力を要請します」とGray氏は付け加えた。

NICEの決定は通常ウェールズや北アイルランドでも同様に承認される。スコットランドではどの薬剤がNHSの助成を受けるべきかについては、スコットランド医薬品コンソーシアム(Scottish Medicines Consortium)で別途決定される。

唯一の分子標的薬ではない

卵巣がんや婦人科がんの成人患者を対象に試験が行われているPARP阻害薬は、ルカパリブだけではない。

別のniraparib(ニラパリブ)は、ルカパリブと同様の方法で作用し、これまでにプラチナベースの化学療法を2サイクル以上受けたことがある患者は英国抗がん剤基金(Cancer Drugs Fund)を通じて利用可能である。承認されれば、ルカパリブはこの患者集団におけるさらなる選択肢となりうる。

さらに3つめのPARP阻害薬であるオラパリブは現在、BRCA遺伝子の一つが欠損しており、プラチナベースの化学療法を3サイクル以上受けた患者が利用可能である。この決定については現在NICEにより見直しが進められている。

参考文献
NICE (2019) Rucaparib for maintenance treatment of recurrent platinum-sensitive epithelial ovarian, fallopian tube and peritoneal cancer that has responded to platinum-based chemotherapy [ID1485]

翻訳担当者 太田奈津美

監修 斎藤千恵子(薬学、毒性学/テンプル大学)

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